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第十七話 伊勢平定戦

 翌日、加賀方面牽制部隊として大谷吉継、東軍の細川幽斎が籠もる田辺城攻略部隊として小野木重勝らの小大名連合軍を派遣すると、それ以外の軍勢、俺たちは伊勢へ軍を率いて向かった。


 結局、三成は到着しなかったため、伏見城留守役としては石川備後守貞通とその兵三百人を残した。守備兵を多数置かなかったのは、近隣に東軍に属する大名がおらず、しかも大坂城から近いため、ほとんど不要だからである。


 ちなみに三成の軍勢が到着した場合、美濃方面に進軍してもらうことになっている。岐阜城に入り、万が一、秀次が東軍に属したり、東軍の軍勢の領内通過を許した場合の備えである。もちろん、秀次が西軍に与してくれることになったときは、最前線は清洲城になるため、三成とその軍も清洲城へ入城することになる。


 伏見城から出陣した後は、ただひたすらに進み続けた。進軍開始から三日後、三成から使者が来た。伏見城に到着したので、秀家の考えた通りに美濃へ向かって進軍するらしい。


 結局二十日ほど進軍した末、ようやく東軍に属する筒井定次の城、上野城にたどり着いた。俺の軍勢も含めて、総勢四万人の大軍で、さっそく城を包囲した。


 すると城の留守を任されていたらしい、定次の兄、玄蕃は怖くなったのか一回も戦うことなく、城を明け渡して、逃げていったのだった。


 城に取り残された二千の兵も仲間として吸収すると、さっさと次なる目標である、安濃津城へ向かおうということになった。


 上野城入城後の軍議では、城の守将として新庄直頼とその息子、直定が自ら名乗りを上げた。


「ハハハ、小早川殿。万事順調でござりまする。内府めはしばらく、会津から戻ってこられないでしょうし、あとは次兵衛尉様の動向次第でしょうな」


 軍議終了後、秀家が俺に話し掛けてきた。


「その通りですな。しかし、次兵衛尉様のお考えがこの戦いを大きく左右いたしまする。まだ確約は取れぬのでございまするか?」

 

 俺も答える。


「ああ、そうなのじゃ小早川殿。何度も何度も儂からも治部少輔からも書状を送っておるのだが……付くとも付かぬとも、という感じでござってな……」

 

 問題の秀次はいまだに迷っているようだった。気が気ではないのだが……


 翌日、新庄父子の軍と降伏した兵士約二千人を守備兵として残し、俺たちは伊勢街道を進んで、安濃津城へ向かった。


 三日で安濃津城へ着くと、またもや一気呵成に城を取り囲んだ。城を守る富田信濃守信高と分部左京亮光嘉の軍勢と近くの松坂城主、古田兵部少輔重勝の援軍を足しても二千にも満たない。


 敵軍も頑張ったようではあるが物量で押し切り、城は二日で落ちた。秀吉と親しい関係だった木食応其という僧が開城交渉に骨を折ってくれ、長期の籠城は無理と悟ったらしい敵はそれに応じたのだった。


 その勢いで松坂城も一気に攻略。伊勢をほぼ抑えたのだった。


 だが、まだ西軍に従っていない大名はいた。桑名城主の氏家内膳正行広(うじいえないぜんのしょうゆきひろ)と長島城主の山岡備前守景友である。


 だが、そのうちのひとりである氏家行広は自ら、使者を派遣してきて服従の意思を示してきたのだった。


 だが、もうひとりの山岡景友は頑として西軍に付こうとはしなかった。なので、長島城を攻略しようと決まった時だった。


 東軍諸将の軍勢が尾張にまで迫ってきたという知らせが届いたのである。俺たちは満場一致で、美濃方面への転進を軍議で決定した。


 これでもうそろそろ戦いも山場と感じていた松坂城を出発した日の夜のことだった。眠りかけていた俺のところに頼勝がゆっくりと近づいてきて、耳元で囁くようにして言った。


「殿……内府殿から使者が参り、書状を置いていきました……」


 俺は耳を疑った。内府、徳川家康から書状!? 心臓がにわかにバクバクし始める。


「なに? 頼勝、それは本当か?」

「本当にござりまする。ここのその書状が……とりあえず、お読みくだされ」


 頼勝から書状を受け取り、封を開く。


「小早川殿が石田方に付いたと聞いて驚いています。ですがきっと、それは毛利家の家臣である身分から仕方がなく従ったものだと思っているので、まったく怒ってなどいません。石田治部少輔は太閤殿下に媚びを売っただけで成り上がった小人であり奸臣です。小早川殿もそういった話を聞いたことがあるはず。豊臣家を守るためにもぜひ、この徳川家康に力を貸してくだされ。母君である北政所様もこちらを支持しておられます。勝利の暁には、宇喜多領の岡山をそっくりそのままお譲りしましょう。どうかどうか、合戦の際にはこの私に力をお貸しください」


 書状にはこんな内容が、平身低頭で書かれていた。


 俺が読み終わったのを見計らったのか、頼勝が尋ねてきた。


「殿……殿が太閤殿下へのご恩を感じておられることは重々、承知しておりまする。ですが、小早川家のことを考えれば、内府殿の方に付いた方が、得策なのではございませんか? 戦況次第で……考えをお改めになっても、その……殿を責める民百姓はおりますまい」


 沈黙がしばらく続く。


「頼勝、その書状はとっておけ」

「殿! それでは」

「いや、石田を裏切りはしない。しないが……念のためだ」


 俺は頼勝にそう言った。高台院様には実の母親のようにお世話をしてもらった。その考えを無下にはできない。だが、秀吉の恩に報いるには、西軍に付くのが一番良い。歴史が俺にそう告げている。






 

 


 

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