第2話 禁断の究極魔法、サモン
今回の話は、プロローグの志俱刃と紗田粋が四角い魔法陣に突入するところから繋がっています。
美しい月の光が輝く中、ケイルは未だに眠る様子はない。
[どうして…僕には魔力がないんだろう]
ケイルは自分が魔法を使えないまま過ごすのかと思うと、全然眠る気になれずに落ち込むばかり。とりあえずベッドから降りて、本棚から一冊選ぶと月の光だけで読み始める。
そこにはさまざまな魔法の種類や属性が書かれている。風や火や水といった元素を使ったものや、さらには呪術と錬金術なども載っていた。しかしそんなの自分には意味がないと分かっていて、本を置いて再び横になる。
[別に良いよ。どうせ…]
また自暴自棄になってケイルは涙を流した。
「…ん…あれ?」
だが、いつのまにかアラフトから貰った、ブレスレットの黒い石が点滅してるのに気づく。さらに玄関の呼び鈴が為る音がした。
[ん?]
音を聴いたケイルは上着を着て部屋を出てみる。階段から玄関を見てみると、泊まっていたヒハナが一足早く玄関に来て扉を開けた。
「はい、どちらさまって…ザグドナさん?!」
扉の前にはかなり汗をかいたザグドナがいた。
「どうしたの?そんなに慌てて?」
「大変な事が起きた…」
「た…大変な…事…?」
なにやらとても深刻な様子のザグドナは口を開いて答える。
「アラフトが…いなくなった!」
「ええっ!?」
[えっ…アラフトが!?]
驚くヒハナだったが一番衝撃を受けたのはケイルだった。
「私が少し外に行っている間に…窓が割られてアラフトがいなくなってた。恐らくさらわれたと思う」
「そんな…もしかして犯人は身代金?」
「うちは中級だが…それなりに財産は多いからな。だが、相手は本当に身代金目的なのかどうか?」
ザグドナは犯人の目的は何なのかと頭を悩ませた。そしてケイルも自分はどうしたらいいのか考え始める。
[どうしよう…早くアラフトを探したいけど…]
魔法の使えない自分はどうする事も出来ない分かってた。しかし今の今までアラフトが守ってくれて、おまけに彼女とはしばらく会えなくなってしまう。こんな形で別れるなんて考えられないと判断した結果。
「叔母さん、ザグドナさん!」
「え?」
「ケイル…」
ケイルは階段から降りて2人に近づく。
「僕、今からアラフトを探しに行くよ!」
「なに?」
「ちょ、何を言ってるの危ないでしょ!?」
ヒハナは危険だと言ってケイルを止めようとする。だが、ケイルの目は本気だった。
「悪いけど…決めたから…」
「ケイル、待ちなさい!?」
「そうだ止せ!」
「叔母さん…ザグドナさん、本当にごめんなさい!」
止める2人を振り払い屋敷を出たケイル。さっそくブレスレットの黒い石をかざして、アラフトのブレスレットの反応を探す。
そして森の方を向けると、黒い石は感知したかのように少し光を強める。
[やっぱり…犯人が隠れそうなのは森だな?]
ケイルはすぐ黒い石を頼りに森に走った。
そして森の中では、アラフトが魔力低下の呪術が施された鎖に縛られている。その周りには5人程の男が立っていた。
「一体何すんのよ!」
アラフトは強気な態度で男達に向かって叫んだ。
「もちろん、アンタを誘拐したんだよ。と言っても…身代金が目的じゃないけどな」
リーダー格の顔にたくさんの傷がある男が質問に答えて、続けてその理由も話しだす。
「俺達はちょっと昔、アンタの兄貴に組織潰されてなぁ…まぁ、俺も含んだこの5人は逃げられたけどな」
じつはこの盗賊達は、かつて魔導6士隊だった頃のザグドナに討伐された盗賊団の生き残り。
「つまり、アンタ達は兄さんに復讐する為に?」
「まっ、そういう事だな」
「バッカじゃないの!人質を使って復讐って、ただの臆病者じゃないのよ?大体そんなセコイ事を考えるからアンタ達は兄さんに負けるのよ!」
アラフトは盗賊達の計画に呆れながらも罵倒した。するとリーダーは左手の人差し指を、アラフトに向け低い声で叫ぶ。
「ビリム!」
呪文と一緒に指先から雷の弾丸をアラフトの顔の横を撃った。
「え?」
