後日談 ~残した者が遺した子~
「おか~さ~ん、はやくはやくー!」
「もうすぐだからね、寿美」
「うん!」
夏の暑い日、とある場所へ、娘とともにやってきました。
手には花束と、火の点いたお線香。
「さぁ、ついたわよ」
「ねぇねぇ、お母さん。ここに、おとうさんがいるの?」
「ええ、そうよ」
寿美は墓前に立つと、桶に入れた水を杓で掬って、背伸びをしながら水をかけていきます。ついでにお花を添えるための瓶の水も変えて、持ってきたお花を瓶に挿します。
お線香を添えて、寿美と合掌。
「………………」
「………………」
寿樹さん。
あの日から、七年の月日が経ちました。
今ここにいる子は、娘の寿美です。
そうです、寿樹さんとの、子です。
嬉し、かったんです。
あの日目を覚ますと、あなたはもういなくて、あなたの部屋なのに、あなたの部屋じゃないように思えて。それからすぐに、寿樹さんが亡くなったって、報せがきたんです。
それで、泣きました。多分、一日中、泣いていました。
でも、それからひと月たって、また泣きました。
だって、あの日の事が嘘じゃないってことがわかったから。
このお胎の中に、寿美がいるって、わかったから。
そして、寿樹さんからのプレゼントが、もうひとつ、貰えたから。
一人での子育ては大変だけど、それでも、凄く幸せな毎日です。
だから寿樹さん、見守っていてください。
それから、また、来ますね。
「おかーさん?」
あら、寿美も終わったみたい。
「ねぇ、この人だぁれ?」
え?
「え?」
「あのね、男の人がね、ここにね、いるの」
寿美はそういいながら、誰もいないはずの、虚空を指さしています。
何も、視えません。
だけど、寿美は、嘘を言っているとは、思えませんでした。
「ねぇ、寿美?」
「なぁに?」
「その人は、どんな人?」
「んーとんね、お母さんより大きいんだけどね、笑顔でね、笑ってるの」
「ふふ、そう、なんだ……」
「おかーさん? 泣いてるの?」
「っ。だ、大丈夫、よ」
ハンカチを出して、あふれ出そうな感情を、必死に拭って。
うん、そっか。そう、なんだね。
「寿美、じゃあその人に、手を振り返してあげて」
「うん!」
「さよう、なら」
「ばいば~い!」
寿美と手をつないで、歩く。
「ねぇ、寿美」
道のりは長い。
「なぁに?」
まだまだ生きて、この子も成長して。
「今日は、何食べたい?」
これからも大変なことはたくさんあるけれど。
「かれー!」
でもその分。
「うん、それじゃあ、帰りにお買いものしようか」
幸せだよ。
「うん!」
だからね。
「寿美」
はっきりと、言えるよ。
「ん?」
寿樹君。
「大好きだよ!」
これにて、この話は終了です。
まだまだこの子たちの人生は続きますけど、ここらが、区切りになります。
この話を読んでくださった方、本当に感謝しています。
この物語はいろいろと挑戦したことがあるのですか、お気づきになられた方はいましたでしょうか?
そのことに気づいてくれ方は、それだけ注意深く読んでくださってくれているか、よほどこの物語に違和感を覚えた方は気づけるでしょう。
本当に、ありがとうございました。
最後に、寿樹の誕生日プレゼントでの描写が無いかと思われますが、美穂はちゃんとあの日に誕生日プレゼントをもらっています。そしてこの話でもそれを着けています。ただ、まぁちょっとミスっただけです。すいませんでした。
では、これを読んでくださった方々、また、別の作品でお会いできることを、心よりお望みしています。
ではでは。