没話 その1
本筋から大幅に外れてしまったため没です。
理由は後書きに。
「……早いところカナンの目を覚まさせてあげなくちゃ」
明後日
アルバーナが待ち構えてあるであろう部室にフレリアは決意も新たに臨む。
一昨日は予想もしないカナンの発言によって気が動転し、上手い説得法を考えることが出来なかったのだが、時間をおいて頭が冷えてくるとだんだんと周りが見えるようになってきたらしい。
「要するにユラスの教育論を否定すればいいのね」
カナンはアルバーナ個人でなく、アルバーナの説く説に心酔しているのだから、それを論理的に否定すればカナンも目を覚ましてくれるとフレリアは考えていた。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず、あの化け物に関わるのは尻込みしてしまうけれどカナンを取り戻すためなら仕方ないわね」
フレリアからすればあまりアルバーナと関わりたくないのだが、シノミヤに対して誓った宣誓を裏切らないためにも臆するわけにはいかないのだ。
「この先にユラスが……」
フレリアはドアの前で立ち止まり、二、三度深呼吸をする。
「落ち着くのよフレリア。あなたならきっと出来るわ」
傍から見るとある部室の前で目を閉じながら何事かをブツブツ呟いている光景というのはえらくシュールで、周りの生徒もフレリアを奇異の視線で眺めている。
「ローマフィールド家として、カルロスへの贖罪として私は闘わなければならないのよ」
そうやって自分を励ますのは構わないが、もう五分以上そこで立ち尽くしているのは如何なものか。実際他の部活の生徒達が軽く輪を作り始めている。
そして。
「いざ! 勝――」
目をクワッと見開いたフレリアは部室のドアを開けようと取っ手に手をかけた瞬間。
「……ブツブツ言ってないでサッサと入れよフレリア」
「きゃあっ!」
呆れ顔のアルバーナがフレリアの耳元でそんな忠告をしたことによって彼女は驚いて飛び上り、尻もちをつく。
「イタタ……何すんのよ!」
「何って、何時まで経っても扉の前で何か呟いているフレリアがこれ以上見世物になるのを避けるために声を掛けたのだろうが」
ここでようやくフレリアは周りの状況を確認する。
フレリアとアルバーナの周囲には生徒の輪が出来ていたのを見たフレリアがここに来てようやく自分が注目を集めていたことを知って赤面した。
「ほら、掴まれ」
未だに尻もちをついているフレリアを起こそうとアルバーナは手を差し出す。
「え? これ何の真似?」
「……お前なあ」
手を差し出されたフレリアは事態についていけないようだったためか、そんな間抜けな質問を出したのでアルバーナは苦笑する。
地面に倒れた淑女に対して手を差し出す行為は褒められた行為だろう。事実、アルバーナもフレリアも容姿は一級品なので手を取り合う光景だけで絵が描けそうなのだが。
「フレリアに露出癖があるのならそのままM字の大股開きでも構わないけどな」
「え? ……キャアーー!」
続くアルバーナの言葉が全てを台無しにする。
尻もちをついた際のフレリアの格好というのはスカートが中の下着の縁まで確認できるほど捲れ上がっていた。
「み、見た? 見たでしょうユラス!」
フレリアは赤面に加えてパニック状態へと陥ってそんなうわ言を繰り返す。
そんなフレリアに対してアルバーナは一言。
「いい歳してユニコーン絵柄は止めておけよ」
「……」
アルバーナの放った無神経な一言によって彼の後ろの生徒も巻き込んだ魔法による大爆発が起こったのは言うまでも無い。
アルバーナの後方の生徒は巻き添え損だと思われるが、位置的に約得だったので問題はない。
そして、この騒動がアルバーナ学園伝説の一つに数えられる部室破損回数史上最多の第一回目だった。
ワンフロア全焼と怪我人数十名という大惨事。
普通なら停学は当然。下手をすれば退学すらありえたのだが、カナンの力添えによって三人は一週間部活棟の掃除をすることだけで済むこととなった。
「カナン、本当に助かった。ありがとう」
アルバーナは高い位置にある窓を拭きながら廊下を箒で掃いているカナンに礼を述べる。
いくら理事長の孫とはいえこれだけの大惨事を揉み消すには相当な苦労があっただろう。
「いえいえ、ユラスさんのためならこれぐらいお安いものです」
しかし、カナンはそれらを全く見せずに微笑んでいる様子を見るとアルバーナとしてはただ頭を下げるしかなかった。
で、肝心のフレリアはというと。
「カナン、あなた騙されているのよ。これ以上ユラスと一緒にいるともっと多大な苦労をするわよ」
ちり取りでゴミを集めているフレリアは大真面目にカナンの翻意を促している。
「フレリア……俺は今初めてお前を尊敬したぞ」
フレリアのあまりの図太さにアルバーナは呆れとも感嘆ともつかない呟きを洩らした。
フレリアがヒロインからギャグキャラになり下がってしまったので没にしました。