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8話 支配と管理、どちらが上か

今回は議論の内容を載せてみました。

「あら、彼女は誰かしら?」

 何だかんだで部室へと訪れたフレリアがそう声を上げる。

 フレリアが部室に入った際の光景は、カナンは何か書類を書いており、メイプルは持参した本に目を通している。そして肝心のアルバーナは一番奥の席の周辺で誰かと話していた。

「ふむ、そんな考えもあるのか」

「他にもこういったものもあります」

 驚くことにあのアルバーナが腕を組んで耳を傾けている相手は、身長はメイプルと同程度ほどの女子である。

 緑色の髪を短く切り揃え、大きな眼鏡がチャームポイントの彼女はどことなくのほほんとした空気を持っていた。

「あんな人っていたっけ?」

 フレリアやメイプルの様にハッと人目を引く様な容貌ではないが、それでも美人なことには変わりない。なので少なくとも噂に上ってもおかしくないのだが、そんなことなどなかった。

「ああ、彼女――エイラ=マーガレットは顧問の先生です」

「はあ!? 先生?」

 カナンは腕を止めて顔を上げ、フレリアの疑問に答える。

「まあ、フレリアさんが知らないのも無理ありませんね。何せエイラ先生は二年の担任ですから」

 一年であるフレリアからすれば二年の担任の先生なんて知らなくて当然だろう。

「違う、そうじゃないのよ」

 が、フレリアは首を振って論点はそこじゃないと意志を示す。

「私が気になっているのは、どうして先生が学生服に身を通しているのよ!」

 そう、何故かエイラは学園生が着るスカートとブレザーに身を通していた。

「うーん、何でも学生達と出来るだけ同じでいたいという先生の希望です」

「そして、何よりも問題なのが! どうして違和感が無いのよ! 年齢詐欺じゃない!」

 教師というのは長時間労働と過酷な仕事ゆえに相当ストレスが溜まり、肌のつやなどなくなっていくものだが、何故かエイラは首や顔に皺一本すらなく、永遠の美少女を保っていた。

「そう怒られても……」

 カナンが困ったように表情を曇らせるのだが、フレリアは止まらない。

「ありえないわよ! どうして三十路間近の女性が私達と――」

 と、ここでフレリアはメイプルの姿を目に止める。

 メイプルは十六歳にも関わらず、どう贔屓目に見ても中学生にしか見えない顔と体型をしていた。

「……まあ、世の中には不思議なこともあるわね」

「待ちなさいフレリアさん! あなた、一体どこを見て納得しましたか!」

 視線を向けられたメイプルが憤懣やるせない表情でいきり立つ。

「いえ、何でもないわよ。ただ理屈では説明できない事柄もあるのだと」

「ですから! あなたは誰を見て納得したかと聞いているんです!」

 メイプルは小さな腕を目一杯伸ばしてフレリアの胸ぐらを掴んで揺さぶるのだが、悲しいかな全然効いていなかった。

「……お前ら元気が有り余っているようだな。それならフレリアとメイプルで討論してみたらどうだ?」

 ギャーギャーと騒がしかったのかアルバーナはジロリと二人を睥睨する。

「お題は……『人を向上させるには管理と支配のどちらが上か』だな。時間は十分。はい、始め」

「ちょ、ちょっと?」

 突然話題を振られたフレリアは狼狽するもアルバーナはエイラと再び話し込んでしまった。

「はあ、仕方ないわね」

 こうなってしまえば素直に従った方が得だろう。

 フレリアは一つため息をつくと脳内の知識を引っ張り始めた。


 こういう形式では強い者が始めに口火を切ることが通例となっている。

 なのでまずはフレリアから意見を述べることになった。

「人が人を操ることが支配であり、人以外が人を操ることが管理」

 フレリアは続ける。

「支配はある特定の人物の言動次第で人を左右させるのに対し、管理は法律や規則など人以外が人の行動を制限させる……ここまでは良いわね」

「続けて下さい」

「ここで大切なのは人がどの位置に来ているかということ。もし人が法律より上というならば支配が上であり、逆に法律が上ならば管理が上よ」

「なるほど、つまり一概には決められないということですか?」

 メイプルの問いにフレリアは首を振る。

「違うわ、ここで大事なのは人は変化するのに対して法律は不変であるということ。確かに飛び抜けた人物が現れたら支配の方が管理より人を成長させるでしょうが、それは一時的に過ぎない。変化し劣化しゆく人と違って法律はいつまでも変わらない。つまり長期的な視点で考えるのなら管理の方が優れているわ」

