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龍の紋章  作者: 森見幸成
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現状把握、未知との遭遇

 タイトルの割に大したことはないです。

 とりあえずどうぞ!

現状把握、未知との遭遇


 眼下に広がる緑と茶。何故か青や赤もあるが、とにかく豊かな自然らしきものが見える。


「……」


 もう叫ぶのはやめている。疲れるから。

 俺が落ち始めてから、体感的に半日ほど経った。初めは見えていた馬鹿でかい太陽も、今は地平線に半分ほど沈んでいて、そろそろ夕方、と言った空模様だ。

 地平線があるので、この星は球体なのかな、などと考えながら、俺は訪れる、もとい訪れている人生の終わりを待っていた。

 太陽と逆の方向を見れば、これまた地球サイズとは比べ物にならない赤と青の月が。夜も近いのだろうか。

 またしばらく落ちて、だんだん落下地点の予想も立った。どうやら俺は森の中で肉塊と化すらしい。

 ああ、まずい。走馬灯が巡ってきた。

 両親と遊んだ記憶。いなくなった記憶。婦警さんのイライラした顔、孤児院での上下関係の構築。トップに立つのは大変だった。家の権利獲得の際に闘った不動産関係の人、並びに弁護士の方。どうもありがとう。

 そして零細道場の主。クマゴリラとか言ってすまん。タイヤの空気を抜いたことは後悔していない。

 八百屋の夫妻。こんな俺に、優しくしてくれて、感謝してます。

 そして、レン。

 あいつは、どうしているだろうか。

 オカルトをこれまでのように追及しているだろうか。摩天楼のオカマ達に掘られていないだろうか。

 家族とうまくやれるだろうか。

 もう会えない人たちのことをひとしきり案じ、いよいよ地面が近くなってきた。

 ……俺自身は、どうだったろうか。

 一人よがりで、打算的で。人の厚意を無下にして。


「できれば、もっと、有意義に生きたかったな」


 おそらくかなわないだろう希望論を胸の内で唱え、俺は目を閉じた。

 空気が変わる。おぼろげに木々のざわめく音が聞こえる。


(ふん。それが叶うかは分からぬが)


 俺は目を見開いた。


(ここで死なれては、こまるなあ)


 そんな声が響くとともに、俺の意識は暗転する。

 遠く、何かが叫ぶような音が聞こえた。


―――――――――――――――


 それは、突然に起こった。


「――様!大変です。ここから西方の森、『聖域』の奥で、莫大な魔力反応――それも、『龍種』の反応が」

 

 血相を変えて入ってきた部下の無礼に眉を寄せ、そしてその報告に軽く目を見開く。

 変化には気づいていた。遠く、何故か空を縦に割るように光が落ちてきたのだ。

 まさか、それが『龍』だとは。


「至急あいつを呼べ。会議室で待つ、と」

「はっ!」

 

 敬礼して去る部下を見送り、私はため息をついた。

 これ以上の懸念事項は、勘弁してほしいのだがなあ。

 頭をよぎった別件の内容を思い出し、からだを震わすと、私は自身の執務室を後にした。


―――――――――――――――


 ぱらぱら、と、顔に何かが当たり、俺はゆっくりと目を開ける。あたりは暗い。

 体を起こすと、なんら問題なく動いた。


「生きてるのか」


 若干信じられなくて、そう呟いた。

 ためしに立ってみると、どうやら俺はすり鉢状の穴ぼこの中に立っていたらしく、地面に埋まるような感じになっているようだ。

 穴から出てみる。どうやら半径十メートル程の規模の穴が地面にうがたれているようで、まるで隕石でも落ちてきたかのような有様である。


「でも落ちてきたのは人間でしたっと」


 おどけてみるが、何故か滴った冷や汗は止まらない。

 ここはどこなのか。今は何時なのか。いつ夜は明けるのか。いろいろ懸念はあるが、突如響いた獣の声に、俺はとっさに身構えると、そろりそろりと動き、手短な木に登った。

 果たして、声の主は集まってくる。


「オオカミ、か?」


 疑問形になったのはしょうがない。オオカミは普通燃えていないのだ。

 鬣を炎に変えたオオカミ風の化け物――ファイアウルフとでも名付けようか――は地面のクレーターを眺めた後、警戒するようにのどを鳴らして、やがて去っていった。

 その光景に、今は空の上にいるであろう彼女の、「命が軽い」といった言葉を思い出し、身震いする。

 満点の星。そしてその輝きを飲み込むかのような二つの月を見上げ、俺はつぶやいた。


「夜が明けてから、考えよう」


 そうして無理やりに目を閉じ、一向にやってこない眠気を待ち、どうにかまどろみ出した頃、遠くの空が白んできた。

 案外に寒かったらしく、腕を伸ばすと関節がポキリ、となったが、幾分か頭はすっきりした。

 感覚を鋭敏にし、動物の気配がないことを奇妙に思いながら、木から降りてみる。軽く降りたつもりだったが、着地とともに足の裏から脳髄まで痺れるような痛みが襲い、悶絶する。


