第一話 転生
山中悠馬、16歳。高校一年生になったばかりの俺の人生はトラック事故によって、終わったはずだった。
だが……目覚めたときには、俺は転生していた。というのも、寝かされていたのが、あきらかに病院ではなくさらに……体が赤ちゃんになっていたからだ。どうやら、時刻は昼間のようだった。
転生というと、ファンタジー世界で与えられたチートな才能を駆使して、無双! とかをつい、考える。俺も最初、そういう期待をしていたが……まわりを見渡しているうちにすぐ気が付いた。少なくとも、西洋風のファンタジー世界ではない。部屋は完全に和風だ。
だが、幸いなことに家具や部屋の質を考えると、俺はどう考えても、農民や町人の息子ではないようだし、大商人か大名・家老クラスの子供に転生したようだ。東洋風ファンタジー世界なのか過去なのかはともかく。
もしかして、戦国時代に転生? 俺は、考えた。だとしたら、どんな武将に転生したんだろう? 織田信長や武田信玄、上杉謙信とかだったらいいなあ、姉小路頼綱とか一条兼定とかは絶対に嫌だ、そう俺は思った。
そもそも俺は、歴史はそれなりに好きだけど、さすがにその辺の人たちの人生はよくわからない。まったく知識もないのにマイナー大名や武将に転生しても本当にヤバイ。現代の知識が役に立たないなんて、困るんだ!
それからしばらくは俺が誰であるかすら分からなかった。だが、母親らしき女性とそのまわりの女中たちの会話を聞いているうちに分かった。
ここが完全に東洋ファンタジー風世界ではないことはすぐにはっきりしたし、俺の名前は木下辰之助だということも分かった。お父さんの名前は木下家定。なんと、あの豊臣秀吉の正室、高台院つまりねねの兄らしい。
俺が生まれたのは、天正10年。戦国の風雲児、織田信長はとっくに本能寺で倒されており、戦国乱世の時代は終わりを告げようとしている時代だった。
正直いって、微妙なところに生まれたな。俺はそう思った。まあ天下人の親戚でまだよかった。木下家定なんていう武将は聞いたことがなかったけれど……俺って結局、何者?