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プロローグ 6

「 これ、俺の最新作ね。

撃ち込んだのは特殊合金に二層包まれた弾丸や。

最初の金属が溶けても、最後は必ず獲物に到達するし。

お得意の熱いのが効かんで残念やったちゃね~。 」


新しく買った玩具を友達に自慢するように、

少年は翡翠色の瞳を輝かせている。


サイクスは自分の体の自由が奪われていることも、

新たな追手が現れたことよりも、

信じられないものをみたかのように、思考が止まっていた。


暗がりの道から現れた少年は、


服装は全く違うが、


サイクスが眉なし男との戦闘を開始する前に出会っていた。


手加減せず蹴りつけ、

踏みつけ、

唾を吐き、

足に残る首を折った感触も生々しく残っている。


黒い血だまりに沈む物乞いの少年と全く同じ顔をしていた。


生きるのも必死で死と隣り合わせの弱弱しい表情ではなく、

健康的で明朗快活な少年がそこにいたのだ。


「 手加減なしでやりやがって、めっちゃ痛かったわ。

しかも、汚い唾までかけられち、俺けっこう頭にきてるんよ?

お返しは俺でもいいけど、うちのリーダーがやる決まりなんじゃ。

遊んでやれんで勘忍してなぁ。

かよわい少年いじめの十倍返しを楽しんでな。 」


でたらめな訛りが怪人の頬を引きつらせていく。


遊びの誘いを断るかのように、

ものすごく残念そうに小銃を

ハーフパンツの上からつけたガンホルダーに仕舞いこむ。


全ての状況が把握できてないサイクスを無視して、

白狼に視線を移すと、少年は顔をしかめて呆れ声をだす。


「 おま、アホやと思っとったけど、ほんまもんのアホじゃね。

てか、ボロボロやん。

囮くらい余裕だぜって言っちょってなかったけ? 

うわ、傷口グロ…。 」


少年の遠くからの批判に、白狼は、こめかみをひきつらせる。


「 アホ、アホ言うな!

大体お前がまとめた報告書穴だらけじゃねぇかっ!

何が三日間で突然変異レベルが急激に上昇することないから、

肉弾戦でもオッケーなんて軽く言いやがって、

コート、ボロボロになっちまっただろぉおおお! 」


「 …コートの心配する前に、自分の傷、見ろや、アホ犬。 」


「 おいおいおい、年長者に向かってその口の利き方!

てか、お前の芝居下手すぎんだよルート変更どころか、

クソ戦いにくいとこに誘導しやがって! 」


「 はぁ?じゃかぁしいわ、ボケ、カス。

お前が見失ったターゲットを俺がどんな思いで探知機付けたと思っちょうんじゃ!

誰のおかげで任務失敗免れたと思うてん。

…傷口に塩塗っちゃろうか?」


でたらめな方言を機関銃のように繰り出した少年は、

冷めた目で付き合ってられないとばかりに長い溜息をついた。


何が起こっているのか全く事態に追いつけずにいるサイクスであったが、

現状を打破するには今しかないと、

混乱した思考の中で、決断する。


あの男娼の少年もこの男の仲間だったとは計算していなかった。


わざと俺に近づき、探知機をつけられていたのだ。


サイクスは、次第に動かなくなる体をどうにかするために、

もう一度、集中力を高めて熱を上げようとするが、

冷却液を流し込まれた体を軋ませて能力を使おうとした瞬間。


白狼が背にしていた壁に異変が起こる。

張りつめた糸が戦慄くような澄んだ音。


まだ熱を帯びて朱色にそまったコンクリートに、一閃が走る。


白狼の身長より大きな半円を描いた壁は、

そっくりそのまま低音を響かせながら少しずつ前へと倒れ始めた。


綺麗な円に崩れ落ちるコンクリートの巨大な影が白狼の真上に覆いかぶさっていく。


「 んあ?・・・って、おいおいおいおいおい 」

「 うわ、それは俺も想像しちょらんよ…やりすぎやろ… 」


頭上に現れた影に、首をかしげた白狼が振り返る。


が、時は遅く、ゆっくりと崩れたコンクリートは、無常にも彼に覆いかぶさっていった。


轟音と、砂煙を巻き上げ、巨大な壁の下敷きになった白狼。


サイクスはここぞとばかりに、掴まれた腕を、引き抜こうとする。


凍結された体は、脆くなり、枯れ枝を折った音を立てて、

肘から先が折れちぎれてしまった。

激痛に顔を歪ませるも、サイクスは倒れたコンクリートの下敷きは免れた。


もうもうと立ち込める砂煙と灰の中、

折れちぎれた腕を抱えてサイクスはその場から逃げようと、

もつれ足になりながら袋小路の出口へと向かう。


片腕を失い、冷却液を流し込まれ、

一時的に熱を操ることができなくなっていたが、

少しずつ体の感覚を取り戻しつつある。


後から現れた少年の戦力は未知数だった。


だが、おそらく今の状態でも切り抜けられると踏んだ彼は、

迷うことなくまっすぐに突き進む。


残された腕から、小さな骨をハリネズミのように飛びださせたかと思うと、

一瞬にしてその針山が一本の巨大な錐に姿を変えた。


加速しながら近づく怪人の姿に怯えることなく、

少年は緑に光る瞳をそらさずに、その場から動かなかった。

その瞳の中は恐怖には染まらない。


サイクスは苛立つ。どいつも、こいつも、厭な目をしてやがる。


くそくそくそ、なんだよ、その眼、

なんなんだよ、怯えろよ、自分は絶対殺されないとでも思ってんのか。


映し出される記憶の中のフラッシュバック。


サイクスが生きてきた場所では、

皆、いつ迎えるかもわからない死を恐れていた。


死を目の前にして平然といられるはずがないのだ。


悟ったかのように自分の死を迎える人間だって、

自分の最期が目に見えてしまったとき、

誰しも、苦痛の果てに訪れる永遠の闇を恐れて一度は瞳から光が消えるのだ。


彼は、獣の咆哮を上げ、

少年に鋭い錐となった骨を振りかざす。

錐のような骨の先端が、少年の丸い眼球を目掛けて突き破ろうとする。

あと数センチで完全に片目の光が失われようとしているのにも、

関わらず少年はサイクスを見つめていた。


怪人の瞳孔のない瞳がほんの僅かに揺れ動く。

サイクスの瞳に映る世界がぼやけていく。

彼は、本能では受け止めていたのだ。


自分は、ここで、コンティニューのないゲームエンドを迎えるということに。


 死に怯えていたのは、自分のほうだ。


「 目標殲滅完了[オーダーコンプリート]。 」


少年の声でも、


白狼の声でもない、


第三の声。



真冬の空のように澄んだ声だった。

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