第30話 事件の終わりと、新しい仲間
ケイルが新たに召喚した妖魔、牙進と華与笥と那玲の協力で太事戊を倒した。そしてならず者達は殆ど拘束・捕らえたが、6人程残党が逃げ出しているのがいた。
「全く、暴れれば金が貰えるはずだったのに!?」
「強すぎるんだよ…ガキの癖に」
文句を言いながら必死で逃げる。ソーサリーガの生徒が思っていたより強くて、偽フドが死んで屍人も動けなくなったので形勢逆転された。
とにかく校舎から大分離れたところまで逃げてきたが
「逃がさないわ」
「「「「「「なっ!!?」」」」」」
ならず者達の前にセリシアが立ってこの先は通さないオーラを出していた。
「なんだ、ねぇちゃん?こっちは急いでいるんだ。遊んでやりたいが、邪魔すんな!」
6人が魔法を発動しようとしたが、素早くセリシアが指輪の魔法陣を発動。その瞬間、6人の魔法が消えた。
「なっ、魔法が使えなくなった!」
「まさかアイツ、セリシアか?!」
「セリシア…たしか無効化魔法の使い手の!」
目の前の相手がセリシアと知るとならず者達は一斉に顔色を変える。
「噂じゃあ、相手の魔法を打ち消すっていう…」
セリシアの使う無効化魔法は、その名のとおり指輪の魔法陣から放出した自分の魔力で魔法を相殺させてしまうもの。
つまりセリシアの前ではどんな魔法も無効化されて消えてしまうのだった。
「私の前ではどんな魔法も使えなくなるわ。だから、降参しなさい」
「ふざけんな!魔法が使えなくても、こっちには武器がある!」
そう言って剣を構えてセリシアに襲い掛かる。しかしセリシアは軽くかわして裏拳で残党2人の顎を殴ると、あっけなく気絶した。
「残念だけど、私は格闘には強い方よ」
「ふざけやがって!ん、おおっ!?」
「うわあああぁぁぁぁぁ!?」
すると大きなつむじ風が残りの4人を捕まえると上空に飛ばして、そのまま地面に激突して目を回しながら伸びた。しかも全身に斬り傷がある状態。
「本当にえぐいわね…アンタの風魔法は」
「犯罪者に容赦はしない。この国を守る守護貴族の騎士にとって当然だ」
風を纏った剣を持ったスバルシュがやって来た。スバルシュは風属性で、剣に風を纏って切れ味を上げてかまいたちを飛ばしたり、つむじ風や竜巻も出すことができる。
「さっき連絡しておいたから、もうすぐ騎士隊から私の部下。それと6士隊と兵士達が来る」
「あらあら、本当に手際が良いことで」
しばらくすると騎士と戦士と兵士たちが到着して、ストボムとグゴデはならず者達と一緒に逮捕された。そして太事戊の死体も回収される。
「迷い込んだ妖魔か…まさか、ケイルが召喚されたのとは別の個体か」
運ばれる太事戊を見つめるスバルシュ。
さらに偽フドの言った通りに裏山で本物のフドが白骨死体として発見されたらしい。
「まさか…うちのクラスで偽者とすり替わっていたなんて」
クドラはいつの間にか偽者とすり替えられたと知って悔しがる。
一方、蜂クラス校舎にある病棟では、今回の乱闘で怪我をした生徒達の治療をしていた。そして当然、ケイル達も今は病室にいる。
「やれやれ…まさか、相手が殺人犯の妖魔だったなんてな」
「本当に驚いたよね…」
「でも、ケイルが新しい妖魔を召喚させたのもすごかったよね」
「それは…僕も驚いたよ」
華与笥の治療をある程度受けたケイルと志俱刃達だったけど、とりあえず安静の為にベッドの上で横になっていた。暇なのでケイルとアラフトと紗田粋は会話したり、ユハスムとコエトンは爆睡中。
「はい、紅茶入れてきましたのでどうぞ」
「ありがとう。気が利くね」
「こう見えても、執事のバイトをしてましたから」
牙進が入れてきた紅茶を志俱刃とメティールとクロフが飲んだりする。そしてベッドでうずくまるモギスは
[こりゃあ…もっと面白くなりそうだな♪]
いつか勝負する相手を牙進に狙いを定めて睨んでいた。
「ん?」
「おっと、危ない危ない」
しかし傭兵の牙進はすぐに殺気を感じたのでモギスは毛布を被って知らんふりする。
「それにしても…人間の住む異世界なんて、本当に興味深いね!」
那玲は異世界という存在と、初めて見る人間に興味を持って興奮していた。ちょうどそこにトルニーがケイル達の病棟にやって来た。
「全員のお身体は大丈夫そうね。それで華与笥さん…彼らの治療をしてくれて、ありがとうございますね」
「いえ、私も医者を目指している身ですので」
トルニーは頭を下げて華与笥にケイル達の治療をしてくれたお礼を言う。
「アラフト、それにケイルくん!」
するとリアトリも慌てて入って来ると、すぐに2人に駆け寄った。そして2人の様子を見ると、少し怒った表情になる。
「姉さん…その……」
「ごめんなさい…」
