二日目 ~サプライズプレゼント~
――これは
――ああ、そうか
「あと、一日か」
窓から朝陽が射しこむなか、ベッドから身体を起こす。
はっきりと、思い出した。
「明日が終われば死ぬ……」
それはまごうことない事実であり、逃れられない真実。
「だが助かるのは、誕生日を祝ってあげられるってところか」
それだけは、救いだと思った。
なにせ、ちゃんと誕生日プレゼントを買うって言ったんだからな。
「大学は……ああ、今日も明日も大丈夫だな」
丁度今日の日は講義を入れていなかったし、明日は運よく日曜日。
「飯、食うか」
空腹には勝てない。それに、冷蔵庫にはまだまだたくさんの食材があるんだ、ちゃんと使い切らないと。
「………………」
カタンカタンッ、と音を聴きながら、視界に映る景色は左から右へと流れていく。
どうせお盆が迎えられないのだから、墓参りに行こうとも思った。別に何か悪いことをしたわけじゃないけど、両親たちにみたいに誰かを助けることで死んだけど、それでも、墓参りに行こうと思った。
多分、その墓に入るのももうすぐだろうし、せめて自分の眠る場所ぐらいは綺麗にしたりしておきたかった。
『次は――』
「暑いな……」
駅を出ると、すぐにむわっとした空気が身体を包み、これでもかと輝いている太陽はじりじりと肌を焼くような錯覚を覚える。
ここから歩いて十分ぐらいのところに両親の墓はある。毎年二回以上は来ているのだから道ぐらい地図を見ずとも行ける。
「すいません、線香とお花ください」
「七百八十八円です」
「千円で」
「おつりに二百十二円でーす。それとこちらが商品です。ありがとーございましたー」
墓のすぐ隣にある売店で線香と花を買う。
買うと外にある線香用のコンロがあるので、そこで火をつける。
線香独特の香りが、鼻を刺激する。
「………………」
別に思うところは無い。
ただ、最近あったことを少し話したぐらいだ。それと、墓に入るということはどうせすぐに会ってわかるんだから言わなかった。
花は添えられてなかったから水を瓶に入れてそこに挿した。それと、周りに生えている雑草抜き、墓を雑巾で拭いたりもした。
「あ、そうだ」
電車での帰り道、ふとあることを思い出し、それは重要な事だったので途中で下車する。
そして、駅に併設されているアパートへ。
言わずもがな、彼女への誕生日プレゼントを買うためだ。
特に誰かに何をプレゼントしたという記憶は無い。同性ならばまだなんとなくで買えるが、さすがに異性のものとなると一気に難易度が上がる。
故に、ここはヒトの力も頼るのも大事だろう。
「すいません、ちょっといいですか?」
「はい、なんでしょうか?」
突然の声かけにも笑顔浮かべ、会釈もしてくる。
そう、女性の店員さんだ。この方たちなら、大丈夫だろう。
「あの、実は誕生日プレゼント買いに来たんですけど、女性には何がいいのか難しくて」
「まぁ、それはおめでとうございます! それで、彼女さんのプレゼントを買いに来たんですね?」
「え、あ、まぁ。でも、彼女じ――」
「それでしたら、どのようなものを? 化粧類ですか? それとも、アクセサリなど?」
「一応、化粧をしている風には見えないんで、アクセサリとかで。って、いや、だから――」
「かしこまりました。それでは、ついてきてください!」
どうやら、この店員さんは彼氏が彼女のために誕生日のプレゼントを買いに来たと思ったらしい。いや、半分はあってるけども。
先を歩いていく店員さんについていき、たどり着いたのは確かに装飾品のたくさんある場所だった。
すると歩いていた店員さんは何かを手に取ってこちらへと来る。
「こちらはいかがですか?」
そういって出されたのは、ペアの指輪だった。その下に値段が書いてある。とても直視できない額だ。
「い、いや、指輪はちょっと……」
「畏まりました。でしたら、イヤリングなどいかがでしょうか?」
「うーん」
「それとも、ネックレスなど?」
「そう、です、ね。だったら、ネックレスをお願いできますか? あ、あと、すいません恥ずかしながら手持ちもたくさんではないので……」
「ふふっ、かしこまりました。それでは少々お待ちくださいね」
店員の方がネックレスをとりに奥へと向かっていった。
その間、特にすることもないので辺りを視ながら歩くことにした。
……どれも、とても値が高くて手など出せないものだった。
「こちらなどいかがですか?」
戻ってきた店員さんが持ってきたのは、シンプルなネックレス。
中心に宝石が埋められており、それが光で様々な色に反射する。だが、これも少し難しかった。
そこで、少しの間だけ見て回らせてくれないかと頼むと、快く承諾してくれた。
「では、お楽しみくださいませ」
狭くは無い店内を歩いていく。
いろいろなものに目を向けてみたが、やはりどれも高かったり、なんとなくダメなものばかりだった。
「なかなか見つからないな……。ん?」
それは偶然目に入ったと言って過言ではなかったが、それを見た瞬間、彼女へのプレゼントは決まった。
「やっと、帰ってこれたか……」
夕暮れ色に染まる空を見上げる。
丁度良く太陽が沈もうとしており、更にはその明るさは暖かさと冷たさが入り混じっており、それがなんとも不思議な印象を与える。
帰り道を歩いて、今日買ったものがちゃんとあるか確認し、あるのが確認できたので安心する。
もしかしたら、この夕暮れも今日で見納めとなるかもしれない。そう思うと、少しだけ悲しいかな、なんて思った。
「あ、寿樹君」
「ん? おお」
歩いていると、今日も講義だったのか、いつもの荷物を持っている彼女と寮の入口で鉢合わせた。
「そういえば、今日は早くからどこか行ってたみたいだけど、どうしたの?」
ふむ。やはり聞こえていたらしい。
「いや別に」
別段墓参りとかそういったことは言っても仕方がないのではぐらかす。
「……でも、服から少しだけだけど、お線香の香りがするし、お墓参り?」
一発で看破されてしまった。
「ん、まぁ、な」
「でも、お盆の日にはまだ早いよ?」
「いやー今年はお盆いけなそうだから、さ。だから時間があるうちに行こうと思ったんだ」
「え、お盆どこか行くの?」
「あ、ああ。少しな」
その瞬間、嘘をついているということに胸が痛んだ。
これでも数年以上は一緒のアパートで隣同士だったんだ。嫌いという感情はもとより無い。
「……そう、なんだ」
「なんでそこで悲しそうな顔をする……」
「え、そんな顔してた!?」
なんというか、捨てられた子犬のような雰囲気を纏っているぞ。とは口には出さない。
「捨てられた子犬みたいだった」
「えぇ!?」
おっと、口が滑ってしまったらしい。
それを言われた意外そうな顔をし、ちょっと涙目まで浮かべている。
「いや、冗談だから。(ちょっと可愛かったが)」
「ほんと?」
潤んだ目で上目遣いというのは反則じゃないんですかね? どこかの販促チワワみたいなの。
「ホントだから」
「わかった」
彼女はそこでポケットからハンカチを取出し、目元を拭う。
「それより、そろそろ部屋に戻ろう。暗くなったしな」
「う、うん。それじゃあね、寿樹君」
「ああ、じゃあな」
すでに日が暮れてまともに見えるのは足元を照らす外灯だけだったので、そうそうに部屋に戻ることにした。
幸いにも食料には困っていないので、今日の夕食も相当な量になりそうだった。
オチ決まってるけどどう繋ごう……。




