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龍の紋章  作者: 森見幸成
4/15

夢、期待、噛み締める現実

 やっと投稿です。が、全く話が進みません。一応リュウの内面に関することなので、勘弁してください。

 説明不足や辻褄の合わないところなどは、まあご愛嬌としてください。

 次で現実編は終了です。


 ――●●へ。この声が届くことを望む。

 後方から突如として聞こえた声に、俺は素早く振り向いた。そして異変に気づく。

 先程まで楽しんでいた紅茶や、それを置いていたテーブルがなくなっている。

 そればかりでない。俺の立っている場所さえ、どこか様相が違う。そこにあるのは見慣れたフローリングではなく、赤茶けた土の地面が広がっていて、周りを見渡せば鬱蒼と生い茂った木々が見て取れた。

 

「あれ、俺って立っていたんだっけ、というかここは何処なんだ」


 冷静に状況を分析しようとするが、頭にモヤがかかったような感じがして、それもままならない。


「夢、なのか……?」


 その言葉が頭に浮かぶと、少し落ち着けたような気がする。少なくとも、状況を把握しよう、と考えられる程度には回復した。

 今一度見た限りでは、どうやら広場のようなところにいるらしい、ということは感じ取れた。

 まあ状況を分析しようと、夢であればあまり意味はないのだが。

後でレンとのネタ話にでもしよう、と思ったその時、また声が聞こえた。


 ――あなたは今、何を思っているでしょうか。


 俺は顔を上げて目を凝らした。少しぼやけた視界が細かく焦点を調整し、やがて明確な像を結ぶ。

 そこには、長いローブのようなものを着た人が、石のサークルの淵に立っている姿が。フードに隠れて顔は見られないが、サークルに向かって伸ばされた腕の細さや、先ほどの声の感じからするに、女性だろうと思われる。

 その奇妙な光景に半ば唖然とするが、気を取り直しその女性のところまで行こうと俺は足を踏み出そうとした。

 だが、


「動けない……」


 さっき振り向いたときは動けたのに、今は動けない。これが夢補正か、などと間違ったことを考えつつ、俺は聞こえてくる声に耳を澄ませることにした。


 ――私がこれから示すことは、事実。あなたには信じがたいかもしれないけど。どうか、最後まで聞いて。

 その女性は、そこで一旦言葉を切り、やがて決意したように、言い放った。

 ――あなたの両親は、生きている。

 

「!?」


 驚愕から、俺は目を見開いた。そして、すぐにこれは夢だった、と思い苦笑した。こんな夢まで見るとは。夢はたいがい記憶から構成されると聞く。つまり、こんな夢を見るまでに俺は両親のことを知らず知らずのうちに意識していたということだ。


 両親が、生きている。無論これまでそれを望まない時はなかった。

 だが、年を重ねていくうちに、その可能性は極めて低い、ということも、自覚していた。

 七年は、なんの音沙汰もなく過ぎ去ったのだ。

 そしてその年月は俺にとって、両親の失踪に決着をつけようと決めていた期間でもあった。

 ちょうど七年経てば、『失踪者』を『死亡者』として扱うことができるようになる。必要な書類さえ出せば、それはもう直ぐにでも、俺の両親は死亡したことになる。

 期限は三月いっぱい。

 今になってレンの神隠し調査に乗ってみたのも、まあ、こういってはなんだが、最後のあがきみたいなものだ。たとえそれがどんなに荒唐無稽でも、可能性はゼロじゃない。できることは試してみようと思い立っての行動だった。

 ……そして、その期限が過ぎたら、その後に両親が帰ってきたとしても、俺は受け入れるつもりはない。

 

 ないものはない。だから期待もしない。

 俺は「今」を生きているから。「過去」には囚われたくないのだ。

 ……レンや八百屋の夫婦とのつながりが生まれた今となっては、なおさらそう思う。

 だから、まあ、たとえ夢でも、こうも明確に両親のことを思い出すことができたのは、よかったのかもしれないな。

 そんなことを考えながら、俺はいつしか真剣にその女性が紡ぐ言葉に耳を傾けていた。


 ――あなたの両親は、とても、あなたの世界(・・)では想像もつかないくらい隔たったところにいます。それこそ、言葉すらも届かぬくらいに。


 ――ですが、今はまだ、確かに生きています。


 ……いろいろと気になる言い方をするな。「今はまだ」とか。


 ――そして、これが最後の機会でもあります。この言葉があなたに届いているのなら、信じなくてもいい。どうか、行動してください。そうしなければ、きっと後悔するでしょうから。