「痛ってー……と、とりあえず、準備運動からだな」


 すう、と息を吸い込み、冷えた体をゆっくりとほぐし、俺はべた足からフットワークを使い、シャドーでパンチを放つ。時折蹴りを混ぜ、その威力や速度に何ら変わりがないことに、チートはないな、と落胆した。ここに来てみて、あの獣を見て、切実に欲しいと願うが、彼女の言からそれも見込めないのだろう。なにせ俺はイレギュラーな存在だったのだから。

 何とか体が温まったのを自覚すると、俺は周りを見渡し、背の高い木はないか、と探す。

 果たして、少し遠くの方に周りの木々とはぬきんでて背の高い木を見つけ、その方向に歩き出す。


「……やっぱりおかしいな。鳥のさえずりさえ聞こえないなんて」


 歩きながら、考える。この世界に着て寝てた時間を差し引けば体感的には二時間くらいは経っているが、遭遇した生物はあのファイアウルフだけなのだ。もちろんここは異なった世界なので地球とは理が違うのかもしれないが、地球と似た、中世ぐらいの文化ならば、森にたくさん動物がいてもおかしくはないはずだ。

 だが、実際森は静寂に包まれ、音と言えば俺の枯れ葉を踏みしめる音くらい。俺は心配になった。


「のたれ死ぬんじゃ、ないだろうな」


 その言葉に苦笑しながら首を振り、目的の樹にたどり着いた。幹に手をかけ、問題のないことを確認すると、登り始める。


「よっと……おー、よく見えること」


 上まで登り、辺りを確認すると、思わずそんな声が出る。

 はるか遠くの方に、なんだか細長い塔のようなものがたくさん見え、初めての文明的なものの発見に感動する。これで生存への希望が見えた。即座に樹を降り、その方向に向かって歩き出す。心なしか足取りが軽いことを自覚し、苦笑する。


 だが、結果と言えば、はやる気持ちもあってか、歩けども歩けども、街道を見つけるどころか森すら抜けることができない。いつの間にか高く上った太陽と、相も変わらず静かな森が、俺の不安を助長した。

 幸いにして少しだけ残っていた非常食を、先程見つけた川の清水でのどに流し込むと、とうとうそれも尽きた。


「それにしても、暑いな」


 そう、変化はある。単なる時間経過による気温の上昇とは明らかに違う、どちらかと言えばじりじりとした感じが四方八方から襲い、俺の歩みを緩める原因となっていた。


「やべ、あち」


 思わずそんな声が出て、耐え切れなくなった俺はその場にへたりこむ。その地面も熱を持っていて、もはや救いようがない。

 くそっ、と悪態をつき、俺は再び歩き始める。汗腺から絶間なく汗が吹き出し、一歩一歩進むごとに暑さは増し、サウナの中にいるかのようだ。

 ああ、まずい。意識がもうろうとする。

 そう感じた時、ついに俺は倒れた。首だけ前に向ければ、遠くに陽炎が揺らめき、森の中だぞ、と笑う。

 頭が痛い。景色が回る。

 くるくると木々が回り、最期のあがきとばかりに俺は仰向けになった。

 その時、途端に体の不快感が消えた。気持ちが悪いのは変わらないが、暑さが急に消えたことで息も正常に吸える。

 はあ、はあ、と荒い息を吐きながら体を起こす。水を取り出してみるが、何と一滴も入っていない。代わりに入れていたペットボトルはパンパンに膨らみ、暑さで気体に変わったと分かる。今さらながらぞっとした。


「これが異世界の気候なのか?だったらえらいことだぞ」

「そんなわけがなかろう」


 そう何気なくつぶやいた時、どこからかそんな声が聞こえ、つむじ風が吹いた。思わず顔をかばうと、俺の頭上に影が差した。

 恐る恐る目を開けると、そこには。


「……肉球?」


 ピンク色の、愛玩動物の人気一位の体の部位がそこにはあった。ただし、サイズが桁違いだったが。

 思わず指でつついてみる。充分な弾力があり、俺は思わずおお、と声を漏らしていた。

 しかし、同時に気付いてもいた。肉球があるのなら、足がある。足があるのなら、体もある。

 

「……やめろ」


 唸るような声の主を、俺は果たして見上げた。

 燃えるような、いや、実際に燃えている体毛が目にまぶしい。


「……サーセンした」


 ファイアウルフ(仮)が、そこにいた。


―――――――――――――


 ほの暗い闇が、あたりを支配してから久しい。

 今、俺はファイアウルフ(仮)に「ついてこい」と言われ行き着いた先の、切り立った崖の半ばほどにある洞窟にいる。

 着いたのは体感的に四、五時間ほど前のことだが、目の前にいる狼からは何もされていない。どこからか咥えてきた血の滴る生肉をどちゃっと言う音を立てて渡されたときは、こいつの食卓に登るのか、と焦ったが。

