敵がいない……? よし、走ろう。
とんでもなく短いです。
――クエストが開始されました。
転送された先は、森。柔らかな光が降り注ぎ、鳥の声が耳に心地良い。
魔人が潜んでいるとは思えない、優しい、森。
「さて、ナセさんや。教会はどっちかね」
「あー、とりあえずまっすぐだな。というか、そろそろマップ見ることを覚えようぜ……」
いや、地図とか苦手だし。読めないし。むしろ邪魔だから消してるし。
そう言うと、ナセは苦笑い。
「まあそんな事はいいじゃないか。それよりさ」
「ん?」
「このクエストって、もしかしなくても他パーティーと合同?」
ナセがシステムメニューを呼び出し、クエスト情報の確認しながら、
「そりゃそうだろう、オンラインゲームだし」
「今までクエストで他パーティーと一緒になったことないぜ?」
「そりゃお前、可能な限り人のいないロビーでクエスト受けてたじゃないか」
だって会えばからかわれるし。嫌なこといっぱいだし。
「……ま、進もう進もう」
それから大体二時間。僕たちはまだ目的地に辿り着けずにいた。
その間の戦闘回数はわずか3回。あまりにも敵がいない。いくら優しげな雰囲気の森だからって、敵はいる。さすがにこのエンカウント率の低さはおかしい。
「……狩り尽くされたかな」
「かもな」
ああ、やっぱり。だから嫌なんだ、他パーティーと一緒なのは。
こんな事をするのは一部のプレイヤーだけだというのはわかっている。もしかしたら今回のこれは悪意がないのかもしれない。が、だめだ。つい、このゲームを始めたばかりの事を思い出してしまい、気分が沈んできてしまった。
「ちょっと、走ってくる……」
「ん、迷子になるなよ」
「おう。……いつも、悪いな」
「構わないさ。まあ気分が持ち直したら戻ってこい」
「ん」
一言。
そして、走り出す。今の自分が出せる最高のスピードで。
沈んだ気分を振り切るように。
僕の先を行く、頼もしい背中に、届くように。