なんだか気まずくなる2人。勝手に戦いに入って来て、その結果怪我をしてしまうので当然。だが、リアトリは優しくケイルとアラフトを抱きしめる。
「良かった…無事そうでね」
「あ…ありがとう、姉さん」
「僕の新しい使い魔のおかげです。えっと…牙進と那玲と華与笥」
さっそく牙進と華与笥と那玲を紹介させるケイル。
「新しい妖魔、しかも3人」
「もしかしたら、今後増える可能性もあるな」
レグも呆れながら入って来る。
「レグさんも来てくれたんですか」
「そりゃあ、一応お前達のクラス長だからな」
来てくれたことに少し驚くけども、すると華与笥はケイルに近づく。
「あの…そろそろ帰してくれない?」
「え?帰りたいのですか…」
「うん、バイトの時間もあるから」
バイトがあるという理由で帰してほしいと頼む。それに続いて牙進と那玲も
「私も帰してくれないかな?」
「こっちも、いきなり消えてきっと研究所のみんな驚いているかも」
「そうですね。じゃあ、みなさん」
2人も帰りたいと言い出したのでケイルはすぐに妖導門を出した。すると紗田粋と志俱刃がベッドから起き上がる。
「じゃあ、俺も帰るかな」
「待ちなさい。まだアナタ達は」
「華与笥のおかげで傷がきれいになくなったし、後はレバーとか喰って血を増やすから」
「それに、これ以上厄介になるのも悪いからな」
そう言って志俱刃を先頭に紗田粋と牙進と那玲と華与笥が、妖導門を潜って妖界に帰って行った。
「あらあら、帰っちゃったね…」
「仕方ないな。それよりも会議があるみたいだから、行くぞ」
「分かった」
「じゃあ、アラフトにケイルくん。お大事にね」
ケイルとアラフトの頭を撫でて、そのままリアトリはレグとトルニーと一緒に病室から出て行った。
「それにしても、今日は大変な一日だったね…」
「本当に」
「全くね…」
などとお互いに呟きながらケイルとアラフトとメティールは再びベッドの上で横になった。それから会議室では、レグとリアトリの6人のクラス長達と教師。最後に学園長のバレッサが集まって会議を始める。
「さて、今回はみんな本当にがんばってお疲れ様」
バレッサがこの場の全員に向けてお褒めの言葉を言う。
「いえいえ、ソーサリーガを守るために当然の事」
軽い性格が目立っていたビルティーラが、気品漂う態度で頭を下げる。
「それでスバルシュ。今回の事件で分かった事は」
「はい、一応部下からの報告ですが…連中は金で雇われただけのようですけども、ある組織が浮かび上がりました」
「その組織というと…」
首にかけている時計を軽く揺らしながら改めて聞きだす。
「世界中で暗躍している研究テロ組織。パクラロス」
パクラロス。
それは各国にテロ事件を起こし、違法な魔法実験と研究をする謎の組織。
現在確認しているメンバーは高い犯罪歴のある者や、違法研究で国を追われたマッドサイエンティスト。さらには金で雇われた傭兵や殺し屋にゴロツキとならず者。
「パクラロスか…噂には聞いていたが」
「連中は目的の為なら、手段を択ばない外道の集まり」
「そして今回、フドが犠牲になった!」
クドラは本当に悔しそうにしながらも拳を握り締めて机を叩いた。これを見たレグは彼を落ち着かせようとする。
「まぁ、気持ちはわかる。落ち着け」
「きっと、スパイを潜入させて、校門前で乱闘騒ぎを起こした隙に大図書室から本を盗むのが目的だったみたいね」
「ご丁寧に、昔うちで盗まれた本を手に入れて、屍人を操るぐらい準備を整えたみたいだな」
ゼロスが死霊操りの書を取り出して机に置く。
「まっ、盗まれたものをわざわざ返しに来てくれたのはうれしいが」
「なにのん気に言っている。連中は妖魔を協力者にしているみたいだぞ」
スバルシュがパクラロスに協力した妖魔の太事戊の話に切り替える。
「だけど、一番驚いたのが…」
「ケイルくんが新しい妖魔を出した事ですね」
しかしケイルが3人の妖魔を出したのも事実。それからしばらくの間、空気が重くなり。
「とにかく、今後警戒する事。セリシア」
「はい、ケイルの事ですね」
「そうだ…彼が私達の切り札になるか。それとも最悪な兵器になるか、頼んだぞ」
そう言い残してバレッサが会議室から出た。これに続いてレグ達も会議室を出ていく。
[みんなから危険な存在になっても、私は…彼を信じるからね]
リアトリはケイルの事を最後まで信じると心に誓う。
次の日。丁度、今日は休日なのでケイルは自室にいた。
「さてと、ではさっそく」
ケイルは妖導門を開くと、そこから志俱刃達5人の妖魔が揃って出てきた。しかしなぜか那玲はカバンを持っている。
「みんな、来てくれてよかった」
「ああ、なんとか時間が空いたからな。コイツらと連絡したし」
病室で紗田粋と志俱刃は、牙進達にメールや電話番号を交換していた。そして昨日、ケイルが妖導門から顔だけ出した紗田粋に、明日みんな来てくれないかと頼んだのでこうして来てくれた。
