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短編集

白いカラスの頼み事

作者: 巫 夏希


 鳥居の前に、白いカラスが立っていた。

 いや、ただいただけではなくてこちらを見ていた。

 まるでそれはこちらの様子を窺っているようにも見えた。


「……カラスさん、どうかしましたか」


 私はカラスに問いかける。

 カラスは何も言わない。ただこちらをじっと見つめるだけだった。

 カラスは何かをしてほしいのだろうか。

 そう思って、私はカラスを観察することにした。

 そのカラスは身体が白いだけではなく、普通のカラスに比べると大きいようにも見えた。離れている距離が数十メートルということを鑑みても私より少し大きいくらいになるだろうか。だとすれば普通のカラスじゃない。カラスって大抵大きくても一メートルいくかいかないかくらいになるわけだし。

 それはそれとして。カラスは何かを訴えたいのだろうか。そう思って、カラスが訴えたいことを――私は捜索していた。

 いったいどこに何があるのか――。そう思いながら私はカラスの身体を舐めるように見つめた。


「あ」


 そして、それを見つけた。

 足に、ガムがくっついていた。

 そのガムは噛んだあとのガムなのだろう。おそらく地面に吐き捨てたものの上に、乾かないうちに乗ってしまったのだ。そしてガムがくっついてしまって困っている。そういうことなのだろう。

 ということは、困っている……ということなのだろうか。


「困っているの?」


 その言葉にコクリと頷くカラス。

 私はそれを取ってあげようと思った。だから私はカラスに近づくべく、そちらへ向かった。



 ◇◇◇



 カラスは私の見積もり通り、大きかった。その大きさ、およそ三メートル。

 はっきり言ってそんな大きさのカラス見たこともないし、普通の人間なら恐れて逃げてしまうのだろう。

 けれど私はそのカラスを助けてあげようという思いが、恐怖に勝っていた。それは普通なのかどうか解らないけれど、いずれにせよそのカラスを助けたいと思ったのは事実だった。


「動かないでね。あ、ごめんなさい。嘘ついちゃった。ゆっくりと左の足を上げてもらえるかな?」


 私はカラスの怒りを買わないように丁寧に言った。言葉が通じているのならば丁寧に言わないとね。もしカラスの怒りを買ってしまったらこのまま啄まれてしまう。そんな可能性だって十分にあり得るのだから。

 カラスは頷くとゆっくりと左の足を上げてくれた。どうやら先ほどの言い回しで怒りを買うことはなかったようだった。心の中でほっと胸をなで下ろしながら、私は足を見つめた。

 カラスの足にくっついているガムは、どうやらよくよく見てみるとそれほどガンコについているようではなかった。それを確認して私は一安心。もしガンコについていたらスマートフォンで調べようかな、と思っていたからだ。けれど私はそんなガム取り外し専用のアイテムなんて持っていないからこのカラスには待ってもらわないといけなかった。

 でも、この様子だったら普通に手で外せるかもしれない。そう思って私はガムを手に取った。

 ベリリ。

 案の定、ガムは少し力を加えるだけでゆっくりと外れていった。ガムはカラスの足の形を残しながら、ゆっくりとその足から外れていった。

 そして完全に外れるとカラスは、かあ、と一つ大きく啼いた。

 私はカラスの足から離れると、それを見計らって、カラスはゆっくりと足を下した。

 そしてもう一度、かあ、と啼いた。まるでガムをとってくれてありがとう、と言いたかったようにも見えた。


「どういたしまして」


 私はそう言って――。



 ◇◇◇



 そして、目を覚ました。


「あれ……夢だったのかな……?」


 私はそう呟きながら、ベッドから起き上がった。






 学校に向かう道中、私は何かを考えていた。

 あの夢の話だった。

 あの夢――その光景、どこか見覚えがあったからだ。鳥居、街並み――。どこだったかなあ。そんなことを思いながら、私は通学路を通り、学校が目の前に差し掛かった十字路に到着した。


「あ!」


 驚き。そんな声をあげてしまうほど、私は驚いていた。

 十字路の向こう。私はこの十字路を右に曲がってしまうのだけれど、その真っすぐいった先には鳥居があった。そしてその鳥居と街並みは私が見たことある――そう、夢で見た光景だった。

 神様の使いがカラスだったのかな、そんなことを思いながら、私は心の中で頭を下げるのだった。


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