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第三十六話 開校と今後

 学校の開校記念式典は一週間後の師走の一日に挙行されることになった。当然、領主であり発案者でもあるこの俺も参加する。


 慌ただしく月日が過ぎていたせいで、あまり気にはしていなかったのだが、季節は冬にすっかり差し掛かっていた。比較的温暖なこの九州筑前にも、少し雪も降った。現代では、ストーブなりエアコンなりを使えば少なくとも建物の中ではあったかく過ごすことはできる。だが、この時代は違う。

 暖房器具といったら火鉢ぐらいしかない。昔は寒さで震えたりもしたものだが、今は体が順応したのかだいぶ慣れてきた。


 領主とはいえ、実務は家臣のみんなが行うので、平和な時は特にすることもない。読書をしたりして過ごしているうちにあっという間に一週間が経った。


 正午から式典が始まるので、俺は辰政と一緒に最寄りの小学校へ、午の刻の初めごろに出発した。小学校は膨大な数が建設されたので、そのすべてに俺は行くことは出来ない。とりあえず、主要な家臣たちはそれぞれ領内にちらばりって、それぞれの小学校の式典に参加することになった。


 俺もひとりで最寄りの小学校へ向かうつもりだったのだが、殿のことを逆恨みした徳川やその家臣たちの手の者が襲い掛かってくるかもしれないと辰政が言って聞かず、とりあえず念のため、一緒に行くことにした。


 だが、そんな心配はさすがに杞憂に終わった。ちなみに、名島の城下町の中央に俺たちが向かう小学校はある。その名も名島中央小学校。ひねりも何もない普通の小学校だが、まあそれはどうでもいい話だ。


「ああ、誰も襲ってこないとは敵も意気地のない奴らばかりですのう、殿。それがしが相手をしてやるというのに」


 辰政がそう言いながら残念がっていたが、そんなことが起こるほうが異常なのだ。


 小学校の建物はもともと商店が入っていたものの、商売繁盛により店舗の規模を拡大するため、移転。その後、空き家になっていたのを小早川家が接収したものだ。とはいえ、所有者もハッキリしていなかったので、接収という表現は不適格かもしれない。


 ちょうど、小学校の目前までたどり着くと、すでに人だかりが出来ていた。記念すべきこの式典を見学しようということなのだろう。中には、子供を連れている者もいる。入学生徒の親子だろうか。

 人の波をかき分け建物の中に入ると、校長が出迎えに来た。そしてその校長というのは……


「小早川様、よくぞいらっしゃいました! ささ、奥へ」

「奥平殿、ご苦労様」


 そう、俺が採用した奥平殿なのだ。ただ、校長とは言うものの、この学校の全校生徒は四十人ほど。校長以外に教師はいない……。つまり、名誉職みたいなものだ。


「小早川様自ら、式に参加していただけるとは思っておりませなんだ。ありがたいことにござる」

「いやいや、それがしが考えたことにござりまするゆえ。すべてに参加できないことは残念にござりまするが……」


 そんな雑談をした後、俺は式典に参加した。とはいえ、「学業に励んで、生活にぜひとも役立ててもらいたい」などと簡単な挨拶をしただけだったのだが。


 俺はその後、これといってすることもなかったので、城に帰った。今日は式典と今後の予定の説明などだけで終わるので、実質的な授業開始は明日からなのである。これから時間を見つけ次第、視察には行こう。


 城に到着した後、自室に戻った俺は机に頬杖をついて座った。この後もこれといってすることもないので、物思いに(ふけ)るにはちょうどいい。


 天下分け目の戦いが終わって、一月以上経った。俺の主君である秀頼公は大坂城に今もいる。もちろん政務は生母である淀殿と毛利家当主毛利輝元が補佐してはいるのだが。


 以前はそれに加えて、五大老も政治に関しては秀頼公を補佐していたのであるが、五大老の中心人物である家康は今、八丈島。それに次いで重要な人物であると思われていた秀吉の親友である前田利家は先の戦の前に死去。それを継いだ利家の息子の利長は東軍に加担した責任を問われ減封処分になり、五大老による政務の補佐体制は今、休止状態になっている。


 もうそろそろ新年も近づいているので、大坂城へ年賀の挨拶に出向くことになるだろう。もしかしたら、五大老の家康と利長の抜けた穴の補填として就任を打診されるかもしれない。だが、俺はもしそう頼まれたとしても断るつもりだ。日本全国の政治に頭を悩ませるのはなかなか辛い。それならば隠居したほうがら楽をして生きられるのかも。


 この世界に生まれ変わってだいぶ経つ。おそらく現代にはどう頑張っても戻れないだろう。このまま頑張らねば。

 


 


 

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