「さてと、本題に入るが…さっきのゲートを通り抜けた時点で、私達はお前と契約されたで間違いないな」
牙進がサモンによって召喚された瞬間、サマナーのケイルの使い魔になると改めて聞く。
「うん…そうなるけど」
「信じられないが…まぁ、そういうシステムなら仕方ないことになるな」
召喚されたことも使い魔として契約されたことも納得できてないが、それでも仕方なく承諾した。
「私も少し分かったけど、今後召喚されるときは私達の都合も考えないとダメじゃないかしら?」
華与笥も少しケイルとの使い魔関係を理解しているが、自分達も仕事や勉強とかの都合があるので召喚には考えてほしいと頼む。
「分かっているけど…そもそも、君達の世界と連絡を取る手段は……」
「まぁ、その事なんだけど」
すると那玲はポケットからスマデを出してケイルに手渡した。
「これって、でも…この世界じゃあ」
「分かってる。後は…」
部屋を見回して通信機を見つける。
「これって、この世界の電話みたいなものよね」
「そうだけど、こういう建物の中ででしか使えないから」
けれども、那玲はカバンから少し小さ目の箱型機械を取り出して通信機に接続。さらにはパソコンとも繋ぎ、プログラムし始める。
「良し、これでOK」
「一体何を?」
「それじゃあ、私を一度ダキ国に戻して」
「え…はい」
全員はよく分からないまま那玲は妖導門を潜る。それからしばらくすると、ケイルの手に持ったスマデが鳴った。
「うわっ!これって…」
「鳴った…でも、どういう」
「とりあえず」
いきなりスマデから着信音が鳴ったので戸惑ったりするが、紗田粋はすぐにスマデを取って操作して通話する。
「もしもし」
『聞こえた?よっしゃ大成功!』
スマデから那玲の声がすると妖導門から本人が登場。
「おい、どういうことだよ!この世界からじゃあ、電波は届かない筈!」
「そこはこの私の開発した電波周波装置を、この通信機を繋げる事で可能になったの!流石にネットとかは無理だけど、通話とメールならOK!」
那玲が作った電波周波装置は完全に電波の通らない場所で、スマデの電波を受信して通話するための物。しかしこの世界の通信機を使って、別世界同士でのスマデの通話が見事に出来た。
「私もこれは賭けに近いけど、上手くいくものね」
これには那玲本人も信じられない様子。
「だけど、これならお前と電話してどのタイミングで来れるか話出来るな」
「確かにね。えっと…呼び捨てでもいいかな?那玲、ありがとう!」
ケイルはさっそくお礼を言う。しかし那玲はなにか変な笑みを見せる。
「まぁ、とりあえずお礼は別の形でお願いしようかしら」
「え?別な形って…」
「ふふふふ、ポチっとな」
那玲がカバンのボタンを押すと、カバンからアームが出てきてケイルに飛び掛かった。
「うわっ!なにっ!?」
「なっ、なに!?」
「お前!一体どういうつもりで!」
「そのうち分かる」
当然、驚く志俱刃達とアームによって無理やり服を脱がされるケイル。何とか抵抗するが、無駄な様子。
「ううう…///」
しばらくするとセーラー服にミニスカートとニーソで、ご丁寧に髪飾りを付けたケイルの姿。元々女顔なケイルなので女装が似合い過ぎてた。そして恥ずかしそうに顔を赤くして、ミニスカートを引っ張る。
「だはははははは!女だ、本当の女の子みたい!!」
「か…可愛い」
「これはこれは…」
「あらあら、本当に可愛いわね♪」
思わず大笑いする紗田粋に顔を赤くしながら見惚れる志俱刃。さらに興味深く見つめる牙進とそれなりに気に入った様子の華与笥。
「思った通り似合ってる!私の学生時代のセーラー服がピッタリ♪」
興奮しながらスマデの写メで撮影する那玲。
「ちょっと、なんで僕がこんな格好を!」
「私、こういうの好きなのよ!初めてアナタを見た時に、確信したのよ!」
「何の確信ですか!こんなの…小さいとき以来なのに」
じつはケイルは小さい頃に、よくアラフトとリアトリに女装されていた。今となってはもうしなくなったが、こうして再びやる羽目になるとは思わなかった。
「だけど、良かったな!報酬が女装だけだからな」
「そんな他人事のように!僕の中の何かがまた失われたから!」
「とにかく、今後はアナタの為に仕えるとしましょう。お嬢様」
「もう、牙進まで!」
未だに笑う紗田粋と少しからかう牙進に涙目で怒鳴るケイルだった。
今回ようやく新作です。
セリシアが無効化とスバルシュが風の属性です。
さらに前から出したいと思っていた、ケイルの女装を出してみました。那玲は男の娘系が好きな腐女子タイプです。
次回も何とか続きを書きますので待っていてください。




