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さて、そんなわけで王太子の婚約者となったわたくしには、聞くも涙、語るも涙の日々が待っていた。
王太子妃としての教育とかは厳しかったけど、まぁそれはいい。
勉強は、さほど嫌いじゃない。
武器が増えると思えば、ラッキーラッキー。
忙しくなって、プライベートな時間が減るのも予定通り。
まぁ受け入れられる。
けれど、王太子と婚約してから、ミハエルの態度がさらに硬化してしまったのだ……!
これを嘆かずに、なにを嘆けばいいのっ。
ほんとね……、朝夕のお食事は一緒なんだけど、しゃべりかけてもそっけないの。
「今日、なにしてた?」
「誰と遊んでたの?」
なんて漠然と聞けば、「別に、普通です」「クラスメイトとです」なんて素っ気ない返事ばかり。
具体的じゃないのがいけないのかと思って、
「そういえば、馬術のお稽古でほめられたんですってね」
「アントニオ先輩が、ミハエルの魔力について褒められていたわ」
なんて言っても、「誰から聞いたんですか?」「アントニオ先輩は女癖が悪いから、近づくべきじゃないと思います」なんて冷たい視線とともに言われて、会話終了。
お姉ちゃん、泣くよ?
泣いちゃうよ?
なんでかなぁ?
むかしは冷たいと言っても、わたくしと一緒の時間を減らしたり、ベタベタしたりするのを避けてただけだったのに。
いつのまにか、こんなに冷たい言葉と視線を投げるようになっちゃって。
……なんてね。
実は、ミハエルが冷たくなった理由の心当たりなら、あるんだよねー……。
なんと、わたくしが、ミハエルのことを好きになっちゃったからです!
それも異性として!
じゃーん!!
……なんてね。
はは、ははは。
もう笑うしかないっていうか、泣きそうっていうか。
いや、初めはね、ごく普通の姉弟としての愛情だったんだよ。
かわいい、かわいいって言ってたけど、気持ち的には庇護欲がほとんどだったし。
たまにペット的にかわいがってたり、母性愛っぽいのは混ざってたけど、まぁ純粋にかわいいなぁって感じだった。
なのに5年前、ラザンとの婚約の時からミハエルとちょっと距離を置くようになって。
剣のお稽古のせいか、体つきが男性っぽくなっていって。
魔力のお稽古のせいか、性格も落ち着いて、精神的にも強くなってきて。
家ですれ違ったり、ふと触れたりするたび、どきどきするようになっていて。
気が付いたら、ミハエルのことを目で追うようになっていた。
きっと、ミハエルには、そんな気持ちバレちゃってるんだ。
だから「姉」のくせに、異性として自分のことを見るわたくしのことを避けているんだ。
こんなふうに「弟」のこと、好きになっちゃダメだった。
しかも、ミハエルは乙女ゲームの攻略対象。
来年、ミハエルが15歳の時、ヒロインが学院に転入してくる。
そうしたら、きっとミハエルはヒロインと恋に落ちる。
いやだぁあああああ。
そんなの、いやだよぉおおおお。
考えただけで、辛い。
辛くて、のたうちまわりたくなる。
でも、ミハエルが誰かと恋をしたり、結婚したりっていうのは避けられない未来なわけで。
相手がヒロインじゃなくても、きっとその時は、もうすぐ訪れるんだろう。
わかってる。
だから、その時がきたら、どんなにつらくてもミハエルと彼が選んだ人のことを祝福する。
ミハエルには、幸せになってほしいから。
だから、それまで。嘘つきの「姉」でいさせてください。