第一話
どこか遠いところにある、剣と魔法と魔物の世界。その中の魔族が住まう国では、王城の最上階で白髪の魔物が三枚の姿絵を玉座に座る青年に見せていた。
「いかがです、ぼっちゃま。特にこの真ん中の娘など、大変な美人であると評判ですが」
「そうだね。いいんじゃない」
「ぼっちゃま。せめて、姿絵を見てから答えてくださいまし……」
白髪の魔物の落胆する声に、玉座に座る青年は姿絵のほうに顔を向ける。黒い瞳で三枚の姿絵を順に見ると、青年はまたすぐに手元の書物に視線を落とした。
「どうでしょう。この中に花嫁に迎えたい娘はおりませぬか」
「チャールズ。いい加減にしてよ。僕はまだ結婚する気は無いって、何度言えば分かるんだ」
青年は先ほど白髪の魔物に答えたときよりも、語気を強めて言う。その威圧に白髪の魔物は後ずさりかけたが、踏み止まって再び口を開いた。
「ぼっちゃま、もう少し自覚してくださいませ。あなた様は我らが魔族の王なのです。女性と結婚し跡継ぎを残すことは、国の未来のために必要なことなのです……」
白髪の魔物の力説を、青年は何の反応もせずに聞きながす。青年は、白髪の魔物がこの内容の話をするのを既に何度も聞いていた。一番最近でいうならば、今日と同じように娘の姿絵を持って彼がやって来た十日ほど前か。
「はぁ……。もう付き合ってられないよ。いこう、レグルス」
「オオーン」
青年は玉座の隣に伏せていた青い獅子の魔物に声をかけた。レグルスと呼ばれた青い炎のたてがみを持つ獅子の魔物は、しゃなりと起き上がり主君の横にぴたりと付く。
「あぁ、ぼっちゃま! どこへ行かれるのです!」
レグルスを従え窓辺へと向かう青年に、白髪の魔物が大声で問いかける。
「仕事だよ。人間界の偵察。何か不穏な動きが無いかチェックしておかないとね」
「ギルバートぼっちゃまーー!」
窓から飛び降りた青年は背から生える大きな黒い翼を広げ、滑空する。レグルスは城の壁を器用につたい降り、空を行く主君に合わせて地上を併走する。
「あぁ、行ってしまわれた……。お仕事に対してはあんなにも熱心でありますのに、女性関係の話となるとどうしてこうも嫌がるのでしょう」
瞬く間に遠ざかる青年の背を見つめながら、白髪の魔物は呟いた。
「美しい娘も可愛い娘もそれほどでも無い娘も、またツンデレ、巨乳、ロリっ娘、お姉さま系、妹系などこれまで様々な女性を連れて参りましたが、ぼっちゃまが興味を示された方はいまだおらず。いったい何が足りないというのでしょう。爺には分かりませぬ……」
主君が留守にした後の玉座の間には、白髪の魔物の胸中のみが垂れ流される。
「後継ぎという理由もありますが……お生まれになられた頃よりお仕えして参りましたぼっちゃまには、ぜひとも愛し愛される喜びを知っていただきたいというのが爺の密かな贅沢であります」
白髪の魔物は青年が飛び出して行った窓から外を眺め、深いため息をついた。
「どこかに、ぼっちゃまの心を動かすような、素敵な女性はいないものでしょうか……」
ディズニー映画みたいな雰囲気が目標