第19話 妖界の日々
学園生活4日目。
すでにソーサリーガの授業に少し慣れてきて、梟寮の食堂で朝食をとるケイル達。
「ところでさぁ、志俱刃と紗田粋の住んでいる妖界ってどんな所かな?」
メティールが2人の住む妖界の事を話題にしてみた。
「そりゃあ、化け物がたくさんいる世界なんだろ?」
「たしかに…ちょっと想像するのは怖いな」
ジンバもラギも妖界がどんな世界なのか気になってしょうがない。当然、ケイル本人も。
[志俱刃と紗田粋はどんな風に過ごしているんだろう?]
窓から空を見上げて2人の事を考える。
一方ケイル達がそんな話をしている頃、妖界にある森が多いヒガ国。
そもそも妖界とは、東西南北と中心の5つの国に分かれて、妖魔達はそれぞれ5つの国に暮らしている。
東のヒガ国は自然豊かで住みやすい国。
西のジニ国は少しだけ治安が悪い国。
南のミナ国は観光地として有名な国。
北のダキ国は意外と科学技術が進んだ国。
中心のセトラ国は妖魔帝が住む中立的な国。
当然、別の国に行く為には入国料や手続きが必要。たまにセトラ国以外で、領土を奪い合う戦争を起こすことは珍しくはない。
そのヒガ国に住む志俱刃は森の中にある家で母と兄と一緒に暮らしていた。毎朝、彼女は朝起きると兄を起こすのが日課。
「兄さん、朝だよ」
そのまま扉を開けて部屋に入ると、ベッドの上には志俱刃と同じ髪の色と角が生えた鬼の男が寝ていた。この鬼が志俱刃の兄の志俱努。
「ああ、そうか…分かったよ」
起されたので目を覚ました志俱努はベッドから起き上がると、右腕が義手で両足が義足だった。そして棚からペン型の義肢の調整用器を取り出してメンテを始める。
「やれやれ、本当に義肢のメンテは面倒だよな…」
「でも…自由に歩くには仕方ない事だから」
会話している内の義肢の調整が終わったので、一緒に部屋を出てリビングに行く。そこには少し志俱刃に少し似た顔立ちをした2人の母親が朝食を作って待っていた。
「朝食で来たわよ。早く食べて仕事に行きなさい」
「はい、母さん」
「分かったよ」
3人は朝食を食べていつも通りに剣を装備した志俱刃は、志俱努と一緒に家を出て町に向かった。
ヒガ国の町は森の中にある大都市で近代的な高い建物が立ち並んで色んな妖魔もいる。志俱刃と同じ鬼は勿論、頭が蛇で体が鳥の姿や全身が毛むくじゃらに、上半身は人で下半身が車と多種多様。
歩いている途中に青い鎧と銃と剣を装備した兵士らしき妖魔が、2人の間を通り過ぎた。志俱努はなんだか少し悲しい目をする。
「兄さん…ヒガ軍の事を思い出したの?」
「ああ…戦争のせいで俺がこんなになったからね」
ヒガ国では2つの組織が国を守っていた。まずヒガ国の治安を取り締まる警法局と、武力で国を守り戦争をするヒガの軍。
かつて志俱努は昔、ヒガの軍に入っていたが戦争で右腕と両足を失ったので、今は軍を辞めて志俱刃と一緒の職場で働いている。
「さてと、到着」
2人が着いたのは大きな建物で中に入と、そこにも妖魔がたくさん。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
「今日もよろしく」
「おう、ロックGのお勤めがんばりましょう」
志俱兄妹が他の妖魔に挨拶する。
妖界には幻獣と呼ばれる生物が生息している。野生で凶暴な幻獣が妖魔に危害を与えないか調査と駆除をして、または絶滅危惧種の幻獣保護を行う会社も多数あった。そしてヒガ国の中でも大きく、志俱兄妹が働いてしている会社がロックG。
2人はタイムレコーダーに社員カードをスキャンして仕事を始めようとした。
「ここからはそれぞれの仕事を」
「じゃあ、私は幻獣の調査」
志俱刃の仕事は森や山に行き野生幻獣の調査と、または幻獣の駆除と保護。そして志俱努は事務的な作業。
「最近変わったよな?」
「え?」
「いや、いつもは仏頂面だったけど…少し笑い出してきたなと思って」
「…そうかな?」
などと少しとぼける志俱刃。じつは今まであんまり笑う機会がなくて仕事優先に過ごしていたけれど、ケイル達の住む世界に行ってから少し軽くなってきた。
「ヤッホー、志俱刃。おはよう!」
