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龍の紋章  作者: 森見幸成
7/15

異例と旅立ち

 遅れました。

 学校の方の執筆に手を取られていまして。

 それでは、( ^ω^)_凵 どうぞ

異例と旅立ち


 ――おぼろげな意識の中。目も開けることができない状況において、俺は不思議と浮遊感を覚えていた。

 さっきまで何をしていたのかに思考を巡らし、すぐに思い出した。

 夜桜。異様な門。その闇の中に見えたソレ。それらの要素が、俺の意識を覚醒させる。


「レン」


 相変わらず目はあかないが、友人の名を小さく呟くと、その自分の声ははっきり聞こえた。

 幾分か待つが、その呼びかけに答えるものはいない。それどころか、俺以外に音を出すものがいないかのように、何も聞こえない。周りに注意を向けるが何かがいる気配はしない。俺はひどく不安になった。

 俺は変化を求めて、体を動かそうと試みるが、それも叶わない。俺が自由に動かせるのはどうやら口だけのようだ。

 しばらく、俺の体はその浮遊感に身を任せ漂うと、はあ、とため息をつき、つぶやいた。


「だーれかいーませーんかー」

 

 やはり答えるものはいない。どうしたものか、と考えていると、俺はふと気づく。


「……ん?」


 俺の頭の後ろあたり――後ろがあるのかわからないが――が揺れるように動いたような気がした。


「誰かいるのか?」


 そう声をかけてみると、気配が消える。驚いていると、今度は右側から似た気配がした。


「なあ、誰か……また消えた」


 そしてまた気配が移る。そのたびに意識を向ける、ということを十回ほど繰り返すと、気配に変化があった。

 楽しげに。

 俺はげんなりしながらも、それに付き合ってやった。特にすることもないのだ。

 そしてまた数十回ほどやると、ふふふ、という声と共に、その気配が急激に増えた。


(たのしいね)

(たのしいねー)

(もっとあそぼー)


 子供のようにあどけない声が頭の中に響く。その聞こえ方は、夜桜の前で聴いた声のものによく似ている。

 それに俺は現状把握ができるかも、と期待しながら、訊いてみた。


「なあ、ここがどこかわかるか」

(んーとね、わからない)

(ぼくたちついてきただけだもん)


 その問いに、どこか戸惑ったような気配を漂わせながらそう返ってきた。


「ついてきた?一体誰に」

(んーとね……あ!きたみたい)

(きた?じゃあかくれなくちゃ!おこられちゃう)

(おこられちゃうー)


 慌てたような声と共に、気配が一斉に消える。


「あ、おい」


 そして再び音のない世界がやってくる。だが今度はその状態は長く続かなかった。

 代わりに感じたのは圧倒的な威圧感。それは門の中にいたモノが放つそれと同じで、俺は思わず構える。構えようにも手足は動かせないが。


(そう構えるな、人の子)


 聞こえる声もやはり同じ。俺に、応え、と呼びかけたそれだった。


(先ほどはうちの者がちょっかいを出したようだな、許せ。普段彼奴らも何かと遊んだりはできない立場なのでな。さぞ珍しかったのだろうよ、ぬしのような者は)

「……あんたは、誰なんだ」


 あえて気丈に、そう聞いてみる。威圧感は消えないが、気配や声の雰囲気などから機嫌を損ねたりはしていないようだ。


(ふふっ。あんた、か。新鮮でいいな。ますます興味がわいた……ああ、そういえばぬしは口を動かしてしゃべっているようだが、そうする必要はないぞ。考えるだけでいい。むしろそちらの方が楽なのでな、私が。口と思考がばらばらだとややこしい)


 どうやら興味を持たれたらしい。

それはともかく、携帯会社真っ青の、夢の脳内会話ができるとは、かなり特殊な空間なのか、ここ。まあ脳内会話ができるなら俺もそちらの方が楽だが。なにせ体は動かせないのに口だけが動かせる状況は、なかなかに妙な感覚だったのだ。

 ん?そういえば話がそれてるな。

 そう考えると、その声の主はそういえばそうだったな、と語り(?)、再び話し出す。


(では、私が誰か、という問いについてだが。名はあえて名乗るまい。どうせ今のぬしにはわからないだろうからな。他の情報も……教えてもしょうがないものばかりだしな、例えば、私の好んで食すものの情報が、欲しいか?欲しいなら教えてやってもよいが)

(いや、要らん)


 むしろ何故好きな食べものを例に挙げたかを訊きたいが、ややこしくなるのでやめよう。たぶん思考は筒抜けなのだし、心にもないことを言ってもそれこそしょうがない。


(……冷静だな。普通なら人の子の言う所の『つっこみ』が入るものだと思うのだが?)

