手紙
眠いです。更新です。読者様に感謝です。お便り待っているです。
さて、前回より文章にまとまりがありません。だれか助けて……。
まあ分自体は長いので、どうか彼らのしばしの日常をお楽しみください。
「……」
俺は苦々しい顔で我が家の居間のテーブルを見つめていた。
そこにあるのは二通の手紙。
俺は主婦では、ましてや主夫でもないので彼女たちの気持ちを理解することはできないが、推し量ることはできる。
間違いなく、コレは主婦の、もとい俺の敵だ。
「電気使用率が約十%上昇、少し電気節約が甘かったか……まあこれは良い、誤差の範囲内だ。即座に修正するとして――――携帯の使用量が増えているだと?しかも千円も……項目は……ちっ、通話と通信の費用が増えているな、俺はニュース以外にネットを使わないから……」
そう、月に一度は訪れる、機械的で無情な経済的損失を各家庭に強いてくる、一般に「内訳」とかなんとか呼ばれる悪魔だ。いつもならばそれぞれがバラバラにやってくるのだが、最近ポストを覗くのをサボっていたため、二つの悪魔が俺を苦しめることになったのは、自業自得である。
しかし理解と納得は別物だ。人より老成している自覚はあるが、腹の立つものには腹が立つ。そんな理不尽。
なぜなら、高校生なのだから!
そんなことを考えながら、ブツブツつぶやきつつも電卓と家計簿を駆使し、赤字黒字を一喜一憂しながら打ち込んでいく。二月の終わりまで書き込み、叩き出した結果を見て、少し肩を落とした。
「マイナス二千円と少し、か……」
俺の一月の予算は、俺個人の小遣いと生活費を合わせて二万五千円だ。光熱費と食費はどうにか一万と五千円で足りる。
しかしどうにかこうにか公立高校への入学が決まったことで、携帯電話を購入したのだが、これがなかなか大変なのだ。
第一に、充電による電気料金への影響。まあこれは大したことはない。端末代だって、払い終われば全く問題がないし。
問題はこっちだ。
僕は友達が少ない。
……決してネタじゃない。リアルだ。
……皆無と言ってもいい。
俺がこの三年間でメルアドを交換できるまでに親しくなることができたのは、三人だけだ。
レンと、八百屋の夫婦。以上。
そんなコミュ障みたいに交流範囲の狭い俺に、携帯電話は必要だったのだろうか。
そもそも同年代の友人より年上の方々の交流のほうが深いというのは、どうなのだろうか。
あまり望ましい状態ではないのだろう。思わず目頭を抑える。
……話がそれた。俺に友達がいないのが問題なのではない。
友達がいないのに、携帯の通信料金が高くなったのが問題なのだ。
それは、何を意味するのか。考えてみて欲しい。ちなみに俺は月に三、四度しか八百屋の夫婦とメールをやりとりしない。
ヒントの二つ目は、俺の連絡先の人数だ。
「……」
その疑問に俺は至極冷静な思考で答えをはじき出し、すっと目を細めた。
俺は風呂場へと向かう。今の俺には禊が必要だ。もちろん、居間の電気は消しておく。
その時、ポケットで携帯が震えた。取り出してディスプレイを見ると、「馬鹿」の二文字がウェーブを描くように横にスクロールしていく。
俺は薄く微笑み、通話ボタンを押し、「はろー?」とおちゃらけた言葉をのたまった馬鹿に努めて明るく言った。
「ちゃお!馬鹿」
『……どうした?』
「えー?挨拶しただけだよ。冷たいなあ。あたしのこと嫌いになっちゃったの?」
不審そうに、それでいて探るように聞いてきた馬鹿に、俺はやはり努めて明るく言った。気分はツインテール系ロリ美少女。
ちなみに俺の趣味ではない。
『キモいぞ?』
よし、抹殺だ。首を洗って待っていろ。
俺の三日分の食事代の恨み、晴らさでおくべきか。
と思ったが。
「で、用はなんだ」
聞いてから俺は思い出した。確か今日だったな。
……神隠し事件の調査の。
「あー、集合時間のことなら問題ないぞ。確か十一時だったよな」
