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第二十三話 動揺する東軍

 秀次の説得を終えた俺と三成は、秀次から早馬を借り、着いてきてもらった護衛のうち三人を岐阜城へと報告に向かわせた。なぜ三人かというと、一人では万が一の事態があったときに、報告ができなくなるからだ。最も、そんなことには絶対になってもらいたくはないが。ちなみに使者を送る理由は、西軍の清洲城入城も秀次から快諾してもらったので、それを西軍諸将に伝えるためだ。


 俺と三成は清洲城に留まって、皆さんの到着を待つことにした。俺の軍勢は頼勝たちがちゃんと連れてきてくれるであろう。三成もそれは同じであの有名な猛将、島左近を始めとした頼りになる家臣がたくさんいる。問題はないはずだ。


 説得で精神が疲れたうえに特にすることもないように思えたので秀次が割り振ってくれた部屋でその日は寝た。すると翌日の朝、俺たちの西軍が満を持して現れた。とりあえず入城してもらうと、俺は三成と共に宇喜多秀家のところへ向かった。詳しいことを自分の口で説明するためである。


「治部に小早川殿! このたびは大手柄でござるな!」


 会うなり秀家は大笑いしながらこう言った。顔もいかにも愉快だという感じである。


「拙者はなにもしておらぬ。次兵衛尉殿の説得をやり遂げたのは小早川殿じゃ」


 三成が俺を褒める。当たり前のことだが、褒められるっていうのは気持ちのいいものだ。


「そうであったか。小早川殿、まことによくやってくださった!」

「いえいえ、大したことではござりませぬ」


 秀家からも褒められ、俺はさらに嬉しくなった。そしてその後しばらく、俺と三成は秀家に詳しい話を伝えると、逆に秀家からの現状報告も聞いた。

 岐阜城には諸将の軍勢を少しずつ借りて一万の守備兵を残してきたらしい。大将は秀家の家臣、明石全登。総大将の代理である毛利秀元を残すという考えもあったものの、家臣である吉川広家が怪しいため、そうは結局ならなかったとのこと。


 秀家の話を聞き終えた俺はすぐさま軍議を開催するように提案しようかと考えた。だが諸将は行軍で疲れているだろうと思えるうえに、入城直後で慌ただしいこの今の状況でそれを言うべきではないと考え直し、翌日に軍議を開催するように提案すると、秀家と三成もその必要性を感じていたらしくそれを承諾してくれた。


 秀家との話を終えた俺は、幟を目印にして小早川家の軍勢を見つけそこに向かった。あっちでも気づいていたのか俺が軍に近づくなり、頼勝らが飛び出してきた。


「殿! 左大臣殿の説得に成功したとのお話、まことにおめでとうござりまする!」

「ああ、いやそんな大したことじゃないよ」


 真っ先に話しかけた頼勝に俺はそう答える。


「いよいよ、それがしの出番が近づいてまいりましたな! 内府の手先の兵など、それがしが先頭に立って蹴散らしてご覧にいれまするぞ!」


 伏見城攻略戦で手柄を立て損ねた滝川辰政が血気盛んに言う。


「殿、あと一押しでござりまする。さっさと敵など討ち果たし、城に帰って休みましょう」


 山口宗永も笑いながらそう言う。


「みんなご苦労! ところで俺がいなかった間に何かあったか?」


 俺がそう問いかけると、頼勝がそれに答える。


「特にはござりませんでした」

「そうか、じゃあとはゆっくり休んでくれ。行軍にも疲れただろう?」


 俺がそう言うと、みんなはそれぞれ散っていった。そんな時、例の偽書状のことを頼勝に聞いていなかったことに気付いた俺は、頼勝に尋ねた。


「頼勝、あの返事を書いた書状はどうなった?」

「何も疑うことなく忍びが受け取っていきました。策は成功でござりまする、殿」


 頼勝はそう答えた。結局のところ間者のことなどそこまで警戒する必要はなかったのかもしれない。ほかの家臣のみんなにも言っておいても特に問題はなかっただろう。後で説明せねば。

 そんなことを考えながら俺は頼勝との会話を終え、自室へと戻った。明日は軍議もあるし、何かと忙しいだろう。体をゆっくりと休めなければ。俺はそう考えていた。


 そしてその翌日、俺たちは本丸の評定の間に集まっていた。評定の司会役は秀家である。そして新たに味方に加わった秀次も、もちろんこの軍議に参加している。


「皆さま全員そろったところで今後の我らの方針を決める軍議を始めさせていただく。さて、まずはじめに喜ばしい報告がござるゆえ、皆さまに改めて報告させていただきまする」


 そう言うと、秀家は目で秀次に合図を送る。


「豊臣左大臣でござる。これより、皆さまに微力ながら加勢させていただきまする」


 秀次が合図に答えてそう言うと、諸将から歓声があがった。ちなみにこれはこっちに生まれ変わってしばらくたってからわかったことなのだが、戦国時代に拍手という文化はないのである。


「そしてもう一つ、嬉しい報告が飛び込んできておりまする。これは三河に放っていた間者からの報告でござりまするが、左大臣殿の西軍加入に東軍諸将、特に殿下恩顧の者たちが動揺しておるとの話。一部では単独でこちらと和議を結んで領国に帰らんとしている者もおるとのこと!」


 秀家がここまで言うなり、諸将からはまたもや大歓声が上がった。


「ハハハ、これで我らの勝ちは間違いありませぬな!」


 長宗我部盛親がそう言って大声で豪快に笑う。


「して、宇喜多殿。その動揺している者たちとは具体的にどこの誰なのじゃ?」


 小西行長が歓声が続くなか、冷静に秀家に問う。


「主に福島左衛門尉、池田三左衛門尉、加藤左馬助といった者たち、それに筒井伊賀守もこちらと和議を結ぼうと画策しておるようにござりまする」


 今更ながら戦国時代には本名というものは、家族や家臣といった人達以外からは呼ばれない名前である。武将同士では普通は官位で呼び合うものなのだ。今、秀家が話した武将たちの名前を現代で通用する名前で言い直すと順に福島正則、池田輝政、加藤嘉明、筒井定次となる。


「これはもはや我が方の勝利は確実でありますな。一気に三河へ攻め入りましょうぞ」

 

 秀家の話が終わると、すぐさま鍋島直茂がそう提案してきた。彼は六十歳を超えた老齢でありながら目つきは鋭い。いかにも戦国の知将といった雰囲気を漂わせた武将である。この戦にも息子と勝茂と共に約五千の兵を引き連れて参戦している。


「うむ鍋島殿、それは名案でござりまするな。皆様はいかが思われるか?」


 秀家が諸将に問いかける。


「それがよいとわしは思うぞ」


 長束正家がまず賛同する。


「わしも賛成いたす。一気呵成に三河へ攻め入り、内府めの首を挙げましょうぞ!」


 武闘派の島津義弘も正家に続いて賛同する。


「もちろん、それがしも異論はございませぬ」


 長宗我部盛親も前の二人に続いて賛成する。


「それがようござるな」

「まったくもって賛成でござりまする」


 ほかの諸将からも反対の声は聞こえてこない。


「異論がござらぬようですのでそれでは明日、この岐阜城より三河へ進軍を開始いたしましょう。ではこれにて解散!」


 秀家がそう告げるとパラパラと諸将が立ち上がりはじめ、評定の間から退出していく。俺もその流れに従い、自室へと戻った。


 




 


 





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