「間蓮!」
すると紺色の長髪で2本の短剣を装備して、アタッシュケースを持った鬼の女性が手を振りながら近づく。彼女は志俱刃の同僚で友人の間蓮。
「じゃあ、行こうか間蓮」
「うん!」
「2人共、気をつけてな」
志俱努に見送られながらも2人は駐輪場に停めている。ロックG専用のバイクに乗って、これから調査する森に向かった。
しばらくして目的の森に到着するとバイクを停めて降りた。
「さてと、では」
「待て!」
「えっ!?」
森に入ろうとした瞬間に何かの気配を感じた志俱刃。すると林から飛び出してきたのは、ギザギザの耳と長い脚が特徴のウサギみたいな生き物。
「なんだ、ラーグムか…」
このウサギに似た幻獣はラーグム。普段は警戒心が強くて、高くジャンプして逃げたりする。だけど、いざという時は長い脚で相手を気絶するまで蹴り続けて攻撃する幻獣。
ラーグムは志俱刃と間蓮を見た途端にジャンプしながら場から離れた。
「全く、本当に志俱刃はピリピリし過ぎなんだから…野生でもペットとして人気のあるラーグムだってのに」
「当然だ。ラーグムならまだいいが、ボロッパやウゴフムだったらそうはいかないからな」
間蓮は普段から融通が利かない堅物な志俱刃の性格に呆れたりする。
「だけど…最近少しゆるくなっているね?笑ったりするし」
「さっき兄さんからも言われた…」
「そう、じゃあとりあえず」
持ってきたアタッシュケースを開けると、プロペラが着いた1台のロボットが入っていた。ロボットを取り出すとボタンを押して起動させる。するとプロペラが回ってロボットは宙に浮いた。
「ヘリロート05。空からの調査を頼む」
「分かりました」
ヘリロート05というロボットが志俱刃に返事をして空に飛んだ。2人がちゃんとヘリロート05が飛んで行ったと見届ける。
「さてと、アタシはあっちだから」
「ああ、私は向こうだ」
こうして2人は森に入ると別れて仕事を始める。志俱刃が森を散策していると
「よっ!志俱刃」
「紗田粋…」
空から獣姿の紗田粋が現れると人間態になって降りてきた。
「また仕事中に…」
「別に良いじゃんかよ。そういえば…俺達が初めて妖導門からケイル達の世界にやって来たのって、この場所だったな」
笑いながらその場に座って懐かしそうに辺りを見回す。じつは2人が丁度この場所で、妖導門が現れてケイルの住む世界にやって来た。
「そうだ…そして戻った後、色々大変だったんだ」
なんでも連絡がつかない上に戻ってくる時間が過ぎたので、志俱刃と間蓮が心配させられ、おまけに上司からめちゃくちゃ怒られた。
「まぁ、契約は契約らしいけど…連絡できればなぁ」
「たしかにな?またここであれが出てきたらと思うと…」
そんな話をしているといつのまにか2人の前に妖導門が現れた。
「また出た…」
「今度は何の用だよ……」
「悪いが…私は調査を続けなきゃならないから」
「分かったよ。俺1人で行くよ」
紗田粋はさっそく妖導門を通ると志俱刃は森の調査を続ける。それから妖導門を通って出た先は梟クラス1年の教室で、ケイルはもちろん生徒全員が並んで待っていた。
「今度は何の用?」
「いや…ちょっと、クラスのみんなが召喚してみてって言うから。志俱刃は?」
「アイツは仕事中だから」
一応、仕事だからという理由で来れないとケイルに伝える。
「そうなんだ。で…紗田粋は?」
「じつは、もうすぐバイトの時間で…早く帰りたいけど」
「うん、なんか無理やり呼んでゴメンね…」
「別に謝らなくていいから、またな」
再び妖導門を通って元の森に帰った紗田粋。そのまま獣姿になって空を飛んで町に向かった。到着したのは、一軒の小さなレストランで《食堂・オクノク亭》という看板。人間態になった紗田粋は裏口にから入ると、豚の鼻と猪の牙が特徴の豚鬼改めオークが立っていた。
「おい、紗田粋…また遅刻か?この前もいなくなりやがって…」
「すみません店長…」
「全く、今日は一日働いてもらうからな!」
「へいへい」
このオークは店長兼コック長の盧駆務。紗田粋はオクノク亭でウェイターのバイトをやっているので、さっそくユニホームに着替えようと更衣室に入る。