『おおう……。ほんとに引き受けてくれるんだな……。正直行ってみれば俺一人パターンかと思ったぜ……てかお前忘れてただろ』
「お前は俺をなんだと思っているんだ……」
まあ忘れていたのだが。若干精神的にまいっていたのでそれどころではなかったのだ。
逆にあきれてそう返すと、それで満足したのか、『じゃ、よろしく頼むぞ』と言って通話を切ろうとする気配が伝わってきた。
俺はそれを引き止めた。
「ああ、ちょっと待て」
『?』
「これからはお前のメアド着信拒否にしておくからな」
もちろん俺の生活のためだ。悪く思うな。電話を許しただけでも最大限の譲歩だ。
『!ちょ、待……』
続きを聞かず俺は電話を切った。
「……あと二時間はあるな」
時計を見れば八時半。集合場所の学校の校門前までは徒歩で三十分もあれば行けるので、実際はもうちょっと余裕があるのだろうが。
まあなんにせよ。
「とりあえず、風呂だな」
ふっと息を吐き出すと、俺は今度こそ服を脱ぎ始めた。
――――――――――――――――――――――
とある山奥。先日の雨でぬかるんでいる、おおよそ道とは思えないようなところを、私は、歩いていた。
何度も通った道。
あの人と一緒に、何度も何度も通った道。
ただ、決して楽しい思い出だったわけではないのだが。
いつしか、木々の隙間を縫う道は終わり、そして、山の中、そこだけ命を切り取ってしまったかのように、赤茶けた土の広場が広がっている。
奇妙なことに、その広場はきれいな円を描いていて、何か意味のあるもののように思える。
そしてそれは間違いではない。
私の視線の先。その広場の中心に、石造りの円が、そこにあるのが当然、といった風に、そこに存在していた。
「……ぱっぱと、済ませちゃいましょうか」
私はほんの少しだけ唇をゆがめて、明るく声を出すと、石造りの円の淵に立つ。そして、手をかざした。
途端、その円は、ドクンと音を立て、脈動した。
まるで、心臓のように。
「―――――――――――」
私は目をつむりながら、言葉を紡ぐ。
届く可能性は、ほとんどない。そして、どちらにしろ今日届かなければ、もう機会はない。
幾度も試みた言葉を、また同じように繰り返す。
「だから―――――――――――。――――――――」
言葉を終え、祈る。
幾何かの時が流れ、私はゆっくりと目を開く。
しかし、そこにはいつもと同じ光景。石の円の脈動が、徐々になくなっていく様子だけだった。
「……」
唇を無理にゆがめながら、私は踵を返す。
悲しみと、安堵。その感情がせめぎあい、そして、消えていく。
そして再び森に入る。そのころにはもう私はもとの微笑みを浮かべていて、そこを去った。
「もう、二度と来ることもないわね」
そう呟くと、顔を引き締め、私は胸に手をかざし、
飛んだ。
―――――――――――――――――
「……ふう」
風呂から上がり髪を拭くと、思わずそんな声が出た。風呂のある国に生まれてよかったと、心底思う。
時計を見ると九時。約束まではまだまだ時間がある。
居間に戻り、簡単にストレッチをする。これはまあいつもの習慣みたいなものだ。あの零細道場の暴力的な主にボコボコにされるのを回避するために、体は柔軟にしておく必要があったのだ。
そして、何度かシャドーでパンチを繰り出し、特になまった様子がないのを認めると、湯でも沸かそうとキッチンに向かった。
薬缶に水を注ぎ、火にかける。
その揺らめく青い炎をぼんやりと眺めていると、玄関の方で、何か音がしたような気がした。
「……」
――かさっ。
うん、何かいる。
「Gか?」
明確には言うまい。おそらく想像通りだ、とだけ言っておこう。そもそもこの家、二階建てなのだ。月に一度の掃除を行うとはいえ、全部をまんべんなくやろうとすると、やはり隅の方は甘くなる。
奴とはこれまでにも何回か遭遇している。初めの方は逃げられていたが、道場に通ううちにその動きをとらえられるようになった。
ということは主婦って強いんじゃね?
