目つきの悪いお人好し。
短いです。
よくある話ですが、ふと書きたくなったので。
「おーい、和平ー」
昼休み。退屈な授業もあと少し。午後に備えて寝ておこうかと机に伏せた瞬間、クラスメイトの水無瀬修二が声をかけてきた。
けれども、眠い。反応するのが億劫である。よし、聞こえないふりをしよう。
「……」
「おーい、起きてんだろ? 無視すんなよ」
何度もしつこく声をかけられる。仕舞には体を揺さぶられる始末である。ええい、邪魔だ。
「……なんだい? 修二さんや。もう夕飯の時間かね?」
「ほら、起きてるじゃないか」
仕方なく反応すると、嬉しそうに目を細める。僕のボケにはノータッチだ。
……突っこんでくれてもいいのよ?
まあ無視してたのは僕の方だし言えたことではないけれども。
そうは思いつつも、
「……少しは突っこんでくれてもいいじゃないか」
言葉に出してしまう。ちょっと、恥ずかしい。
「はは、まあいいじゃないかそんなこと。さて、和平君。君に相談がある」
ニッと笑いながら、修二。
なんだい、と言いかけてふと思い至る。こいつが僕に相談することは一つしかないじゃないか。
「FWOか」
「おう」
フリーワールドオンライン。通称FWO。ゲーム内で自身がキャラクターとなり、行動する。自分で身体を動かす。所謂VRゲームである。
「クエストか」
「おう」
「んじゃ、帰ったらロビーで」
「おう」
以上、相談終了。
「んじゃ、寝る。おやすみ」
「昼寝中悪かったな、おやすみ」
……律儀なやつ。
ちゃんと挨拶をしてくれるこいつは、好ましい。好ましいのだが……。
「……なあ、修二」
「ん?」
手をひらひらさせながら教室を出て行こうとしていた修二に、一言。
「お前、相変わらず顔怖すぎんだろ」
「うっせ」
水無瀬修二。律儀で、友達思いの優しい奴。
目つきの悪さで不良だと思われている、不憫な奴である。
さて、ようやく放課後である。
自由である。遊びの時間である。
ある者は部活へ。ある者は友人と共に街へと向かう。
――さっさと帰ってログインするか。
僕はもちろん――即帰宅からのFWOコースだ。
修二はというと、既にその姿はない。HRが終わった瞬間に飛び出すのを確認している。
「部活の1年がさ、水無瀬にカツアゲされたって」
「深夜に金属バット持って暴れまわってるらしいぜ」
……また、変な噂が増えていた。
――ナセがログインしました。
FWO第40ロビー、ルーム23。周囲に他のプレイヤーの姿はなく、静かな音楽が流れている。
第1ロビーから第365ロビーまで存在するこのゲームでは、それぞれのロビーに、『討伐クエスト推奨』、『PvP推奨』などが設定されている。
その中でもこの第40ロビーは特殊である。
このロビーにのみ、早い者勝ちではあるがルームが設定されている。一度入室し鍵を設定してしまえば、入れるのはフレンドのみだ。
推奨されているもの。それはずばり『お昼寝推奨』である。完全にスタッフの趣味だ。
目を閉じゆったりと音楽に耳を傾けていると、システムメッセージ。修二がログインしてきた。
現実と同じように引き締まった体躯。髪は短め。顔はもちろん違うが、目つきの悪さはそのままだ。
「遅かったじゃないか、僕より早く教室を出たと思ったけど」
「いやぁ、教師に捕まってなー。参ったよ」
「また、噂……だよな」
「おう、今度はカツアゲ疑惑。落とし物拾ってやっただけなのにビビりやがってよう、あの1年」
「はは、災難だったな」
本当に、こいつは。
声をかければ逃げ出され。落とし物を拾えばカツアゲ疑惑。絡まれていた女性を助ければ通報され。
目つきの悪さで面倒事に巻き込まれ続けて、それでも。
誰よりもまっすぐであろうとするこいつは、すごく、尊敬できる。
「……さて、行くか」
「ん、そうだな。頼んだぜ、スピードジャンキー」
おい、その名で呼ぶなこの野郎。
クエスト選択。教会に潜む魔人を討伐せよ。
転送開始。10……9……
「そういや、ナセさんよ」
「ん?」
5……4……3……
「深夜に金属バット持って暴れたんだって?」
「はぁっ!?」
……ゼロ。クエストスタート。