第十三節 「ミレリアの矢」
耳を劈くような轟音が辺りに響き渡る。
アステラが使った魔術、いや禁術? はあの的の中心を正確に狙っていた。それはよくある竜のブレスのようで違う、ビームのようなレーザーのような細いものだった。例えるならシン・ゴ○ラの放射、もしくはメガフ○アだろうか。……さらっと詠唱してたけど、たぶん禁書に書かれてたんだろうな。
ていうか詠唱とか教えてもらってないんですが? ねぇ、アステラ先生。魔術を教えてくれた時になんで教えてくれなかったんですかね? それぐらいは自分で学べと? いや、ちょっとさすがに厳しいっすねぇ。
……変なことを考えるのはもうやめとこう。そんなことよりもだ。さっきの禁術(?)で的は、元の形がわからないほどに変形している。それもそのはず、的は赤のような白のような色に変わり、ぽたぽたと何かが垂れている。恐らく今もなお溶け続けているんだろう。つまり、あのかなりの熱量ってことだ。さすがは禁術といったところか。
「……」
試験官の“仮面”ことラーナさんは的を見て止まっている。
溶解が止まるのを待っているのか、驚愕しているのか、はたまた採点中なのかは仮面のせいでわからないが、ただ止まっているわけではなさそう。
「こほん」
アステラが咳払いをした。終わりましたっていう意思表示だろう。それに伴ってラーナさんは慌てたようにアステラに向き直す。
……これは驚いてたんだな。
「え、ええと、問題なく合格です」
ですよねー。と声に出すのは控えるが、まぁそうだよなっていう結果。破壊というか溶解ではあるんだが、これで不合格判定だったら泣く。俺だったら絶対泣く自信がある。
「わかりました。ありがとうございました。あぁ、そろそろ冷やしておきますね。『降り注げ、レイン』、『凍れ、アイス』」
礼儀正しく礼をしたアステラは、さらっと水と氷属性の魔術を使った。それによってか、雨が凍って氷の粒が降っていた。さながら魔術の合成だな。こういうのがあるから魔術は楽しい。ちょっとだけ、異世界に来て良かったと思う。
「あ、ありがとうございます。『リクリエイト、【キューブ】』」
と、ラーナが唱えるとさっきまで見るも無残な状態の的が、元に戻った。
最初のクリエイトは生成、今のリクリエイトは再生成という意味だろう。単純ではあるがそういう詠唱節も、簡略化されていて悪くない。と、偉そうなことを考えてたがこの世界に英語はあるんだな。もしかしたら、【言語理解】でそう翻訳されてるだけかもしれないが。
「次の方、こちらへ」
ミレリアの番が来た。さて、どうするのか。
*
「次の方、こちらへ」
とうとう私の番が来た。さっきまで、どうにか気持ちは落ち着けていた。あの魔術を見るまではだ。
アステラさんが魔術を使えるのは知らなかったが、恐らく何か手段はあるのだろうと思っていた。その手段の中に魔術も、もちろんあった。しかし、彼女が使った魔術はどう見ても規格外過ぎた。火属性の魔術で焦がすか、わずかに溶かす程度なら私でも、そこらへんの人間でもできるだろう。だが、彼女がやったのは焦がすどころか大きく変形させ、さらに一部がドロドロになっていた。そんな魔術は今まで見たことがない。たぶん私たちエルフでも無理だ。
でも、あの魔術を見ても微動だにせず、澄ました顔でずっと見ていたあの男とクーちゃんは一切驚いていなかった。きっと知っていたんだろう。そうに違いない。
「ミレリアさん、ですね」
いつのまにか私はアステラさんがいた場所まで移動していた。呼ばれた時に自然と体が動いていたんだろう。
「内容は先ほど言った通りです。準備はいいですか?」
「大丈夫……です」
はっきり言って大丈夫じゃない。大丈夫なはずがない。でも、試験をやめられない以上、やるしかない。
私は目を閉じて弓を構えた。それと同時にスキルを使う。
「わかりました。では、始めてください」
そう言われ、私は目を開いたと同時に的を見据える。硬さはわからない。でも、これなら!
「いけッ!」
矢を放つ。その矢はまっすぐ的へ一直線に向かう。そして――
*
「内容は先ほど言った通りです。準備はいいですか?」
「大丈夫……です」
ミレリアがあの台に立った。
「すごく緊張してる……。大丈夫かな?」
「仕方ないだろ。アステラの禁術を見たんだ。プレッシャーであれぐらいになるのは仕方ない。まぁ、それでも半分放心状態なのは、やばいけどな?」
外から見てる俺達にもミレリアの緊張が伝わってくる。あんな途轍もないものを見た後だと俺でも緊張する。
しかし、彼女は諦めていない様子。その時、彼女の持つ矢から何かが出た……ような気がした。一瞬、何かが光ったように見えたのだが、見間違いだったかもしれない。
「わかりました。では、始めてください」
その言葉と同時にミレリアは弓を構えて的を見据えていた。弓術のことは全くわからないが、たぶんいい感じの構えだろう。
「いけッ!」
そして、矢を放った。その矢はまっすぐ的へ向かって――
ドン
――という音がなる。そして肝心の的にはしっかりと矢が刺さっていた。
ただ、その矢が刺さったところには、明らかに不釣り合いなクレーターがあった。
新作の案がまとまりました! そのタイトルが「幻想世界をスライムと共に」です!
これを投稿している時には、新作も投稿していると思います。内容は“異世界転移”から“異世界転生”に変わりますが、是非読んでみてください!