「あら?また今日も遅刻なの?」
「火扶茄…さん」
更衣室にはすでに白い毛皮で2本の尾を持った妖狐の女が、ウェイトレス姿で待っていた。彼女は紗田粋のバイトの先輩の火扶茄。
「ほら、早く着替えなさいよ」
「はい」
急いでウェイターのユニホームに着替えると、今度は長髪で猿妖魔の狒々が汗をかいて現れた。
「すいません!遅れました…」
「雁座」
彼はウェイターのバイトをしている雁座で、紗田粋と違って遅刻しないで出勤する真面目な性格。
「珍しいわね。雁那が遅刻なんて」
「はい…いつも移動に使っていた木が古くなったから何本か切り倒されて」
「それで遅れたのか?」
「本当にすみません」
謝りながらも急いでユニホームに着替えた。
初めに店の掃除をして昼の開店時間になり、妖魔のお客さんが入って来たので3人は接客し始める。
「「「いらっしゃいませ」」」
挨拶をするとお客さんを席に案内して、注文を受けるとすぐさま盧駆務に伝えた。
「ハンバーグセットを1人前」
「はいよ」
「こちらはカレーライスを2人前」
「Aかつセットを1人前お願いします」
「分かった」
注文通りに盧駆務はテキパキと料理を作って、3人が料理をお客さんに運んだ。しばらくすると昼の営業が終わり、4人はまかない料理のハヤシライスで昼食をとる。
「そういえば…最近、お前どこに行ったりしてるんだ?」
「え?」
盧駆務は近頃の紗田粋の様子が気になったので尋ねてきた。
「そうですよ。スマデに連絡しても繋がらないし」
さらに雁座もポケットからスマデという板状の機械を取り出して同じ質問。
ちなみにスマデ改め、スマートデンとは妖界で使われている小型のコンピューター端末。通信は勿論、カメラやネットの機能まで備わっている。
「じつは…ちょっと別なバイトを始めたんだ」
「別のバイトだと?」
「おまけにスマデは必ず電源オフにしなくちゃと言われているので」
とりあえず適当なことを言って誤魔化す。けれども、ある意味使い魔はバイトに近いので嘘とは言えない。
[もしも使えたらな~~~]
じつは昨日、ケイルの世界で何度もスマデを使ってみたが、電波が届かないから電話もメールも出来なかった。もしも電波が届いたならケイルにスマートデンを渡して、召喚の時の都合を電話でやり取りできるから。
「まぁ、別にバイトの掛け持ちは構わないが…こっちに支障が起きないようにしろよ」
「ええ…そうするつもりです」
なんとか誤魔化すのに成功した紗田粋。けれど、彼の嘘を見抜く者がこの場に1人。
[随分と誤魔化しているみたいだけど、なにを隠しているのか?]
この通り火扶茄は勘が鋭いので紗田粋が隠している秘密に興味を持つ。
そして彼らの昼食が終わると、すぐにディナータイムの時間と同時に仕事を再開した。時間が進んで行ってバイトが無事に終了。
「今日も無事に終わった」
「じゃあ、また明日ね」
「お疲れさまでした」
「ああ、お休み。明日絶対に遅刻するなよ」
紗田粋は3人と別れると羽を広げると空を飛んで家に帰った。
空を飛び進んで行くと、近くに大きな湖のあるアパートに到着して、自分の部屋の扉の前で鍵を開ける。
「ただいま」
そのまま扉を開けて中に入るが1人暮らしなので誰もいない。家の中にはテレビとパソコンと、冷蔵庫と福引で当てた掃除機ロボット。獣姿になってゴロンと寝転がりながらテレビをつける紗田粋。
「う~~~ん。なんだか、ケイルの世界に行った方が楽しい気がするな」
暇になったか召喚が慣れたのか、ケイルの住む世界に行きたいと思ってしまう。でも、そんな都合よく妖導門が開く訳ない。そう思った途端に、目の前に妖導門が出てきた。
「おいおい、なんたる偶然…でも、いいか」
さっそく人間態になって再び妖導門を通った紗田粋だった。
妖界と志俱刃と紗田粋の過ごし方の話はどうでしたか?
妖魔の科学技術は乗り物やコンピューターやスマホはもちろん、ロボットなども作れるほど高い。ちなみにヒガ国の町並みは日本の東京に似た感じです。
そして幻獣は野生だけでなく、家畜・食用はもちろん、ペット・愛玩用の幻獣もいます。




