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第十四話 急転

 書状をなんとか書き終えた俺はそれを重政に託し、出発させた。重政は「殿! それがし、我が力全てを使い、出来るだけ早くこの書状を届け、戻って参ります!」と豪語していた。このハリキリようと馬の駆ける速さを考えれば、そう長い時間も掛からずに三成と正成のところに着くだろう。


 史実での三成挙兵は、旧暦の確か……七月の中旬ごろだったはず。そう考えれば、まだまだ余裕はある。


 結局、重政は7月の9日になって帰ってきた。昼頃、定例の評定や食事も終え、暇だ暇だ。姫のところにでも行こうかなと思っていた時、部屋の障子が開き、重政が入ってきたのだった。


「殿! ただいま帰って参りました。書状、確かに石田殿と稲葉殿にお届けしましたぞ」

「おお、お疲れさま。しばらく、ゆっくりしてていいよ」


 俺は労いの言葉を掛ける。早馬で一日中駆けるのは相当疲れるだろう。


「ははっ、ありがたき幸せ」

「ところで、どういう反応をしてた? 石田殿と正成は」

「はっ。石田殿は殿の書状をお読みになると、とても嬉しそうになさいました。そして、『心遣い、誠にかたじけない』と伝えてくれとおっしゃいました」

「なるほど」

「稲葉殿は殿がお変わりないか、心配なさっていましたぞ。戦の準備の件は『しっかと承りました』とのことでござりました」


 心配性なもんだ、正成も。


「わかった。本当にお疲れさん。あとは家に帰ってゆっくりしていいぞ」


 俺がそう告げると、重政は部屋から退出していった。これで、完全に俺ができる準備は終了。あとは、天と三成の才に頼るのみだ。


 それから、一週間は何の動きもなかった。嵐の前の静けさといったとところだろうか。俺はこれといったこともせず、静かに過ごしていた。ひょっとすると、近いうちに浪人になってしまうかもしれない。そうなる前に城主気分を満喫しておこうと思っていたからだ。豪華な食事ともオサラバかも。


 事態が大きく動いたのは、7月16日のことだった。


 評定兼出陣準備の進展状況の確認をしようとしていた時だった。頼勝が使者らしき人物と一緒に広間に入ってきたのである。


「小早川殿、それがし、毛利様から遣わされて参った使者でござりまする。まずはこれをお読みください。石田治部少輔が内府を倒すべく決起し、毛利様が総大将になり申した」


 三成が決起!? ついにか。そう俺は思った。もうそろそろじゃないのかなあと感じていたところである。書状も受け取り、読んでみる。内容は、


「石田方の総大将になったので、大坂城に早急に軍勢を率いて入る。小早川殿も出陣して大坂に向かって欲しい」


 という簡単なものである。


 用件を果たした使者が俺に挨拶をして帰っていくと、家臣のみんなが話し始めた。


「殿、いよいよでございますな。こうなりましたら、すみやかに大坂に向かいましょうぞ」


 使者を連れてきた頼勝が言う。当初、俺が三成方に与することに反対していた彼であったが、一度俺が決めたことには従う男だ。頼もしい。


「それがしも、武具を用意しておきまする。いつ出陣いたししょうぞ、殿。ただ……しつこいようですが、寝返ろうなど決して考えないようにお願い致しまする」


 やる気満々でそう言うのは、重元である。


「それがしも早う、武功を立てとうございまする。殿の名を天下に轟かせましょう!」


 同じくやる気満々な辰政。小田原征伐で武功を立てた猛将である辰政にとってはいい機会なんだろう。


「殿と我らは一蓮托生。内府などさっさと倒し、加増恩賞を思いのままに致しましょうぞ、殿!」


 宗永が笑いながら言う。こうやってふざけているようで、実は真剣なのは宗永なのだ。武具の手入れや戦の用意のために動く農民たちの指導も、彼が一番真剣にやっていたと言っても過言ではない。


「この長崎弥左衛門尉元家。殿の為に死力を尽くしまする。なんでもお申し付けくだされ」

「それがしもでござる。殿、なんなりとご命令を」


 元家と正吉も同調する。


「ありがとう、みんな。じゃあ、今日中に準備をしてくれ。明日、出陣だ!」

「「オー!」」


 準備のために、みんなが広間から出ていく。その姿を見届けた俺は、自室へ戻った。


 俺と家臣一同、まとまったはいいものの、まだ前哨戦すら始まっていない。ただ、輝元が総大将に就任しただけである。しかも、輝元が総大将ということは……秀次はどうしたんだろう? 断られたんだろうか? いや、それはないだろう。秀次が明確に総大将への就任を拒否したら、西軍、石田方は戦どころではなくなる。はぐらかされたといったところであろうか。


 家臣や古満姫のことを考えれば、絶対に負けられない。もし負けてしまったら、俺も含めて全員路頭に迷うことになってしまう。


 明日、出陣……八千の兵、正成の率いてくるだろう兵も加えれば、計一万一千人の兵を俺が指揮することになる。なんとしてでも勝たねばならぬ。というか、秀次を石に齧りついてでも、こちらに加勢させねば。


 


 

 


 


 





 


 



 


 


 

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史実の危機を回避して生き残らせた筈の秀次がここで不安要素になるとは…
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