 と、ここで一息吐いた後にフレリアは結論を出す。

「支配か管理のどちらが上なのかを問われたら私は管理の方が上と考えているわね」

「うーん……そうでしょうか」

 メイプルはその結論を疑問を呈する。

「実際は管理よりも支配の方が人に受け入れやすいです。例えば人を殴ることは悪と明記されているにも拘らず他人に命令されて殴ってしまうのは、支配の方が上だからでしょう」

「そのような一面もあるわね」

「他にも急激な成長を遂げる組織や人というのは得てして管理より支配の方が多い。フレリアさん、聞きますが発展させることと維持すること、どちらが重要だと考えますか?」

「世界は常に動いていることを考えれば発展させる方が重要よね」

 フレリアの答えに対してメイプルは我が意を得たように一つ頷いた後。

「その通りです。世界は常に変化し続けることを鑑みても管理より支配の方が上です」

 メイプルは自信満々に勝ち誇るのだが。

「それはおかしいわね」

 フレリアは一笑に付す。

「確かに優れた逸材は周囲の人間や組織を大きく成長させるわ。しかし、そんな人物などそう簡単に現われるかしら。仮に現れたとしても必ず衝突する。何せ天に二つの太陽はありえないのよ」

「それでも当たれば大きいです」

「不確定過ぎる。例えるなら零か百かのギャンブルよりも、一から十まで幅広い得点があった方が長期的にみると後者の方が上なのよ。あ、ちなみに百が出る確率は零コンマ%だと思いなさい」

「……」

 メイプルはその言葉にどう反論して良いのか分からないようだ。勝利が確定したと考えたフレリアは締め括りとして。

「安定的に人を向上させるのなら管理の方が上よ」

 と、宣言した。

「フレリアさんの勝ちですね」

「……負けました」

 書き終えたカナンがそう宣言し、メイプルはシュンと項垂れる。

「メイプルさんも良い線いっていました。もう少し知恵が回ったのならどうなっていたか分かりませんね」

「お世辞を言われても嬉しくないです」

 カナンの言葉にそっぽを向いて拗ねるメイプルを見たフレリアは。

「ああん。もう可愛いんだから」

「な!? ちょっと止めて下さい。苦しいです、そして頭を撫でないで下さい」

 フレリアはメイプルに抱き付いて頭を撫で、そしてメイプルはその豊満な胸に埋もれて苦しそうに暴れていた。


「どうやら話は終わったようだな」

 いつの間にかアルバーナもエイラと話は終わっていたようだ。

「お疲れ。ところでエイラ先生と何を話していたの?」

 一通りメイプルを愛で終わったフレリアが尋ねる。

「ん? ああ、それは来週の新歓について相談し合っていたんだ」

 今は勧誘禁止期間のため大っぴらな勧誘は不可能。そしてそれが解禁となるのが来週の新歓――部活新人歓迎大会からだった。

 この大会の開幕は新入生が体育館に集まってそれぞれの部活のデモンストレーションを観賞し終えてから始まる。

「同好会や愛好会でも体育館で発表できるから、それを利用しない手はないだろう。それで、この発表の条件となるのが普段どんな活動を行っているのかを書類で提出しなければならない。だから今の様に少しだけでも活動を行っていたわけだな」

 アルバーナの視線の先にはカナンが微笑んでいる。

「はい。今までの論議の内容はすべて記録しています。これなら生徒会や教師陣を納得させられます」

「そうだったんだ……」

 初めて理由を知ったフレリアは呆然と呟いた。


「ねえユラス」

 またもアルバーナがどこかへ姿を消そうとしたのだが、出ていく直前にフレリアは呼びとめる。

「ん? 何かな?」

「ユラスは支配と管理、どちらが上だと思う?」

 フレリアはまず始めに議題を出したアルバーナに答えを求める。

「そうです、私も聞きたいです」

 メイプルも乗り気の様だ。

 そしてそれらの好奇の視線に晒されてかアルバーナは右手を顎に当てて考えた後に尋ねる。

「ふむ……人を育てることを何と言う?」

「……教育」

 その問いに対してアルバーナはニヤリと笑って言った。

「それが俺の答えだ」

フレリアは理想

メイプルは現実

そしてアルバーナは予想外

こんな立ち位置です。

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