(俺のツッコミ枠は約一名の馬鹿でいっぱいいっぱいなんだ、面倒だから増やす気もないしね……もう一つ、いいか)

(ん、許す)

(ここはどこなんだ、あと何故こんな状況になっているのかも併せて教えて欲しい)

(いまさらだな……まあ教えるつもりではあったが)


 呆れたように言い、その声は続ける。


(まず、この場所についてだが。そうだな、ややこしくしないためにも、世界の仕組みから話すか。少し長くなるが、良いか)

(別に構わないけど)


 というか断っても教えてもらわにゃどうにもならないのだが。まあおとなしく聞こう。

 そして声の主――面倒なので彼女、とする――は良し、と満足げに言うと、今度は真剣味を帯びた声で話し出す。

 その内容はざっと言うとこんな感じだ。


 世界とは、個々の特徴を持った生き物であり、その象徴として俺達のいう所の神と呼ばれる存在がいる。また、世界はそこで発展する文化や豊かさ、すむ生物の多様性などによりランク付けされ、豊かであればあるほどランクは上がっていく。そしてそのランクの高さが世界の強さ(?)となると。

 また、似たランクの世界はいくつかがまとめられて、極力互いに干渉しないように協力してとても広い部屋を作る。その部屋が宇宙であり、広さがやはりランクの高さを示すらしい。

 そしてその部屋たちは互いに干渉することをしないが、ある世界の中で不条理に世界の寿命が尽きてしまう場合、他のランクの高い部屋の世界と一時的につながり、救済策を見つけることができるシステムになっているらしい。

 そして、その世界と世界がつながった間の通路、この場合廊下のようなものを、『境界』と呼ぶようだ。

 つまりここ。


(……へえ。そりゃすごいや)


 聴き終わった後、俺は素直にこの世界の仕組みに驚いていた。それと同時に、脱力感を覚えたが。


(えっと。じゃあ、何か。俺は他の世界を救う最善策として呼ばれたわけか)


 そしてチートスキルを授かり異世界を席巻する存在になるのか。わくわく(棒)。

 しかし俺の予想は外れた。


(いや。奇妙なことにそうではないのだよ、これが)


 おもしろそうな声音は変わらずに、彼女は続ける。


(通常、世界が危機に陥った場合、それをその世界の神が、『(はじ)めの神』にその旨を伝え、それを受けて救済策を他の世界から探す、という手順を踏むのが普通なのだが、ぬしはそうではない)

(つまり、世界が助けを求めなかったのに俺が送り込まれている、ということか?)

(いや、少し違う。それならばまだ前例がある。たまたま波長が合ったものが世界に落ち込むことがな。今回は、世界が助けを求めず、波長が合うこともなく、何故かぬしが入り込んできたのだ。ご丁寧に、創めの神が開けるはずの門まで出現させてな。だから私がこうして話しかけたのだが。もしやぬしは、向こうで世界をわたる術でも持っていたのか?)

(そんなはずないだろ。むしろそんなことができていたら、俺は解体されて研究されるか敬遠されてるわ)


 まあボッチではあったけどな。

 俺の答えを予想はしていたのだろう、ふむ、と声を漏らす。

 しばしの沈黙。依然動かない体にため息をつきたい気分になり、俺はここまでの出来事について振り返る。

 だが、そう思い立ったとき、また頭痛が襲う。またか、とイライラしながら、収まるのを待つ。


(どうかしたのか)

(いや、なんかここに来る前から頭痛がね……?ついでにここに来る前の記憶があいまいになってる)

(?それはおかしいな。この空間に来たものはたとえ四肢がちぎれていようがそうなる前の状態になるはず。ましてや頭痛など、起きようもないのだが)


 その説明に、この空間のハイスペックさを実感したところで、ようやく頭痛が収まった。


(では、ぬしに訊きたいのだが。ここに来る前に、おかしなことはなかったか)

(その質問こそ今さらだな……おかしなことだらけだったよ。この状況が特に)

(それもそうか……)

(ああ、でも、それ以外にも、おかしなことはあったな)


 そうして俺は、ここに来るまでの行動を振り返る。今度は頭痛が起きることもない。思い出す限りで彼女に説明する。

 神隠し事件が起こったこと。見つけた桜と謎の老人。そして……ネズミと夢。


(……夢?)


 いぶかしげに、彼女はつぶやいた。


(どんな夢だ――ああ、いや、話さなくていい。勝手に見るから)

(おいおい……)


 そして不意に、頭がむずむずしたかと思うと、彼女はほう、とやはり面白そうに声を漏らす。


(わかったぞ、ぬしがここに来た理由が)

(え?)

(信じられないことだが……ぬしは、呼ばれたのだよ、世界ではなく、一人の人の子に、な)

(呼ばれた?)

(ぬしは偶然自分の願望と夢の内容がリンクしていたために混同していたようだが……あれは、ぬしが信じなかった夢は、手紙なのだよ)

(……手紙?)

