第31話 梟クラスのみんな
パクラロスの襲撃から4日が過ぎて、ソーサリーガにひと時の平穏が訪れる。昼休み、ケイルはこの日を楽しみにしていた。
「さっき連絡が来たけど…」
とてもそわそわしながらもケイルが大図書室の中で誰かを待っていた。
「ゴメン、今ようやく見つけたところだったの」
その相手が禁断書の間から出てきたミクスで右手に本を持っていた。
「ありがとうございます。これが」
「そう、これが禁断書の間で保管されてるサモンに関する本よ」
ミクスが持ってきた本は【サモン・真書】。その名のとおり、他のとは違って完璧にサモンの歴史とかが、色々と書かれている資料本。
「本当に感謝してます。こうして貸し出すことができるなんて」
「まぁ、この前のパクラロスの事があったからね。お礼は先生達に行った方がいいわよ」
じつはパクラロスの一件でケイルの妖魔達の活躍も評価されて、こうして禁断書の間から【サモン・真書】を読むのを許可された。
セリシアからも今後の妖魔の事もあるので、調べる方がいいとのことらしい。
「だけどね。本来あそこの本は上級生しか貸し出すことも、読むこともできないから時間は5分だけだからね」
「はい、そうします」
そのまま椅子に座ってケイルは読み始めた。
「サモン。それは異界から妖魔と呼ばれる異形を召喚して使役する魔法。かつて魔女が魔法を開発・発展が進んでいた時代。突然現れた異界の魔物・妖魔が出現」
本によれば大昔に魔女が妖界からこの世界に転移して来た妖魔と出会った事から始まったと書かれている。
「妖魔を元の世界に返す為に作り出し、魔女達は送り返す時空間関係の魔法を作った。けれども、魔女は妖魔の力を気に入って使い魔の契約を加えることに成功。故に異界から妖魔の召喚と使役が可能なサモンが完成した」
読む限りサモンは魔女が妖魔を元の世界に返す為に作った魔法。だけど、そこから妖魔と契約して呼び出すようにと改良が加えられて、今の使い魔という形となった。
「やっぱりサモンは元々魔女が作ったものか…ん?」
するとあるページにサモンの魔法陣図形が、なぜか3つ載っていた。1つ目はいつも使っている妖導門の魔法陣だか、2つ目と3つ目は見たことのないモノ。前に家に合ったサモンの本にも載っていないのだった。
「なんだこの魔法陣は?」
2つの魔法陣に気になっている時に、いきなり自分のポケットから音が鳴り始めた。
「うわっ!?スマデ?」
それは一昨日、那玲から貰ったスマデからの音。当然、周りは突然の着信音でケイルを睨みつける。さらに怖い顔でミクスが近づいて
「悪いけど…なんか騒がしくしたみたいだから、今回はここまでって事で」
「……すみません」
頭を深々と下げてケイルは本をミクスに返すと、気まずそうにそさくさと図書室から出る。それからスマデを取り出して画面を見ると、発着先は紗田粋みたいなのでかけてみた。
「もしもし」
『よぅ、ケイル。てか、どうした?気分悪そうな声で…』
「だって、人が本読んでいる時に電話がかかって来たから…みんなに睨まれて」
『あ…そうなんだ。ゴメン…』
なんだか申し訳ない感じで謝る紗田粋。
『それで、今日バイトないからあっちの世界に行くけどいい?』
「うん…良いけどちょっと場所を変えるから」
すぐにケイルは屋上に行くと妖導門を開いた。そこから紗田粋が出てきたが、なぜか右手に袋を持っている。
「本当に悪かったな。読書中に電話をかけて」
「全くだよ。とても気まずくなったから…ところで、それは?」
やっぱり気になったのかケイルは紗田粋の持っている袋について尋ねた。
「これは、妖界の菓子でポテトチップスっていうんだけど…後でみんなで喰おうと思ってな」
「へ~~~お菓子ね」
袋にはポテトチップスが5袋入っていた。するとケイルはもうすぐ昼休みの時間が、終わるのに気がつく。
「とりあえず、一緒に教室に行こう。午後はずっといるんでしょ?」
「そうだな。屋上で寝るって手もあるけど、すぐに飽きるかもな」
こうしてケイルは紗田粋を連れて教室に向かった。ちなみにパクラロスの一件で、梟クラス1年の教室の端には紗田粋達、妖魔の席が作られた様子。
午後の授業が行ったが、ただ紗田粋が席に座って寝てた。