恐る恐る地面を見てみる。そこには焼け焦げた跡を残し弾丸サイズの穴が出来て、黒く焦げ臭い煙が出てた。盗賊のリーダーは本気のようで、これにはアラフトは思わず冷や汗をかいてしまった。
「言っとくけどよ。俺達はたしかに奴に復讐はしたいけど、本気で倒したいわけじゃないんだぜ」
「ど…どういう…」
「つまりだ。あの男が妹1人を守れないって事を思い知らす為なんだぜ!」
「ああっ!?」
その瞬間、盗賊の1人がナイフでアラフトの上着を斬り始めた。
こうして上着が全て斬られて上半身がブラだけになってしまう。さらに盗賊達の目つきも嫌らしい方向に変わる。先程、強気だったアラフトはこれから何されるか怖くて震える。
「い…一体何を…」
「だから、あの野郎に妹が穢れたと知ったら、どんな顔でショックを受けるのか?」
リーダーはアラフトの太ももや腹部を触ったり舐めたりする。アラウトはさらに恐怖を感じて涙を流し始めた。
「いや…止めて…!!」
「くくくくく…その顔、見たかったぜ」
そしてついにアラフトの下着に手を付けようとした瞬間。
「見つけた…!」
「「「「あ?」」」」
「「「「おっ?」」」」
「ケイル?!」
突如、林からケイルが現れる。あれからずっと、黒い石を使って森を突き進んでアラフトを探していたのだ。
「なんだ、このガキ?」
「ああ、たしか行方不明の領主の息子で、魔力のない出来損ないだっけ?」
「そうそう、ある意味レアだな?」
「しかし女みたいな顔だな?でも、俺そんな趣味ないし」
盗賊達はケイルを見るや否や笑い出す。笑われるには慣れてるケイルだったが、そこにアラフトが危険な状態だと分かるとそうはいかない。
「お前達、アラフトを放せ!」
ケイルが勇気を持ちながらもアラフトを助け出そうと盗賊目掛けて走り出した。
「風よ…砲丸の如く射て!」
「うわっ!?」
「ケイル!!」
しかし盗賊の1人が魔法発動の詠唱を唱え、風を濃縮した砲丸をケイルに目掛けて発射した。ケイルは木に強く激突してしまい。あまりの激痛に動けずにいると盗賊が4人近づく。
「全く、魔力無しのゴミクズが出しゃばるなよな?」
「アラフトを放せ…」
「うるせぇぞ!このガキ!」
「うぐっ!!」
「見せしめだ。殺さずにやるぞ!!」
そう言って盗賊達は容赦なく、ケイルを殴る蹴るといった暴行を開始しする。なんとか耐えようとするケイルだったが、意識が遠のいてくるのは時間の問題だった。
これを見たアラフトはもっと涙を流して盗賊達にお願いする。
「お願い!アタシはどうなってもいいから、ケイルは!」
「そうはいかねぇぞ。此処を見られたからな」
「そ…そんな…」
「まぁ、恨むならテメェの兄貴を恨めよな?くはははははは!!」
絶望するアラフトに、この表情を見たかったというようにとリーダーは大笑いをした。
「ぐおぉぉぉぉぉぉ!!」
だが突然、大きな雄叫びが聞こえた。すると森から猪の鼻をした熊のような獣が2匹現れる。
「げっ、イノシクマ?!」
イノシクマとはこの辺りの森に生息して猪の嗅覚と、牙を組み合わせた凶暴で獰猛な熊型のモンスター。ちなみにモンスターとは普通の動物が魔力に目覚めて突然変異した怪物の呼び方。普通の熊よりも素早くて力もあって、おまけに魔力には敏感なので魔法が発動した時には相手が先に喰われてしまう事が多い。夜行性で昼間は寝ていることが多いが、夜になると活発になって獲物を手当たり次第に襲ったりする。
「まさか、この騒ぎに来たのかよ…全くついてないぜ!」
すぐに魔法で二匹を倒そうとするリーダーだったが、1匹のイノシクマが魔法発動の前に爪で切り裂いた。
「なっ、そん…ぐほっ!!」
さらにもう1匹に腕を銜えるとそのまま引き千切られる。よってザグドナの復讐を企んだ盗賊リーダーは、無惨にもイノシクマにズタズタにされ喰われてしまう。そして辺りにはリーダーの血が飛び散って、これには他の盗賊達も怯えて腰を抜かした。
「リーダーが喰われた…」
「に…逃げろ!」
盗賊達4人は体を引きずるかのように逃げ出す。この隙にアラフトはなんとか起き上がって、全身に打撲と痣だらけになったケイルに駆け寄った。