 大丈夫。なにがあっても、あなたは誰よりも先に行ける。

 だから迷わないで。

 諦めないで。自分の手の届くうちは、自分の心が訴えるうちは。

 ――門――迎え――花―――○○――。

―――――――。


 声は徐々に聴きとりづらくなり、やがて聞こえなくなってしまった。


「最後の、機会ね」


 まさにそっくり俺の状況を語ったかのような言葉に、俺は苦笑した。

 しかも行動しなければ後悔すると歌っておきながら、その方法を明確に示しはしない。

 結局は、夢なのだ。


「まあ、案外楽しめたかな」


 そう評価を下し、再び女性の方へ視線を向けると、すでに石のサークルから離れ、森の中へと入っていくところだった。

 やがて女性の後ろ姿が見えなくなると、俺は何故だかまた眠くなってきた。あるいは、現実へと覚醒しようとしているのかもしれない。

 まぶたが閉じていくのと並行するようにして、夢の風景も歪んでいく。

 やがて崩れ去ったその景色を尻目に、俺の意識は吸い寄せられるように浮上し、


「……!」


 はね起きた。

 気がつけば肩で息をし、額にはびっしりと玉のような汗が浮かんでいた。


「やっぱり、夢か」


 ふう、とゆっくり、それでいて大きく息をつくと、時計を見る。


「なんだ、十一時か」

 

 驚かせやがって。ははは。


 ……それから俺が厚手のコートを着込み、高校に向かって自転車を漕ぎ出すのに、三十秒とかからなかった。


―――――――――――――――――――――


「ハンハハンハ、ハンハハン、フンフフンフ、フンフフン」


 ……現在午後十一時二十分。校門前に到着。冬の寒さにガタガタと震えながら壊れているレンを発見した。

 こちらでは手に負えそうもありません、至急応援を!

 そう脳内妄想でメーデーを求める位に、その様は痛々しいものだった。しかも原因が俺だというのだからなおさらである。

 うつろな目で虚空を見つめるレンにどう声をかけて良いかわからず、俺は自転車を止めて様子を伺った。

 やがて、一つの作戦をまとめると、俺は再び自転車を漕ぎ出す。充分に助走をつけた自転車は、すぐにレンの前を通り過ぎようとする。

 だが、ほぼ神速と言っても差し支えない速度でレンの手が自転車の荷物台をつかんできたため、それはあえなく失敗に終わった。まあニコニコ顔のレンを見る限り、正気(?)には戻ったようだ。作戦自体は成功したとみてよいだろう。


「やあ、こんばんは」

「おう、今来たところだ」


 まったく話がかみ合っていないが、お互いに言いたいことは伝わったようだ。すばらしきかな友情。

 まあ、とどのつまり。


「……すまん」


 これに落ち着くのだが。


「で、どうするつもりなんだこれから」

 数分後、俺は努めて気さくにレンに話しかけた。あのあとはさすがに俺に非があることを自覚していたので、ただひたすら謝罪していたのだが、二十分、二月――もうすぐ三月になるが――の空の下で俺を待っていたレンは未だ不満なようで、さっきから「ああ」とか「うん」としか言葉を返してくれない。

 このあとレンと二時間半この状態が続くのは正直精神的に参るものがあるので、どうにかしたいのだが。

 そうヤキモキしていると、なんだか諦めたようにため息をつき、レンは苦笑しながらも、もういいよ、と言った。


「でも、なんで遅れたんだ、お前にしちゃ珍しい」


 その言葉に俺は一瞬答えを迷ったが、即座に言葉を選び、こう返した。


「ネズミを追いかけていたんだ、ほっといて屋根裏で巣作りされてもかなわんからな」


 うん、きっとそうだったはずだ。

 寝てただなんて、そんな馬鹿なことがあるはずないじゃないか。


「はは、お前らしいな、さすが主夫」


 ……蹴るぞ?

