第三節 「動き出す歯車」
「なんと……そのようなことが……」
俺たちは包み隠さず全てを話した。といっても俺だけレベルが低く、スキルも少ないということだけなんだが。
「……ナオヒトよ、すまないが君だけ戦いに参加するのはやめてもらう。まだ知らんと思うが、魔族と戦うには最低でもレベル20必要なのだ。レベル20になるにはとてつもなく長い時間をかけなければならない。1人だけ参加できないというのは心苦しいと思うが我慢してくれ……」
まぁ仕方ないだろう。ついて行って足を引っ張るよりマシだ。……あいつらはそうもいかないと思うが。
「国王様! 申し訳ありませんがそれはできません。直仁は僕たちにとってかけがえのない人です。確かにレベルが低いかもしれませんが、僕たちが守ります。だから考えを改めて貰えませんか!」
「「「俺(私)からもお願いします!」」」
こいつら……。ったくさすがに依存しすぎじゃないか? 今までなら許していたかもしれないが、今回は違う。そうしなきゃいけないんだ。
「わかりました。私はここに残り、助けになれるようにいろいろ調べるとします」
「「「「直仁(君)!?」」」」
「……本当にいいのだな?」
「構いません。それで少しでも助けになるのなら」
「承知した。アリシア、大図書館に案内してやれ。あそこなら、ありとあらゆる本がある。調べるには打って付けだろう。私は騎士長を呼んでくる。君たちはそこで待っていてくれ。」
「わかりました。ナオヒト様、こちらへ。」
そうして俺は姫様と共に大図書館へ向かった。
*
直仁が立ち去り、僕たちは話し合っていた。あの言葉をまだ受け入れられないんだ。
「直仁はどうしてあんなことを……」
「本当よ! レベルが低いからって別にいいじゃない! あのときだって――」
それは高校1年生の時でまだナナファンが発売されたての頃、僕たちのレベルは今の直仁そのものだった。始めたてで操作もままならない。普通の人なら邪魔だと言って見向きもしなかっただろう。それをあいつは幼馴染だからと言って助けてくれた。それも最初から最後までだ。僕たちは直仁に感謝していた。なのに――。
「なんで……なんでなんだよ! あいつは確かに昔から凄かった。何でもできて羨ましいと思ってた。なのに、なんであいつだけ弱いんだよ!」
「わからない…直仁も言ってたけど、あのとき僕たちの電話の相手が言ってたハンデのせいだと思う。」
「な、直仁君は何もしてないのに……こんなの酷いよ」
「そうよ……直仁は何もしてないじゃない……確かに昔から凄かったとは思う。でもそれとこれとでは話が違う――」
「ナオヒトのことは悪いと思っている……しかし受け入れるしかないのだ。例え君たちが守るにしても限度がある」
いつの間にか国王様が戻ってきていた。
「分かりました……あいつが決めたことです。僕たちはそれに従います」
「うむ……さて君たちに戦いの指導するために騎士長を呼んできた。ここへ」
そういって現れたの一人の騎士だった。金髪で鎧に青い装飾が付いている。他の騎士とは違う迫力を感じる。
「俺の名前はシリウス=アレキサンダー。気軽にシリウスと呼んでくれ。先ほど国王様が言った通り騎士長をやっている。1から指導していくから、よろしくな!」
戦いの指導、きっと厳しいものとなるだろう。でも――
「あいつの分も頑張らねぇとな」
「そうだね。直仁の分もやってやるんだから!」
「直仁君のために、私もやらなきゃ」
「みんなの気持ちは同じだね。シリウスさん、僕たちのこと、よろしくお願いします!」
「いい返事だ! ではさっそく訓練場へ向うぞ!」
「「「「はい!」」」」
*
ここは一体どこなのか。大地は草ひとつ生えず、水は汚れ、空は雲で覆われた、まさに暗黒の世界。そう、魔界である。
その魔界にある1つの城に2人の男がいた。彼らは共に、黒い翼と山羊のように曲がった角を持っている。この世界で言う魔族だ。
「大魔王様、人間界のリベイル王国にて勇者が召喚されたようです」
「ほう、それは真か。何人だ」
「5人です。その内1人だけレベルが極端に低いそうです」
「なるほど、それは災難なことだ。デモニスよ、“アイツ”を鎖から解き放て」
「先ほど言った勇者の1人を狙うのですか?」
「いや、リベイル王国の全てを狙う。召喚することができる術者がいるのだ、潰しておいて損はなかろう? それにアイツなら勇者全員を屠るのも容易いであろう」
「承知しました。アイツは解き放った後にリベイル王国近くに転送でよろしいので?」
「構わぬ。あと、成功したら永遠に鎖から解き放つ約束も添えてな」
「お任せください」
同じ城の地下、その牢獄の中に“ソレ”がいた。鎖に繋がれながらも禍々しいオーラと殺気を漂わせながら寝ている。寝ているだけ、ただそれだけでもただの人間がいれば近づく前に気絶、もしくは死に絶えることになるだろう。
「起きろ。大魔王様からの命だ」
デモニスと呼ばれた男は呼びかけた。グルルルルと鳴きながら起きた“ソレ”は男に耳を傾けた。
「人間界のリベイル王国で勇者が召喚された。お前にはそこへ行き、国ごと潰せ。それができたら鎖から永遠に解き放ってやる」
「……」
長い沈黙、しかし“ソレ”にとって沈黙は肯定と同じ。
「お前ならあんな国も勇者も雑作もないだろう。好きなだけ食い散らかしてこい。【解放】!」
その言葉で繋がれていた鎖は消えた、それと同時に“ソレ”は高らかに吼えた。
「フッ、早く行きたいか。だが待て、転送には少々時間が掛かる。それまで体を動かしておけ、鈍っているだろうからな」
それは、リベイル王国にとっての終わりの始まりであり、始まりの終わりでもあった。
さぁ少しだけお話が進行しました。
直仁、幼馴染、魔界の魔族。今はこの3つですがこれから少しずつ、進展します。気長にお待ちください!