「早く、この隙に逃げよう」
「そう…したいけど…痛っ!」
動きたくてもケイルは痛みで動けずにいた。そしてイノシクマのターゲットが、ケイルとアラストに変わった。気付いたケイルはすぐさまアラフトの鎖を解こうとする。
「アラフト、君が早く」
「嫌だ!アタシはケイルと一緒に」
どんどんとイノシクマは2人に近づいてきている。
最早、絶体絶命のピンチだった。
[お願い…こんな僕だけど、力を]
拳から血が出る程に握りしめながらケイルは願った瞬間。
[えっ?なに…指が]
突如、ケイルは自分の意志とは無関係に指で宙に四角形を描いた。しかも描かれた四角形は魔法陣となって、そこから2つの影が出てくると魔法陣は消えてしまう。
出てきたのは頭に2本の角が生えた志俱刃と、背中から翼が生えた紗田粋。此処とは異なる別世界で、同じ四角い魔法陣に突入した2人組がこの世界に召喚されてきた。
「君…達は?」
「私は“妖魔”、鬼の志俱刃」
「そして俺も“妖魔”でグリフォン、名は紗田粋だ。んでもって、アンタが俺とコイツを呼び出したのは?」
「“妖魔”…僕が、呼び出した?」
“妖魔”。
それは“妖界”と呼ばれる異世界に住む異形の魔物。姿形は多種多様で特殊な能力と技術を持ち。さらには高い身体能力と回復能力を持っている。
[呼び出した…まさか、これって禁断魔法の?!]
ケイルは前読んでいた本である魔法が書かれているのを思い出した。
全魔法の中でも禁断であり究極と言われた魔法。
その名は“サモン”。
即ち、妖界から妖魔を召喚し契約し戦わせるもの。そして妖魔を召喚する者は“サマナー”と呼ばれる。
「グオオオォォォォ!!」
しかし、そんなのをお構いなしにイノシクマが大声をあげて突然現れた2人に威嚇し始める。
「なるほど…とりあえず、あの猛獣を退治した方が良いな」
背中に装備した剣を抜いた志俱刃にイノシクマは鼻息を荒くして、爪と牙を輝かせながら襲い掛かった。
「危ない!?」
「心配…ご無用!!」
志俱刃は剣を軽く振り下ろすとイノシクマは縦に一刀両断された。しかも剣には血が一滴も付いていなかった。即ち、血が付く事が出来ないくらいに速く斬ったという事になる。これにはケイルもアラフトも驚きを隠せない。
「す…凄い…」
「あの凶暴なイノシクマを」
「さてと、俺は残りをやるかな?」
それから紗田粋もイノシクマの前に立つ。イノシクマは仲間を殺された事に怒っている。
「へ~~~随分とやる気ありそうだな?だったら期待に応じるか!」
すると突然、紗田粋が背中の翼を広げて一度体を包む。1分経つとその翼を広げた瞬間、巨体で鷲の上半身と翼でライオンの下半身になっていた。
これこそグリフォンである紗田粋の本来の姿。妖魔には志俱刃のように初めから人の姿のもいるが、紗田粋のように獣型から人型に自由に変身出来るのもいる。
「へ…変身したの?!」
「もしかして…あれが彼の本来の姿?」
元の姿に戻った紗田粋に2人は再び驚いたりするが、それでもイノシクマは睨みながらも威嚇を続ける。
「この姿でも、その威勢か?だが、本気で俺と殺せるのか?」
すると紗田粋は両目から鋭い眼光と一緒に、強い殺気を纏いながらも睨み返す。その眼光に負けたのかイノシクマは体を震わせて、怯えて動けずに石のように固まっていた。
「お?怖くて固まったか?だけど、いただきます♪」
固まったイノシクマを、紗田粋はそのままクチバシに頭から銜えて一気飲みにした。
この光景にはケイルもアラフトも目を丸くするしか出来ずにいる。寧ろ、他にどんな反応が出来るのかはっきり言って難しい事。
「んぐ、んぐ、ゴクンっ!ごちそうさん♪」
満足したかのように紗田粋は笑顔で発言した。改めてケイルはとんでもない事になったと自覚する。
ケイルはサモンという妖魔を召喚する魔法が使えるようになりました。
ちなみにこれから続々登場する妖魔は、「心の鎧甲」に出てくる妖怪のように獣型から人間型に変身も可能で、さらに妖魔の数え方は1人・2人な感じにします。