「まっ、こうなると思ったけどね」
ケイルもこうなることは分かってたけど、恥ずかしがってしまう。
それでも午後の授業が終わって梟寮の食堂で、みんなでさっそく紗田粋が持ってきたポテチを食べる。
「芋を揚げただけの菓子みたいだけど……こっちの方が美味い」
妖界のポテチをかなり気に入ってるジンバ。
「なぁ、ここの生徒が殺されたけど、大丈夫なのか?」
パクラロスの事件で蟷螂クラスのフドが殺されたことに紗田粋は聞いてみる。
「うん……蟷螂クラスは今、その事で大変らしいけど」
「でもこれって、日常茶飯事らしいけどね」
ここでメティールがソーサリーガではいつもの事らしいと話す。
「はぁ、どういう事?」
「じつは、この学園を卒業できるのは八割程度らしくて、残りは退学か病院か死亡が殆どなんだ」
そもそもソーサリーガは危険な魔法訓練と研究や、モンスターの討伐に戦闘といった任務。または生徒同士の乱闘で退学されたり、病院送りになったり最悪死んでしまう事がある。
入学試験の時も死亡しても自己責任の書類を出され、サインさせられてから受ける。
「そうなのかよ…この学校でなんかヤバいな」
「まぁ、ここは危険が多いことで有名なところだからね」
ソーサリーガの事情を始めて知って、少しは引いてしまう。
「そういえば、俺達ってジンバ以外に梟クラスの奴らをよく知らないんだけど…」
「たしかにね。じゃあ、せっかくだからある程度まで紹介するよ」
ラギは紗田粋に梟クラスの生徒の説明をする。
「まずは、あっちで塗り絵しているのは色魔法・緑を使うティローク・ダンバッドと、隣で手鏡を見ながら化粧をしているのは鏡魔法のブロッド・シクランドス。俺達と同じ1年」
緑髪でポニーテールのメガネを掛けた少女は、ティローク・ダンバッド。塗り絵が好きなおとなしい性格で色魔法という、その名のとおり複数の色のうち緑色を操る事が出来る。
金髪の顔に化粧をしたオカマ・オネェな感じの少年は、ブロッド・シクランドス。見た目に反して世話好きな優しい性格。鏡魔法は愛用の手鏡から、自分や相手の分身を作ったり魔法の反射が出来る。
「それからあっちでダンスしているのは2年生の双子。兄の腕力強化魔法のベング・アスハマームと、弟で脚力強化魔法のボング・アスハマーム」
オレンジ髪が特徴の双子の兄弟で、右に髪を結んでいるのが兄のベング・アスハマーム。そして左に髪を結んでいるのが弟のボング・アスハマーム。それぞれ腕と足の強化魔法が得意で、ダンスが趣味の陽気で騒がしいのが特徴。
「そして3年生の彼女はレード・ナイムイッヒ。変身系の魔法が得意みたいだけど、何に変身するかは不明みたいだぜ」
テーブルに枕を置いて眠る紫のふんわり髪をした幼さが残る女性が、3年のレード・ナイムイッヒ。変身魔法を使い寝ることが好きなマイペースな性格らしい。
「どれもこれも一癖二癖ある連中だな」
「まぁ、これがうちの特徴かな…」
改めて梟クラスの個性が強い一部の生徒に紗田粋はそれなりに理解する。
「あら~~~さっき私のこと見てたでしょ?」
「ブロッドさん!」
だけど、ここにさっきのブロッドが近づいてきた。
「あっ、紗田粋さんね。どうも改めましてブロッド・シクランドスよ。よろしくね♪」
「ああ…こりゃあ、ご丁寧に」
ブロッドが握手してきたので紗田粋もすぐに握手をした。
「ケイルちゃんの使い魔みたいだけど、何かあったら私にも相談とかしなさいね。2人そろって力になってあげるから」
そう優しく2人にアドバイスして自分の座っていた席に戻った。
「本当に良い奴だな」
「そうだね」
それからまたケイルと一緒に風呂に入ると紗田粋は妖界に帰った。自室に戻ったケイルだけど、またスマデが鳴ったので画面を見ると、なぜか紗田粋からのメールで内容を読んでみる。
【読書中に電話してゴメン。次からはメールにするかな】
大図書室の事で、今度はメールでの連絡すると書かれていた。
「……もっとこれの勉強をしないと。えっと、音が鳴らずに振動で」
今後の為にもスマデを使いこなす為に説明書を読みだすケイルだった。
またひさしぶりに投稿しました。
今回は一部の梟クラス生徒を紹介して、新キャラはオネェなブロッド・シクランドスを登場させました。




