第6話 午後の魔法試験
ついに午後の実技試験が開始される。ケイルを含む受験者達は屋外の、特別な時に使われる魔法用競技場に集合するとそれぞれ2組に分ける。これも偶然かケイルとアラフトとメティールと、さらにユハスムとジンバとラギが一緒に組になっていた。そしケイル側受験者達の所に無精ヒゲを生やしサングラスの見るからに危険な雰囲気を漂わせる黒髪の男がやって来た。
「俺が嫌々ながら実技試験でお前達の担当になった元魔導6士隊、4隊長のゼロス・バリだ。分かったかガキども!」
そんなストレートに嫌々と発言したのでこの場の受験者全員はゼロス・バリに引いたりする。
「おいコラ!引くくらいだったら、根性見せて合格してみやがれ!!」
ゼロスが怖い顔をしながら大声で喝を唱えるので受験者達はもっと引いたりした。だが、すぐに切り替える。
「じゃあ、さっそく実技試験を始める前の準備だ」
指を鳴らすと待機していたアシスタント達が杖をかざすと、フィールドに用意した大き目なボール状の的10個が浮かんだ。
「この試験は簡単だ。まずコイツらの重力操作で浮かべたこの的を、お前らが得意な魔法で撃ち落とせ。または魔法のアピールやパフォーマンスなんかをしても構わんからな!」
実技試験の説明が済むと受験者達とゼロスは一度フィールドの外側に出る。それからゼロスは受験者達の資料を出す。
「じゃあ、呼ばれたら返事と一緒に移動して始めるぞ。まずは、ユハスム・セドだ」
「おぅ!」
最初に呼ばれたのでユハスムは返事しながらフィールドの真ん中に入る。
「俺もお前と同じ平民だが、このレベルか…」
「おぅ!自分で言うのもなんだけど俺、魔法の腕に自信があるんだぜ♪」
強い自信で余裕の笑みを見せるユハスムは、両手の手袋を外すと掌と手の甲には魔法陣が描かれていた。
「そんじゃあ…見せてやるぜ!!」
気合いの大声を上げたユハスムは右の掌に描かれている魔法陣から風を、さらに左の掌にも描かれた魔法陣からは水が発射された。その2つは勢いよく発射されて見事、目標の的に命中させる。そのまま他の飛び回る的にも百発百中で命中した。これにはケイルはもちろん周りの人達は驚きながらも見とれてしまう。
[ユハスムさん…まさか魔法陣で風と水の二重元素属性だったなんて!]
魔法は詠唱や呪文以外でも発動できる。
たとえばユハスムのような手や物に描かれた魔法陣を使う方法や、ヒハナのように杖や剣といった道具や武器の使用。他にも髪の毛や草や花など物体の代償や、特定の動きでも魔法が発動可能。
そして魔法はそれぞれ属性というものがあって、普通なら1つだけだが複数存在する場合もある。
「ほ~~~筆記はギリギリだと聞いていたが、魔力だけでなく魔法のキレも高いな」
ゼロスに高評価を受けてユハスムはご機嫌そうに外側の列に戻る。
「このまま続けるぞ。分かったか!」
「「「「「はい!!!」」」」」
それから新しい的を用意して再び他の受験者達も呼ばれた順番に魔法を発動した。
「せせらぎの水の槍を貫け!」
「バライ!」
「土の意志と力を持って打ち砕け!」
「ベゲム!」
「はっ!」
「ふんっ!」
それぞれ詠唱や呪文に魔法陣と杖などで魔法を発動し、的に狙ったりアピールしたりしていった。
しばらくするとジンバの番になる。
「よっしゃ!今から俺の魔法を見てろよな!」
さっそくフィールドに入ってポケットから、鉄の釘を5本出して口に銜えると、ジンバの全身から電流が出始める。そして両手から大きな雷が放たれて的だけでなく周りの地面も黒焦げにした。
雷が放ち終わった途端、口に銜えた釘が5本とも崩れた。
[釘を代償の雷魔法…威力もコントロールも良いけどこれは…]
「ん~~~受け狙いの可能性もあったようだが、1回に5本はなんだか燃費悪いな?」
ジンバの扱う魔法の代償に燃費が悪いと感じたらしく、少しケイルとゼロスが呆れてしまう。それから次がラギなのでジンバとすれ違いながらも声をかけた。
「ジンバ、相変わらず無駄が多いよ?」
「うるせぇよ。それより自分の心配をしろよな?」
「言われなくても」
返事を返したラギはポケットから、薬品らしき液体の入った小瓶を取り出す。さらにその液体を地面に少しかける。
「では、始めます」
するとラギが液体で濡らした地面に触れた瞬間、地面から土の槍が何本か出てきて的を突き刺した。
[錬金術だ!ラギさんって錬金術が使えたんだ]
錬金術は薬品を使って如何なる物質をコントロールできる魔法技術。これには調合した薬品と物質の構造に、精密な魔力の量などが不可欠。
全ての的を正確に貫くと槍は崩れて元の土に戻ったら、ラギは体力が消耗したかのように大汗をかいて息切れもしていた。
[こっちは魔力消耗が激しいようだな?まぁ…こんなのを創り出すんだから、無理はないかもな?]
