表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/39

最終話 楽隠居

 悠太郎はその後も健康に育ってくれた。ちなみに悠太郎が九歳になったときに弟も生まれた。名前は春千代。春のように暖かい性格に育ってくれるようにという願いを込めたのだ。


 二男一女の父になった俺だが楽しいことばかりが起こったわけではなかった。俺を支えてくれた家臣の頼勝と元家の二人が亡くなったのだ。特に頼勝が亡くなったのはショックだった。


「殿……これからは、それがしの助けなしでがんばってくだされ……それがしがいなくなっても、まだ松野殿や滝川殿がおりまするゆえ……」

「縁起でもないことを言うな、必ずや病を治せ! 医者ならどこからでも呼んでやる!」

「殿、これは寿命にござりまするよ……人間五十年、ちょうどまで生きて殿に仕えられただけで満足にござりまする……」


 見舞いに駆け付けた俺に頼勝はそう言い、その翌日に息を引き取ったのだった。頼勝の息子はまだ六歳の幼児だったが、頼資と名前を変えて家督を相続した。もちろん、俺はそれを許可した。


 元和二年、ついに悠太郎が元服した。諱は秀秋。本来、俺が名乗るはずだった名前である。現代では悪名しかほとんど伝わらなかったが、この世界では名君として名を残してほしい。そう思って、秀秋とした。元服の儀が終わった後、俺は家臣のみんなの前で宣言した。


「今日をもって、わしは家督を秀秋に譲る。そしてわしは、立花山城に移る」


 それを聞いた家臣たちは大騒ぎし始めた。それはそうだろう、一切相談をしていたかなかったからだ。止められると思ったからである。特に慌てていたのは、頼勝が亡くなって以来、筆頭家老になっていた重元だった。


 ちなみに立花山城というのは、名島城と同じ筑前にある山城だ。以前は筑前における重要な城だったのだが、戦がなくなった平和な時代になると山城であり、城下町の発展が望めないがゆえに、わずかな留守居役の兵を置いておくだけで放置状態になっていたところである。


「殿! いくら何でも隠居するにはまだ早すぎまする! 若君もまだ元服したばかりでありまするし……」

「重元、もうわしはゆっくり休みたいのだ。お主らもいることであるし、何の問題もなかろう。よほど大事の場合はわしも手助けするゆえ、心配するな」

「しかし……」

「何か相談があれば城に来るがよい。ともかく、わしは隠居いたす。どうか後を頼む」

「……承知いたしました」


 食い下がってきた重元を説得した俺は、家族とほんの少しの身の回りの者を連れて、立花山城に移った。そして俺の隠居生活が始まった。


 毎朝起きたいときにに起きて、朝食をとる。その後は、春千代と思いっきり遊ぶ。


「殿、いや今はご隠居様でございましょうか……? 春千代も本当に楽しそうでございますね」


 古満姫がそんなことを言いながら微笑んでいる。俺と同い年だから彼女も今年で三十五歳。姫と呼ぶ年齢ではもうそろそろなくなってきた気がするが、姫という呼び方に年齢制限はない。極論を言えば、百歳でも姫といえば姫なのである。

 俺は彼女のことが大好きだ。前世ではモテる気配など全くなかったが、今こうして一緒に過ごせていることは幸せの極みだろう。転生してよかったと思うことランキングなんてものをつくったら、確実にトップ3には入る。


 ちなみに初子もこの立花山城に来ていたが、俺と会うことはあまりない。それもそのはず、思春期の真っ盛りだからだ。そういう気持ちは尊重してやらないと。


 そんな感じで午前中を過ごして昼食を食べると、午後の時間に突入する。午後は春千代は武芸の稽古や古典の学習などの予定があるので、遊ぶことはできない。そういう時、俺は自室に戻って読書をする。どんな本を読むかというと三国志演義やあるいは源氏物語といった古典である。


 小さいころに漢文や古文の読み方は習ったので、一応苦労しながら読める。時間をかけながらゆっくり読むことで暇つぶしになるのだ。それに飽きてきたときは部屋の外の廊下に出て、窓を開いて外を見てみたりする。山城なので当然高いところにこの立花山城は立っている。それはつまり絶景を持ち合わせているということなのだ。

 田畑や小さな家屋ぐらいしか見えるものはない。だが、それを見ているとなぜか心が落ち着く。牧歌的という形容詞が最も適当なのかもしれない。


 そんなこんなで夜になれば夕食を食べ、入浴し、寝る。そんな毎日だ。刺激が欲しいときは、名島の城下町に行ってみたり、別府に行って温泉につかってみたりもした。


 やろうと思えば、秀頼を傀儡にして豊臣政権の実権を握り、贅沢三昧や領土拡大に明け暮れることも可能だっただろう。だが、俺はそれを選ばなかった。それなりの幸せで十分なのである。


 一応、それなりの武将として後世に名を残せたはず。もしかしたら、大河ドラマにも主役で登場できるかも? 学校を建てたことも一応功績の一つだろう。

 開校以来、俺は教育の拡充に努めてきた。優秀な成績で学校を卒業した者には、跡取りのいない武士の家の養子にして取り立てたりして勉強すればいいことがあるようにしてきた。これは褒めてくれてもいいことだと思う。


 もう一度転生したら現代に生まれ変わるかもしれない。そうしたら、俺の評価も知ることができるだろう。これから精一杯人生を楽しんでからのお楽しみだ。


 

 


 

 

 

これにて「金吾中納言の野望」は完結となります。さらに連載を長期化する考えもあったのですが、関ヶ原の戦いまでがメインとなるこの小説をダラダラと引き延ばすのはよくないという考えから完結という形になりました。

最後に、更新を長期間停止するなどご迷惑をお掛けして誠に申し訳ありませんでした。そして、最後までお読みいただいた皆様、本当にありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