第8話 必見、ソーサリーガの合格者達
王都観光から次の日は、合格発表の当日。
ソーサリーガには一昨日と同じように受験者達が校舎の前に集まってた。
「……なんだか試験の時以上に、全員の視線が真剣だね?」
「そりゃそうだよ。なんだって合格発表日なんだから」
周りの受験者の目の色が本気で真剣な輝き。中には必死で神頼みしている人がいれば、大きく深呼吸して気を落ち着かせようとする人もいる。
「僕…ちゃんと合格してるかな?」
「なに言ってるの?一昨日切り札を出したじゃない」
「いや…それはそうだけど…」
試験でサモンを披露したけども、それがちゃんと評価できたのか不安になるケイルだった。もしかしたらズルという形で落ちるかもしれないと考える程に。
「とりあえずケイルも落ち着きなよ。ほら、人が来たみたいだよ」
アラフトの言う通り係の人がやって来た。
最初は平民組の合格者発表なので、係の人はさっそく合格者の名前と番号と、誰がどのクラス行きか書かれた張り紙を掲示板に貼る。そして張り紙が貼られた瞬間に、平民組受験者達がいっせいに掲示板に向かう。
「そうだ。ユハスムさんはちゃんと合格してるかな?」
少しユハスムが心配なのでケイルは見に行った。しかし他に興味を持った受験者達も、たくさん集まっているのが分かる。
[ええっと…ユハスムさんは]
ケイルは混雑する人の中を何とか進んで行くと、その途中で何かしらの話題が出ていた。
「おい、今年の平民組で6人合格したってよ!?」
「平民が合格する確率なんか、たったの1%!つまり1人か、多くても3人なんだぜ!」
「しかもその内の2人が獅子クラスらしいぜ!こりゃ実力が高いって証拠だ!」
どうやら平民組でエリートの獅子クラスに入った平民が2名出たらしい。なので受験者達は、大きく盛り上がって騒いでた。
[もしかして…]
するとケイルはまさかと思いながら平民の合格者に予想を立てた。
「おっ、ケイル!」
そこにユハスムが駆け寄って来た。しかもなんか妙にご機嫌な様子なので、ケイルはすぐに尋ねてみる。
「あの、この様子だともしかして…」
「もちろん…この度、獅子クラスに入れました!!」
なんと獅子クラスに入学した平民組の1人はユハスムだったので、ピースしながらにやけた笑顔で宣言した。当然驚くケイルだが、同時にユハスムが合格できて安心する。
「スゴイね!獅子クラスに入れるなんて!」
「サンキュー!ただし、さっき言われてよ。なんでも条件付きだけどさ…」
「条件ってどんな?」
「簡単さ。もしも学業の成績が落ちたりしたら、即座に熊か梟クラス行きってな」
元々ユハスムの筆記の成績はギリギリ。だけど、その魔力と二重属性と腕は確かなもの。だからとりあえず彼を獅子クラスに入れ、もしも学業について来れなかったら熊クラスと梟クラスのどちらに落とされるという条件。
「なるほど…めちゃくちゃ大変そうだね?」
「全くだよな…まぁ、でも仕方ないと思ってんだぜ」
「本当に羨ましい程のポジティブだね」
ユハスムのお気楽さを見習おうと思うケイルだった。
しばらくして次は本題になる貴族の合格発表に変わる。すぐ係の人が平民組の張り紙を剥がして、貴族側の合格発表の張り紙を、各クラスに合わせて6枚貼った。その途端、受験者達は目の色を変えて掲示板を見始める。周りで必死に自分の名前と受験番号を探すので、ケイルもがんばって探す。そして名前と番号を見つけた者が出てきた。
「俺は……梟か?」
「あっ!俺も梟みたい」
どうやらジンバとラギは合格して梟クラスになったのでハイタッチした。他の人達も自分の名前と番号を見つけて、大きく喜んだり嬉し泣きをする者。中には名前も番号もなく受験に落ちて、大きくショックを受けて泣いたり失神する者。
「ヤッター!アタシは鷹だぁぁ♪」
さらにアラフトも念願だった鷹クラスで、飛び跳ねる程に嬉しいみたい。しかしケイルは何度探しても自分の番号が見当たらない。
[やっぱり…僕じゃあダメか…]
結局、魔力のない自分じゃあ無理だと感じ。かなり諦めていたがその時
「おい、あれってお前じゃないのか?」
「えっ?」
ユハスムが掲示板の梟クラス側の1番最後のところに、指を刺したので見てみる。そこにはケイルの名前と受験番号の【4977】が書かれていた。
「僕の名前と番号…って事は…」
つまりケイルも合格してソーサリーガの梟クラスに入学できた。これにはケイルも嬉しさのあまり涙を流しかける程に。
「やったね、ケイル♪」
「まさか、俺達と同じになるなんてな!」
「これも縁って奴だね」
「あのサモンが効いたって事だな!」