 ただ、焼けた肉をがつがつと食う俺を、じっと見つめてくるだけだ。


「……」

「……(もぐもぐ)」


 だがいい加減に気まずい。何故かこいつは俺の挙動に敏感に反応するし、まだそんな気持ちにならないからいいものの、便意を催したらどうしよう。

 そんなことを考えていると、燃える狼はぐるる、とのどを鳴らし、横に長く裂けた口を開いた。


「お前は、なんなのだ」

「?」

 

 なんなのだ、と言われましても。七海龍とも、異世界から来ました、てへっ!などとも、実によりどりみどりな答えがある。

 そんな俺の気を知ってか知らずか、狼は再び口を開いた。


「……質問を変える。何故、お前はあそこにいた?そして、あの森を歩いて何故生きていられるのだ」

「えっと。俺に答えられることは、実に少ないのですが」


 結局、あの門番の存在だを隠して、洗いざらい伝えた。異世界からきたこと。何故か空にいて、この森に落ちてきて、クレーターを作りながらもなんとか生き残り、歩いていたら行き倒れ、狼と出会った、と伝えた。

 ……あれ、かなり非常識だ。

 狼もそう思ったのか、訝しげに鳴き声を上げ、こちらをにらんでくる。それにビビりながらも、俺は逆に質問をすることにした。


「あの、ここはどこなのでしょうか、生き物の気配もしなければ急に気温が上がったり下がったりして、正直のたれ死ぬのかと覚悟したんですが」

「知らんのか?ここは、お前ら人のいう『聖域』の一つだ」


『聖域』とは。

 狼の言うことには、この森は平原の真ん中にぽつんと存在する小さな森なのだが、幻覚を見せる結界的なものが張られていて、入るのはいいが出るのは極めて困難、しかも生物は入った者の前には姿を見せないため、餓死する確率がもっとも多いという鬼畜仕様の土地らしい。実際この洞窟も幻覚で、俺の意思に準拠するのだそうだ。試しに心を空っぽにするように努めていたら、風景が歪み森の少し開けた場所に座っていた。

 あ、ちなみに肉はファイアウルフの体毛で焼いていたので森林火災などは起きない。


「じゃあ、急に気温が上がったのは」


 なぜ、と言いかけて狼を見ると、ぷいっと顔を背けて、「俺がやった」とつぶやいた。なんでもあれだけのクレーターを作って生きている人間を奇妙に思い、牽制のつもりで俺に熱を送り続けていたらしい。

 

「あの時は魔人でも来たのかと思ってな、悪かった」


 そう頭を垂れる狼に恐縮しながら、俺はこの世界のことについて訊いたが、百年ほど前からこの森にいる彼はそういうことに疎く、手に入れた情報といえば魔法の存在、魔獣の存在、彼の名前、そして人里が近いことくらいしか分からなかった。

 一通り聴き終えると、彼――ジンは森の出口まで連れてってくれた。それとそのへんに転がっていたという真新しい剣とローブを受け取り、森の出口である平原へと出る。

 外に出ると、なんと太陽の位置までごまかされていたようで、朝見た時と同じ位置にあった。つまりあの明るかった森は現実では夜だったということだ。

 平原に出て、思う。

 自分はまだまだこの世界を知らない。ここが今の所がファンタジーのような世界なため、ある程度の予想は立てられるが、そこから先は自分で行動するしかないのだと。

 そして。

(俺は、知り合いのいないこの世界で、信頼にたる人を見つけられるだろうか)

 知らず知らず下を向いていることに気がつかないまま、人里のある方へと足をすすめた。


―――――――――――――――


 俺は、森を出て行った人の形をした脅威の背中を、ただ見つめていた。

 高位の魔獣、炎狼である身でなければ、森にいたほかの生物と同様に、逃げ出していただろう。

 森で初めてリュウと名乗った彼と目があったとき、瞳の奥で、何かが首をもたげてこっちを覗き込んだような錯覚に陥り、知らず警戒してしまっていた。

 恐怖から。

 彼に渡した剣もローブも、これまで俺が糧としてきたものたちからの戦利品、それも上等なものだった。

 それらを身につけ、平原を歩いていく彼は、何らほかの人間と変わらないように見える。

 ただ、ひどく寂しそうだったことを覗けば。

 ――得体がしれない。

 それ以上を考えるのをやめ、俺は再び森の奥へと入っていった。







 あれれ、矛盾がたくさん?

 と、とりあえず次で主人公以外の人間と遭遇、するかなあ?

 次もよろしくお願いします

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