初めてGを殺った時に思ったことである。
料理(個人差あり)に子守、夫の世話までそつなくこなす。
何ともハイスペックな方々である。
俺は新聞紙を持って玄関に向かった。思い切ってドアを開けるが、何もいない。俺は入念にあたりをうかがった。
電気のついていない玄関に、緊張が走る。主に俺だけだが。
「ん?」
玄関のドアのあたり。何かが、うごめいた。
Gじゃない。
思い切って電気をつけると、その毛むくじゃらの体がびくっと反応して、つぶらな瞳をこちらに向けた。
「なんだ、ネズミか」
種類までは判別できないが、いくつもの節のような模様のあるしっぽを見るとそうなのだろう。
俺はゆっくりとそいつに近づくが、一向に気にした様子はない。人なれしているのか、と思い思い切ってその体をつかみ上げた。
「いやいや、抵抗しないのかよ……」
よほど人なれしているか、俺を逃げるに値しない奴だと認識したかのどっちかだろうが、ネズミはされるがまま、相変わらず俺を見つめている。
はあ、とため息をつき、玄関を開け、門のところまで行ってそっとネズミを置いた。
すると、「チュッ」と短く鳴き、ネズミは走っていった。
俺はその様子を見て少し微笑んでいた。動物は好きな方なのだ。飼ったりはしないが。金がかかるし。
庭にいるミミズだけで十分だ。
さて、と踵を返したところで、後ろから再び「チュッ」と鳴き声がした。
見ると、ネズミは何とスタンドポストの上に立ち、ぴょんぴょんと飛んでいる。しかも手振りまでつけて、だ。
「すごいな……大道芸になりそうだ」
いや、無理か。
ネズミは最後にポーズを決め、また元のように座ると、またこちらを見つめてくる。
その時、違和感に気付いた。
「ポストに何か入っているのか?」
近づくと、ポストの蓋が少し盛り上がっていて、そこから封筒のようなものがはみ出ているのが見えた。
引き抜くと、確かに封筒のようだ。ただ、あまり見ない洋封筒であるのと、そして色が黒いのには目を見張ったが。
「へえ、黒い封筒ってあるんだな、初めて見た」
別段変わったところはないようだ。妙なことに差出人は書いていないが、まあ開けて読んでみれば分かるだろう。俺はそれをポケットに差し込んだ。
「しかし、帰ってきたときに何で気が付かなかったんだろ」
さては、ネズミが運んだか。
不意に浮かんだメルヘンチックな夢想に苦笑しながら、再びポストに目を向ける。
「ん?」
――居ない。
俺が目を離したのはほんの五秒程。封筒に気を取られていたとはいえ今しがたポストの上に鎮座していたネズミのアクションに気づかないということはないはずなのだが。
周囲を伺うが、ネズミはおろか、動物の気配もない。
「――まあ、いいか」
深くは考えず、俺は今度こそ家の中に入った。
入ってから気がついた。
「コンロの火、付けたままだ」
また光熱費が上がるかも。そんな暗澹とした気持ちになりながら、ネズミのことを頭の隅に追いやり大急ぎでキッチンへ向かった。
見事にもくもくと煙を噴出する薬缶の中身を見れば、わずか一ミリほどのお湯がかろうじて残っていた。
はあ、とため息をつき、再び水を入れ火にかける。さほど喉は渇いていないが、薄着で外に出たので体が冷えてしまったのだ。
紅茶のティーパックの袋をマグカップに入れ、お湯を注ぐ。ほんわかと昇る湯気から茶葉の匂いを吸い込むと、風呂に入った時のようにリラックスできる。
まさに至福。
一通り満喫してから、居間のソファに座る。
「ん?あ、やべ」
尻のあたりでクシャ、という音がしたので見てみれば、先ほどの黒い洋封筒が潰れていた。俺は丁寧にしわを伸ばし、中身を確認しようとした。
が、
「なんだこれ……?」
封筒が黒いためよくわからなかったが、何やら妙なものが刻印してある。軽く触れてみると、どうやらロウソクのロウに模様を彫ってあるようだ。
なんといったか、これ。なんか歴史番組で見た覚えがある。
「ああ、封蠟か」
英語ならシーリングワックス。中世の貴族階級の人たちが便箋をロウを垂らしてとめる際にロウに家紋を刻印することで差出人を示したものだったはずだ。
だがこんな手紙を送ってくるような厨二乙な友人はいないし、こんな手紙を送られるようなことをしたこともない。
まあそれは開ければわかるとして。
「しかし、これも黒いな」
そう、封蠟までもが黒い。そのため、何が彫ってあるのかがよくわからない。電灯にかざしてみてみるが、逆に反射して分かりにくい。ただ、剣のようなものが三つ程彫ってあることは分かった。
ますます厨二臭い。
まあいいか、と思い俺は封蠟をはがし、中を見た。一体どんな奴が送ってきたのやら。レンだったらどうしてくれようか。
しかし、結果は俺の予想の斜め上を行った。
「何も入ってない?」
中にあったのはやはり黒い封筒の内側のみ。だからあんなに薄かったのか、と納得した。
「いたずらか……」
なんだか疲れてしまった。時計を見ればあと少しで十時。良い子は寝ている時間である。
そして俺の場合は電気代節約のため既に横になっている頃である。
あと三十分ある、と認識した途端、急にまぶたが重くなる。どうしてだか抗うこともできずに、俺の意識は次第に遠のいて行った。
――意識が途切れる直前に、ネズミの鳴く声が聞こえたような気がした。
―――――――――――――――――――――――
――七海家のスタンドポスト。その上に鎮座し、今は家主である少年が封筒を開けるのを私はじっと見つめていた。
少年が拍子抜けしたような顔になり、苦笑しながら手紙を放り、そして眠ってしまったのを見て、満足げにヒゲを動かすと、棒を伝って器用に下に降りて、門を飛び出した。
「手紙は、届いたようですね」
この(・・)体のまま小さい口を動かしてそう呟くと、私は走り出す。
――あとは待つだけだ
まあ若干フラグりました。トリップまではまだあと二話位必要ですが、次から話は動き出す予定ですので、よかったらお付き合い下さい。
次回のタイトルは……ごめんなさい。投稿した時に確認してください。