「ちょっと…張り切りすぎたかな…」
終わったラギも列に戻って続けた。それから昼休みにケイルに絡んだグーダベ達も含む受験者が詠唱や呪文に魔法陣に代償と魔法を披露する。
そしてアラフトの番になると、一斉にして受験者達が口を開いて盛り上がり始めた。
「あの人、鷹のクラス長のリアトリさんの妹らしいよ?」
「しかも兄さんも鷹のクラス長で、魔導6士隊の元部隊長みたいだし」
「私…リアトリさんのファンなんだけど、妹さんもなんかいいですね!」
じつはアラフトの兄と姉は郊外でも知られている程の有名人で、とくに姉のリアトリは男子だけでなく女子にも大人気らしい。ここでさっそくアラフトの試験が始まった。
「メルゲ!」
呪文を唱えた途端、アラフトの周りに多数の火の玉を出した。
「ヤルム!」
続けて別の呪文で火の玉は、火の矢になって的に目掛けて放って、的の半分を命中させて燃え上がった。
「続いてジャビガ!」
また別の呪文を叫ぶと燃えている炎が繋がって、それはまるで蛇の形になって残りの的を1つずつ食べていき。最後の1つを食べた途端に燃え上がって消える。
こうしてアラフトの魔法が終了すると周りから拍手と歓声が広がった。
「うぉぉぉ!スゲェぞーーー!!」
「キャーーー素敵!!」
「最高です!アラフトさん!」
周りの反応にアラフトは照れ笑いしながら列に戻った。
「流石だね」
「もう、止めてよね…」
だけど、ケイルに褒められると顔をもっと赤くなってしまう。それから次はメティールの番で剣を抜くと一度深呼吸をする。
「では…参ります」
メティールが剣を構えて体を1回転させると、なんと姿を消えてしまった。
「消えた!」
「一体どこに?!」
驚いた受験者達が辺りを見回すとケイルが上を見上げる。
「あっ、あれは!?」
ケイルが指を刺した方向には、上空に落下するメティールの姿だった。しかし落下にもかかわらず剣に魔力を溜めていき。
「魔法剣技、空削斬り!」
剣を一振りすると3個の的が削り取ったかのように消滅して、メティールはそのまま華麗に着地した。さらにまた剣に魔力を溜めて
「魔法剣技、移剣!」
今度は3回剣を振るったら残り的が全てメティールの所に集まる。それから剣を大きく縦に振りかざした途端に、全ての的と一緒にフィールドの地面も少しだけ斬られて消滅した。この光景には周りの受験者達は声を上げられずにいた。
「魔法剣技……消斬撃」
こうして剣を鞘に納めたメティールは、そのまま普通に列に戻った。そしてケイルはメティールの使った魔法を理解する。
[凄い…あの空間魔法を、戦闘用に特化している!]
