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第八話 思案

 翌日、俺たちは帰路に就いた。帰り道の船も結局……酔ったけれど、なんとか名島城についた。


 5月1日の夜、ようやく城に帰り着くと、家臣たちが出迎えに来た。山口宗永、松野重元、長崎元家、杉原重政、堀田正吉、滝川辰政と勢ぞろいである。


「殿! 広島城での会議はいかがでしたか?」


 筆頭家老の頼勝が訊いてくる。もう一人の筆頭家老、稲葉正成は丹波亀山城で統治に励んでいるので、実質、彼が小早川家のナンバー2だ。


「ああ、うん。文治派と武断派のどちらに付くかっていう話だったよ」


 事実をありのままに述べる。


「なるほど。殿のお考えは?」

「俺は断固として、文治派に付くことを主張したよ。それが一番だと思ってね」

「左様でございますか……恐れながら、殿。それがしは、武断派、つまり内府方に付いたほうが小早川家、ひいては毛利家の為になるかと思われます」


 頼勝からまさかの言葉が出てくる。え?


「えーと。それはなぜ?」

「殿。五大老筆頭である内府の力は絶大でございます。それに対して、文治派筆頭の石田治部少輔は、謹慎中な上に小利口なだけの奸臣とのもっぱらの噂、人望がござりませぬ。双方がいざ決戦となったとき、石田方に加勢する者がどれだけおりましょうか?」

「それはそうだけど。家康なんて信用ならないだろ!」


 思わず少し、口調が強くなる。大坂の陣での家康の動きは本当に汚い。


「それは……そうかもしれませぬが。殿、もう一度、よくお考えください。それでもお考えを変えぬ、というのであれば、それがしもみなも何も異議は申し立てませぬ」

「そうか……わかったよ。もう一度、考え直してみる」


 俺はそれだけ言うと、自室へ戻った。


 机に頬杖をつくと、俺は考え事を始めた。あそこまで言われると再考しなければならないのかもしれない。幸い飯はもう食ったから、ゆっくり考え事が出来る。


 まず第一に、家康と三成、どちらが信用できるかだ。イメージでの家康は、狸親爺や方広寺鐘銘事件といった悪いイメージが先行する。温厚な律義者、というイメージもないわけではないが……


 一方の三成はどうかというと……有能な忠臣という印象が一番大きい。一方で、秀吉に媚びへつらって出世した奸臣というイメージがないわけでもない。結局、人と時代によって左右されるのか。


 次に、どちらに付くのがメリットかということだ。何もせず東軍に付けば、史実以上に東軍は圧勝。領土も多少は増やしてくれるだろう。だが、今以上に強大化した毛利家を、豊臣家を滅ぼして、幕府を開かんとする家康が放っておいてくれるとは到底思えない。絶対に難癖を付けられて、改易、よくて減封だ。そんな命令に毛利家一同がやすやすと従うとも思えず、戦争開始。奮戦するも、徳川の物量には叶わず、俺も討死? というのもあり得そうな話だ。


 それに対し、西軍に付いたらどうなるだろう。これは史実通りの展開だ。何もしなければ、吉川広家ら重臣の毛利家を守ろうとしてした内通で西軍は敗北。だが約束は順守されることなく、約四分の一に領土を減らされ、苦労。その恨みが明治維新へ……ということになるだろう。これは嫌だ。俺が転生してきた意味が全くない。歴史通りじゃないか。


 西軍に付き、東軍に勝つ方法は……内通をいかに防ぎ、戦闘に参加させるかだろう。これはどうすればいいのかは正直言って、詳しくはわからない。だが成功すれば、毛利家、そしてこの小早川家も安泰だ。加えてなにより面白い。


 最後に義理・大義名分から考えてみよう。毛利家からすれば東軍・西軍ともに絶対的な恩義はない。だが、俺からすれば、西軍に絶大な恩がある。そう、秀吉に育ててもらったという恩だ。相当に可愛がられ、官位まで与えられ、いろいろな物をくれ、教育までしてもらった恩。その恩からすれば、西軍に付くのは至極当然のことだろう。もちろん今の時点では、豊臣家中の内紛状態なので、「豊臣家を害する奸臣、石田三成を討つ!」という大義名分で東軍に付くのも可能と言えば可能なのだが。


 大義名分……西軍に付く大義名分は「専横を極める奸物、徳川家康を太閤殿下のご恩に報い、討つ!」とかいくらでも考えられる。東軍に付く大義名分も、さっき考えた「豊臣家を害する奸臣……」など、たくさんあるっちゃあるだろう。秀吉子飼いの武将も東西両軍に分裂していたわけだし。つまり、大義名分は東軍、西軍のどちらに付くかの判断には使えない。


 結局、どうすればいいんだ? 実際に三成、家康に会ってみようか? 秀吉の元養子で親族、大大名毛利家の武将なのだから、邪険には扱われまい。会って、話して考える。それが一番なのかもしれない。


 俺は、考えることを一旦やめることにした。まだまだ、関ヶ原までは時間がある。ゆっくり考えることにしよう。布団に入り、横になって目をつぶる。


 あ、しまった! 古満姫に櫛を渡すのを忘れてた。明日、渡さなきゃな。

 


 

 




 


 

「金吾中納言の野望」お楽しみいただけておりますのでしょうか?

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