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第二十八話 戦いの終末

 東三河への行軍途中、刈屋城主の水野日向守が三千の兵を引き連れて、こちらに合流してきた。それを迎え入れた俺たちはなおも東三河へと進軍を続けたが、城にたどり着く前に田中吉政が降伏してきたのである。


 その後も俺たちは、江戸に向かって進み続けたものの、まともに抵抗してくる城はなかった。今更となるのだが、駿河まで進軍してきたところで、大坂に派遣していた早馬が帰ってきた。満を持して輝元が秀頼とともに出陣してくるらしい。


 とはいえ、江戸を落とすまで戦いは完全に終わったとは言えない。そう思って進軍を続けた。そしてついに刈屋から出発してきて、一週間ほど経ってからようやく、江戸城にたどり着いた。


 とりあえず、城を包囲している部隊の後ろに着陣すると、先に城を攻めていた上杉景勝に諸将一同で招かれた。戦況の報告をしてくれるらしい。


 景勝の陣に諸将が全員集まると、景勝が話し出した。


「皆さま、刈屋での戦勝、まことにおめでとうございまする。その戦いにはそれがしらは参加は叶いませなんだが、その代わりと言ってはなんではござりまするが、内府めの根拠地、この江戸城を囲んでおきました」

「上杉殿、それはかたじけないことじゃ。ところで、この城攻めには誰が参加しておるのですかな? 詳しく教えていただきたいのだが」

「まずは我らが上杉、それに佐竹右京太夫殿、岩城左京太夫殿、それに佐久間備前守、里見安房守、佐野修理大夫といった元は内府方だった者たちも参戦しておりまする」

「ふむ」

「それに……結城左近衛権少将殿も」


 秀家の問いかけに景勝がここまで答えたところで、驚きの声が上がった。というか、かくいうこの俺も驚いでいる。結城っていう名字の武将は家康の息子である秀康しか思いつかない。まさか、息子まで家康を裏切った?


「なに!? 上杉殿、それはまことでござるか!?」

「まことでござる。正真正銘、内府の息子の結城殿でござるよ」

「しかし、今になって……」

「結城殿はもともと、内府から冷遇されており、太閤殿下にご恩を感じておった。それゆえ、寝返りの機会を着々と伺っておったらしい。そして今がその時と我が方に馳せ参じたというわけでござる」


なるほど。やはり史実通りの扱いを受けていたのか。だから見切りを付けて裏切ったと。正しい判断ではある。


「よくわかった上杉殿。ちなみに、内府めはいつごろ降伏しそうですかな?」

「まあ、まもなくでござろう。あちらに勝ち目はまったくござらぬゆえ」


 この景勝の話はすぐに正しいと証明された。俺たちが着陣した次の日、江戸城は開城し、家康の一族郎党は全員捕縛されたのである。

 とりあえず全員の名前を挙げると、徳川内大臣家康、中納言秀忠、松平下野守忠吉、武田信吉、松平辰千代、それに家康の家臣や大名たちに嫁いでいる姫三人。

 さらに家康の異母弟、松平家元、異父弟である康元を含めると計十一人もが捕虜となったわけである。


 家康たちの処分を勝手に決定するわけにもいかないので、江戸城内の牢屋に閉じ込めておくことになった。そして攻撃に参加していた諸将たちには称賛の言葉をおくったうえで、必ずや加増のお達しがあるだろうと約束し、領国へと兵たちとともに帰らせた。

 ちなみに、秀康も家康の親族ではあるが、秀吉の養子だったという経緯もあり、おそらくどこか一国の大名になることになろう。史実での織田家のように徳川の血は受け継がれていくこととなる。


 そういった処置を済ませると、俺たちは堂々と江戸城に入城した。さきに包囲していた上杉家などの軍勢が強攻策を取らずに、持久戦を選択して包囲いたのみだったため、城は無傷である。

 家康が本拠としていただけあって、さすが素晴らしい城だ。広々とした堀、頑丈そうな大手門などなど。ただ、天守閣らしき建物は見当たらない。まだ、この時期には建造されてはいなかったのだろうか? おそらく史実通りに時が進めば、さらにこの城は立派になったに違いない。だが、その家康の野望はすでに打ち砕かれた。


「殿、感無量でござりまするなあ! この江戸の城に堂々と入ることができるとは!」

「ああ、そうだな」


 江戸城の中へ兵たちと共に入っていく途中、頼勝が話しかけてきた。


「この滝川内記、我ながら素晴らしい活躍だったと思いまする。殿、左様でござろう!?」

「その通りだ、辰政。褒美は弾ませておくよ」

「おお! それはかたじけのうござる!」


 辰政もよっぽど手柄を立てられて嬉しいらしい。そりゃ、家康の弟を自ら討ち取ったんだから、大活躍には違いない。


「それがしは、これといって……特になにも出来ませなんだ」

「いやいや、重元もよくやったよ。兵たちの指揮、ご苦労様」


 重元は残念そうにそう言うが、特になにもしていない俺に比べれば、よっぽど活躍している。


 そんなふうに家臣たちと話しながら、兵たちを指定された建物に割り振って休憩させると後は自由行動となった。総大将である秀頼や輝元らが到着するまで、特にこれといってすることもないからである。


 自由行動というと、中学の時の東京への修学旅行を思い出す。道に迷ったりいろいろハプニングがあったものの、楽しかった。あいつら、なにやってるんだろう。かれこれ二十年近く前の話である。俺も体は十八歳だが、精神はすでに三十四歳の青年になってしまった。


 いけない、いけない。こんなことを考えていてもしょうがないのだ。俺には未来がある。そんな考えを頭から振り払い、俺は休憩場所として割り振られた本丸へと向かった。そこからの眺めを見てみたかったからだ。


 頼勝たちも連れて行こうかと思ったが、それをやめておくことにした。戦闘と行軍でだいぶ疲れているだろうに、俺の個人的なことに付き合わせるのは申し訳ない。


 数十分ほど歩き、ようやく本丸にたどり着く。普通、本丸というと、物凄く大きな天守閣が(そび)え立っているイメージがあるが、この江戸城はそうではないことにはさっき気が付いていた。そのかわり、何があったかというと……御殿である。そう、二階建ての御殿である。屋根がなんとなく戦国風であるという以外はなんていうことはない、現代にもありそうだ。


 ただ、本丸から見る眺めはやはり素晴らしい。江戸の城下町を一望できる。もとは荒れた小城とさびれた城下町だったという話は聞いているから、家康もその時から比べれば相当に頑張ったのだろう。江戸の本格的な繁栄は江戸時代からなのだろうから、これからもっと栄えていくのかもしれない。ここが未来の東京だと考えると、これまた感慨深い。ただ、歴史のずれで首都が大坂になった。とか十分に考えられる話だからいったいどうなることやら。


 しばらくはこの江戸城に宿泊することになるだろう。


 


 

 


 


 


 

 

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