元々空間魔法は本来、人や物の移動や戦闘のサポートに使うのが殆ど。しかし先程メティールが使っていたのは、空間と一緒に物体も斬ったり削ったりとかなりの戦力的になっていた。
「ほぅ、戦闘用の空間魔法か…」
ゼロスが面白いものが見られたとニヤリと笑いながらも次に進む。それから受験者達の魔法が披露されて最後の1人となってしまった。
その最後の1人というのは
「じゃあ、最後は…ケイル・サグバラムトだ」
「はい!」
それがケイルだったが大きく返事してフィールドに入る。
「アイツ、たしか魔力測定で0出したらしいぜ?」
「そうみたいだな」
「どうしてそんな奴が此処に?」
「全く……来るなって話だな」
魔力検査の時のように受験者達が次々とケイルに対する陰口や悪口が連発し続ける。だけど、そんな事をいちいち気にする訳にはいかず。見守っているアラフトの顔を見て少し安心しながらも、今自分のやるべき事をするのであった。
「では……いきます!」
ケイルは素早く四角の魔法陣を描いて妖導門を開く。
「魔法陣!」
「なんだあの魔法陣は!?」
「てか、アイツ魔力がないはずだろ!」
[まさかあれは…]
突然の妖導門に受験者達が驚愕してしまうが、そこから志俱刃と紗田粋が召喚される。しかしなぜか志俱刃はどんぶりと箸を持っていて、おまけに紗田粋は右手にハンバーガーを左手にジュースを持っていた。
「なにやってるの…2人共…?」
「いや、なにって昼メシを食ってたんだよ…」
「私もうどん屋でこのうどんを啜ってたのだ。しかし妖導門が出たからな」
そう言いながらうどんを啜る志俱刃とハンバーガーの残りを一飲みにする紗田粋。これには当然、気になったゼロスは尋ねた。
「おい…なんだ。コイツらは?」
「ええっ…と…彼らは妖魔で僕の使い魔っていうか…仲間っていうか…友達っていうか…」
少し苦笑いをしながら質問に答えるケイル。その隣ではうどんの汁やジュースを飲み干す志俱刃と紗田粋。頭を軽くかきながらも、とりあえずゼロスは2人の妖魔に声をかけてみた。
「じゃあ…2人に尋ねるが、お前達はどんな得意技が出来るんだ?」
「「得意技?」」
「そうだ。とりあえずお前らの得意技で、あれを狙ってみろ」
空中に浮かんで動き回る10個の的を見せながら2人に聞いてみる。
「要するに、俺達であれを撃ち落とせばいいって事か?」
「うん…じつはそうなんだけど」
「いきなり呼び出されてなんなのかと思えば…でも、ダチの為に一肌脱ぐか♪」
紗田粋が背中の翼を広げて上空の的にロックオンする。
「ウインドスピア!」
そして翼から羽をダーツのように投げ飛ばし命中させて、見事に全ての的を撃ち落とした。
「こんなものか?」
「ああ、そうだな…お前は?」
今度は志俱刃にどんな能力があるのか尋ねてみる。すると剣を抜いてゼロスに剣先を向けて睨んだ。
「生憎、私は見世物になるつもりはないが…」
「……ほ~~~随分とご立派だな。さっきの奴と違って」
「おい!それどういう意味だ!」
「まぁまぁ、落ち着いて!」
ゼロスの発言が気に入らなかったのか、怒っていちゃもんをつける紗田粋。でもケイルが怒る紗田粋を落ち着かせようとした。そしてしばらく志俱刃とゼロスはお互い睨み合った。
「……くく」
だが、しばらくするとゼロスは軽く笑った。
「ん?何がおかしい」
「いや、アンタの気迫…気に入ったよ。もうそれで十分だ」
「そうか…じつは私も貴様の殺気に少し参ったところさ」
志俱刃も少し笑いながらゼロスと握手する。目と気迫と殺気で戦った者同士の友情が生まれた瞬間であった。
「ところで、2人はもう帰る?」
「ああ、このどんぶり返さなきゃいけないし。金も払ってないからな」
「俺も妖魔の親友を待たせてるからな」
「そっか、何かゴメンね」
「良いって事さ。また用があったら呼んでよね」
「もちろん!」
妖導門を再び開いて2人はそのまま帰っていった。
[まさか…コイツはやっぱり伝説のサモンか?]
[ケイルくん…あのサモンが使えたなんて?!]
どうやらゼロスとメティールはケイルが使っていたのがサモンだと気づいていた。それから彼らも同じ。
[おいおい…アイツってあんなにスゲェもんを?!]
[あれが切り札って奴か!]
[未だに信じられないね]
ユハスムとジンバとラギの3人もケイルのとんでもない切り札に驚きを隠せない。
「さてと、これにて実技試験終了。各自、仕度して帰る事」
「「「「「じゃあ、ねぇぇぇぇぇぞ!!!」」」」」
試験が終了となったが受験者達は大声をあげて非難した。
「なんだよそれは!?」
「こっちは全然理解出来ねぇんだよ!」
「大体、そいつは全然やってないだろ!?」
「そうだ!ルール違反だ!」
受験者の半分が納得いかずに抗議する。たしかに魔力がないとされたケイルが、魔法陣を展開して2人の妖魔を呼び出したのだから当然であった。
「うるせぇ!!とにかく、実技試験は終了!全員帰っても良いぞ。分かったか!!」
「「「「「はい……すみません」」」」」
しかしゼロスが無理やり終わらせたので、その気迫にさっきまで騒いでた受験者達は謝罪した後に黙り込む。
こうして全ての入学試験が無事に終了した。
今回は各キャラの得意な魔法とその使用方が披露されました。色々と考えて少し苦労しました。