(ぬしは、心のどこかで両親との再会を望んでいた……ああ、そう不満そうな思考をするな。まあわからんでもないが……とにかく、どうやったのか、何かがぬしを呼んだ。それがここに在る原因だ。現に、主が夢だと考えたそれは、的を射ていたのだろう)

(それは、まあ、釈然としないが、理解はできる。で、ここまで懇切丁寧に説明したってことは、あの場所に戻ることは……)

(できん。すまない)

(いや、別にあんたが謝ることじゃないだろ?門番なんだし)

(……まあ、そうだな……)


 歯切れが悪い声の主。おそらくではあるが、こいつは世界の架け橋たる『境界』のゲートキーパー的な存在なのではなかろうか、と俺はあたりをつけている。

 中間管理職は大変なんだな、とひとりごちていると、気まずそうな雰囲気が増したので、この思考を打ち切ることにした。

 ただ、レンはどうなるのだろうな、と頭の隅に浮かんだが、それも今のところは詮無いことである。

 彼女は続ける。


(まあ、何だ、手紙の内容からして、ぬしの願いは向こうで叶うかもしれんぞ。それに、『創めの神』の目をかいくぐってそんなことをしでかす輩だ、それなりに名のある者かもしれん。案外見つけやすいかもだぞ)

(……そうかもな)

 

 どこか気遣わしげな雰囲気のする声にそう答えながら、俺は考える。

 もしそいつに会えて、両親に会えたとして、俺はその時何を思い、両親に接するのだろうかと。


(……)

(どうかしたか)

(いや。なんでも)

(そうか。……おっと、そろそろ着くぞ、向こうの世界に)


 向こうの世界。その実に聞きなれない単語に苦笑したい気分になりながらも、俺は訊く。


(そういえば、訊いていなかったな。どんな世界に俺は送られるんだ?)

(ああ、かの世界はぬしら人の子には人気のあるところだ――と言っても五人程しかいないのだが――そうだな、確か魔法というモノが大きな力となる世界だ。そして、ぬしの居た世界より格段に命が軽い)

(なんだかもう驚かないよ……)

(ああ、後、ぬしの前に境界を訪れた者たちは皆一様に大きな力を持っていたし、創めの神からのギフトもあったが、ぬしはそうではない。充分に気をつけろ。まあかの世界の文化はぬしの居たところとそう変わらん。ただぬしの世界での千年前くらいの、だがな)

(ああ、ありがとう)


 向こうでの生活に保障がないことに若干の落胆を覚えたが、まあ何とかなるか、と考える。

 理不尽には慣れているのだ。いろいろと。

 そう考えると、

 果たして、俺は今までの感覚とは違う浮遊感に襲われていた。まるで、何かに引っ張られているかのような感覚。俺の、何か内側にあるモノを、たぐり寄せられているかのような。


(ではな、人の子)


 その声と共に、俺にかかっていた感覚は消え、不意に五感が戻る。眼前に展開された青が目に飛び込んできて、とっさに目をかばう。


(空?)


 だった。久しぶりに頭以外を動かしたな、と試しに手足を動かしてみると、奇妙な感覚を覚えた。

 ――そう、まるで空を切るような。

 久しぶりに使った聴覚は、びゅうびゅうという音を捉えている。

 久しぶりに使った嗅覚は何も捉えないが、冷たい空気を鼻腔に広げた。

 久しぶりに使った触覚は、冷気はもちろん、下からの圧力を如実に感じ取っていた。


「……ははっ」


 久しぶりの視覚を、下に向けてみる。頭を回すと同時に、体も回転した。

 そして眼前に広がる光景は。


「理不尽すぎるだろ……」

(……幸運を祈る。生き残れよ)


 そんな彼女の意思が脳に響き、いたたまれなくなった俺は、ただ叫んだ。


「ふざけんなあああああああああああ」


 そうして俺の異世界への第一歩は、落下の一途を辿っていくのだった。


――――――――――――――――


 落下していく少年を見つめて、私は不憫に思いながらも、くっくっ、と音を立てて笑っていた。

 愉快。実に愉快。

 これまでこの境界を辿ってきた『人間』は皆一様に面白かったが、今回は格別。さらにここに来た経緯も、とても面白い。

 年端の行かぬ少女のように喜び、私は、好奇心を抑えきれない。

 彼はこの先、どんな道を進むのか。

 

(そして、アレはなんなのだろうか)


 すでに点と化した少年を再び見つめ、しかし私の思考は極めて冷静になっていた。

 彼の前に門が開き。いつものように義務的に、私は応えと呼びかけた。そして、答えなければ彼はここにいないはずだった。

 そう、拒否すれば、門は閉じたはずなのだ。

 彼は勘違いしていたようだが、あの時彼を引き込んだアレは私ではない。

 そしてソレからは、彼の中の理に属するにおいを感じた。

 つまり、アレは彼の一部だということだ。

 ……いろいろな点で、興味は尽きない。

 めったなことで一つの『個』に注意を向けることを許されない私の立場が憎い。

 少しくらいは、いいだろうか。

 

「どうせ、止めるものなど、ほとんどいないしな」


 そうひとりごつと、私はこの世界に適応した姿を、『創り出した』。

 にやりと、笑う。

『創めの神』だって、興味くらい持つのだ。


「どれ、手始めに、ここの『神』に会いに行くか」


 世界のどこかで、呆れたような思考が伝わってきて、それにうれしそうに笑うと、私は感じるままに飛んで行った。







 まあ説明回のような、本編のような。そんな話でした。

 まあ豆腐のように崩れやすい精神ですが、ご指摘があれば気楽にどうぞ。

 やっとこさ主人公を動かせるーー

 まあキャラに動かされないように頑張ります。

 ではでは。

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