 思ったが、流石に自重した。怒りを抑えつつ、もう一度訊く。


「で、これからどうするんだ」


 すると、ああ、と声を出しながら、レンは自身のリュックから何かを取り出した。見ればいくつか紙の入ったファイル。大方資料かなんかだろう。


「これは、神隠しに遭った人たちの簡単なプロフィールと、いくつかの目撃証言をもとにした、彼らが消息を絶ったと予想される地点をこの町の地図に示したものだ」


 説明を聴きながら、レンの手元に目をやると、確かに地図にはいくつかの地点が赤丸で囲んであり、そしてその赤丸が示している場所をよく見れば、いくつか気になるところがあった。

 無言でレンに目を向けると、レンはゆっくりと頷いて、そしてニヤッと笑った。


「気づいたか。俺の調査によれば、彼らの消息が分からなくなったと予想される地点はいくつもあるが、それらは皆『何故か』ある場所の付近で確認されている」


 そしてレンは地図に指を滑らせるようになぞり、あるところを押さえて止まった。


「そして……」


 そこは、おびただしい、という形容がふさわしいくらいマーカーの赤で染まっていた。


「ここが、今日の調査地点だ」


 そういってレンが指でトントン、とつついた場所。地理的に言えば等高線の間隔がその中心に向かって狭まっていく場所。


 「山……?」


 そう、そこは、山だった。

 俺達の通う高校の裏門を出てそのまままっすぐ伸びる道を二百メートル程行けば、裏山への登り口が見えるようになる。この山、名をナナシ山と言い、山の中腹にある神社の神主が今は所有している。

 子供の頃――まだ両親が失踪する前のころ――この山の神社にお参りをしに行ったことがあったが、確か『立ち入り禁止』の看板が十メートル置きくらいに立ててあって、それが子供心をくすぐり、こっそり入ろうとして両親に怒られたような覚えがある。それ以来は神も仏も信用なんかしない、と足を運ぶこともなかったが。

 そして今レンが地図で示した山が、そのナナシ山である。地図にまでその名前が使用されていることから、本当に名無しなのだろうか。なんとも不憫な山である。

 それはさておき。


「本当に、ここなのか」

「ああ、間違いない。この『サタン』たるレン様が、念入りに調査したからな。少なくとも、この山の付近で失踪者の消息が途絶えているのは確かだぜ」

 

 堂々と胸を張り鼻を鳴らすレン。その芝居がかった様子に特に反応することもなく、俺は思ったことを口にする。


「学校の周りで消息を絶った奴はいない、か。それにこの赤丸のところ、ちょうど神社の反対側くらいじゃないか?」


 俺のスルーに不満げだったレンも、俺の言葉に地図を見て、納得したように頷く。


「確かに、学校とは反対側に集中してるな……やっぱり何かあるのかもな、なおさらワクワクしてきたぜ」


 その時浮かべたレンの笑顔は、いつになく生き生きとしている。この顔になったときはたいていろくなことにならないのだが、せいぜい無事を祈ることにする。


「じゃ、行くか、『サタン=レンとゆかいな下僕の調査隊』の出発だばっ!?」


 ふざけたことをぬかすサタン(笑)の後頭部へ蹴りを入れ、俺は無言で自転車をこぎだした。

 この慣れたやり取りの中で、レンとの繋がりを強く実感したことに満足感を覚えながら。


……その現実が、この後あっさりと崩壊するとも知らずに。

 

―――――――――――――――――――――――


「ああ、感じたかい」

「うん、感じたよー」

「聞こえたかい」

「うん、聞こえたよー」


 打てば響くように答えつつ、私、あるいは私たちは皆一様に歓喜していた。そして、今か今かと、その時を待ちわびる。


「もうすぐだね」

「もうすぐだねー」

「本当に来るかな」

「きっと来るよー」

「ふふ」

「ふふ」


その笑い声は周りの同胞たちのそれに次第に混ざり、夜空にとけていった。





 やっと四話です。コメントなどいただけると幸いです。

 ではまた。

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