第五節半 「勇者の訓練」
第五節の勇真が負けた後のお話です。
「わかった。では、来い!」
「あっ、その前に1時間かけなくてもシリウスさんを倒せば終わるんだよね?」
「そうだな。レイが俺を倒せれば終わりだな。でも、それは無理だな」
「へぇ~、言うね? それじゃあ……一撃で仕留めるッ!」
そう言い放ち、抜刀状態で構える。だが、動かない。
「来ないのか? なら、俺から行かせてもらうッ!」
シリウスは一直線に澪へ近づく。
「十六夜流抜刀術三ノ型、羅刹ッ!」
刀をシリウスへ向けて振り下ろす。
「その程度で……なッ!?」
シリウスは剣で受け流して攻撃を当てるつもりだったのだろう。だが、それはできなかった。なぜなら澪の攻撃が異常なほど重かったのだ。シリウスは咄嗟に背後へ飛ぶ。
「今のは危なかった……さっきの威勢は伊達じゃなかったか」
「当てたのになぁ……まぁいっか、それじゃあどんどん行くよ!」
そう言って次は納刀状態、いわゆる居合の構えで突っ込む。
「さぁ、来い!」
「十六夜流納刀術一ノ型、韋駄天!」
今度は連撃を繰り出す。
「さっきのようには……チッ、逆か!」
シリウスはさっきのような重い一撃を警戒していた。故に軽い攻撃が連続で来ると思わず、どっしりと構えすぎていた。だが、守りの態勢だったために全てを防いだ。
「嘘……これもだめなんて……」
「どうした? 万策尽きたか?」
「ま、まだまだッ!」
その後、シリウスと澪は何度も何度もぶつかりあった。猛烈な攻防だった。何も知らない人が見たら本格的な戦いに見えただろう。しかし、これは訓練だ。それだけで1時間たち、結果的に敗北となった。
「負けちゃった……。」
「ドンマイ、澪ちゃん。次こそ勝てるよ!」
「凄かったと思うぞ? 澪の攻撃。俺ならすぐにやられてるわ」
「うぅ……でもなぁー……。うん、別にいいか」
澪は負けたのが2度目だったのが悔しかった。だが――
「レイ……俺はカタナを使った相手と戦うのは初めてだが、中々だったぞ?」
「おかげで負けたのは2度目ですよーだ。まぁでも強さも2番目だね」
惚れることはなかった。いや、惚れるほどではなかったのだ。
「ほう、2番目か。1番目の奴とはどうだったんだ?」
「ん? あいつとは一方的に負けたよ? 一度も攻撃が当たらなかったの」
「な!? 一度も当たらなかったのか!?」
「うん、一度もね。それに、防御も回避もできなかったし」
「……そんな相手がいるのか」
「うふふ~。私が自慢する人だからね~」
そう言ってると厳しい視線が澪へ飛んでくる。
「……もうこの話は終わり! 次はどっちがやるの?」
「おぉ、そうだった。どちらでもいいぞ? 俺はまだまだ戦えるからな」
「じゃあ、私がやります。少しでも戦えるように、直仁君の役に立てるように」
「いいだろう。使う武器はロッドでいいんだな?」
「はい、魔術もちょっとなら使えるようになりましたから」
穂乃香は勇真が戦ってる間、近くにいた魔術師の人に教えて貰いながら練習していた。
「もう使えるようになったのか。凄いな。名前は?」
「穂乃香です」
「ホノカか。では、すぐに始めよう」
「はい!」
その後、勝也も戦った。しかし、結果は全員の負け。
穂乃香は使える魔法を駆使して戦った。相手を翻弄しつつ攻撃を当てる戦略だったのだ。だが、シリウスはそれらを回避して1時間経過し、敗北となった。
勝也は盾で正確に防ぎながら戦うはずだった。だが、その正確さ故に反撃を行うことができずに敗北した。
「これで全員、1度はやったな? まだやりたい奴はいるか?」
「「「「いや、いいです……」」」」
「そうか、今日はこれで解散だ。ゆっくり休むといい」
これで最初の訓練は終わった。確かな経験と成長を感じながら。
*
女子の二人はその場から動かずゆっくりと体を休ませていた。
「全員負けちゃったねー。勝機はあると思ったんだけどなぁ……」
「仕方ないよ澪ちゃん。私もぜんぜん当てられなかったし……」
「そうだ、穂乃香。魔法教えてよー。私も使ってみたい!」
「魔法じゃないよ、魔術だよ?」
「いいじゃん別にー。それでどうなの? 教えてくれる?」
「いいよ。私たちで魔術を覚えて直仁君をびっくりさせようよ!」
「ふふふ、いいねぇ! 二人で頑張ろう!」
彼女たちが目標に向かって切磋琢磨するのはまた別のお話。
ちょっと尺の都合により穂乃香と勝也はカットします。前編、後編とやればよかったんでしょうけど、そうすると後編が短すぎたのでやめました。
8、9割会話文ですね……地文が考えられない(大問題
第六節はまだわからないです。近々投稿する予定、とだけ。