ケイルの合格にアラフトもジンバもラギもユハスムも祝福してくれた。
「良かったね。入学出来て♪」
するといつの間にかケイル達の後ろにメティールが現れる。
「メティールさん。ところで、君も合格は出来たの?」
「もちろん、私はあれ」
メティールも梟クラス側に指を刺すので見てみると、たしかに彼女の名前と番号が。
「「「「「え!?」」」」」
「君、梟なの!?」
これにはケイル達は驚いた。彼女の魔法の腕や守護族の家柄なら、獅子か鷹に入学の筈なのに梟クラスという予想外の結果。
「まぁ…驚く気持ちも分かるけど…ほら、早く制服を貰いに行こう!」
無理やり話を変えるかのようにメティールはみんなを受付に行こうとした。なんか納得しないけど、ケイル達は受付から教科書とそれぞれのクラスの制服を受け取る。それからケイルは5人に向かって口を開き。
「みんな…魔力が全然ない僕だけど、これからもよろしくね」
少し照れくさそうにと宣言するケイル。するとアラフトとユハスムとジンバとラギとメティールは、ケイルに近づいてそのまま肩を組み始める。
「なに言ってんだい?これから俺達は仲間だろ!」
「確かにそうなるね」
「全くだな」
「クラスは違うけど、がんばろう!」
「楽しく行こうぜ!」
「…うん♪」
6人は肩を組んでこれから学園生活を満喫するのであった。
一方その頃、ケイルの合格を気に入らない者が。
「なんなんだ。あの魔力無しが入学だと?」
それは試験の日にケイルにちょっかいを出したグーダベと、その取り巻き3人。ちなみにこの4人は熊クラスに合格したらしい。
「それにしても、一昨日の試験のあれはなんだ?」
「全くだな?魔法陣が出たと思ったら」
「変な奴らが2人も出てきて…」
取り巻き達も試験でのケイルのサモンに度キモを抜かしてた。しかし上級貴族出身のプライドが異常に高いグーダベは納得いかず。
「…だがな。所詮、あの2人組がいなかったら魔力無しの落ちこぼれだ。後できっちりと、俺の恐ろしさを教えてやるさ」
などと妖魔2人がいないのを利用し、かなりセコイ事を企んでた。実際、グーダベは妖魔2人を怖がっている模様。
「おい、待ちな」
「ん?」
するとグーダベ達の前に三白眼の頭にバンダナを着けた、見た目優男な長身の少年が現れた。
「なんだテメェは?」
「コイツ、平民組の」
「どうも。俺様はアンタらと同じ熊に入学した平民組のモギス・ダボだ」
不気味に笑いながらも4人に自己紹介する少年は、熊クラスに合格した平民組のモギス・ダボ。
「つーーーか。お前ら喧嘩なら、俺が相手してやろうか?」
「ああ?」
モギスは人差し指を立てて動かしながらグーダベ達を挑発。
「おいおい、平民の分際でいい度胸だな?俺が上級の貴族だって分かってんのか?!」
この態度に気に入らないのか、負けずに大声をあげてモギスに絡んだ。だが、最初に挑発した本人はなぜかあくびをする。これには少しムカつきながらもなんとか冷静になる。しかし次の発言で冷静でなくなった。
「バカじゃねぇの?」
「は…はあぁぁ?!」
少しキレ始めるグーダベに対して、モギスはさらに喋り出す。
「そもそも貴族だの上級だの平民だのって、ここじゃあ実力重視みたいだろ?それなのにバカみたいに貴族だと威張って」
「なんだと…」
「てか、俺と同じ平民で獅子クラスに入った2人がそれだろ?」
などとモギスが半分屁理屈のような事を言い続けた結果、ついにグーダベはため込んだ怒りが大きく爆発し。
「じょ…上等だ!上級貴族の実力を見せてやるよ!やるぞ、テメェら!!」
「「「お…おおっ!!」」」
そのまま取り巻きと一緒に魔法を発動して襲い掛かった。これを待っていたかのように、モギスはすぐに拳を構えた。
そして2分後。
「い…痛い……」
「あ…」
「もう…無理」
そこにはボロ布のように全身ズタボロのグーダベ達と、全くの無傷でつまらなそうにあくびするモギス。
「なんで…この上級の俺がこんな平民に…」
「だから貴族だの平民だのって、そんなの関係ねぇよ!」
「ぐへっ!待て!ちょっ!ゴメンな!止め!」
するとモギスは何度も強くグーダベの後頭部を、地面にめり込むぐらい踏み続ける。そしてグーダベの頭は完全に地面に埋め込まれた。この光景を見た取り巻き達は怯えて何も言えない。
「まっ、これから俺達は同じクラスだからよろしく」
笑いながら4人に言うモギスはこのまま行ってしまう。そして残された取り巻き3人は、急いで埋まったグーダベの頭を掘り起こす。
見事にソーサリーガに合格できたケイル達。次回は入学式になります。




