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3話 終わったこと

1シルバーは円に換算すると100円です

「やれやれ……フレリアは加減という言葉を知らないのか?」

 ここは寮部屋。

 二段ベッドの上に寝転がったアルバーナは今日の出来事について愚痴を漏らす。

 あの後、鬼神と化したフレリアがアルバーナのいる隣のクラスに特攻し、問答無用で魔法を放ったのは記憶に新しい。

 フレリアは頭に血が上っていたのか手加減なしの全力だったがゆえにそのクラスの机やイス、床や天井などに多大な被害を与えた。

 おかげであの教室は修理が済むまで使用中止となり、隣のクラスメイトは空いている別教室で授業を行うことになってしまったが、幸いなことに初犯だったという理由とシノミヤの口添えもあって二人は何とか停学を避けられたことを追記しておく。

 なお、そんなわけでアルバーナが集めた美少女達の紹介などする暇などなく、アルバーナとフレリアは二人仲良くお説教を受ける羽目となり、隣のクラスを半壊させたとしてアルバーナの学園伝説にまた一つ加えられた。

「何で私がこんな目に……」

 フレリアはこってり絞られた後、そんなことをブツブツ呟いていたが、原因はアルバーナにあったとはいえ実際にやったのはフレリアである。

 まあ、もちろんフレリアはそんなことを棚に上げてアルバーナを責めたて、お詫びとしてクラスメイトと行くはずであったケーキ店でアルバーナはしこたま奢らされ。

「いいこと? ユラスはいつも予想外のことしか――」

 生活指導の教師による説教によって溜まったストレスをフレリアにぶつけられていた。

 アルバーナからすればクラスを半壊した責任を連帯させられた挙句、奢らされるのに加えて愚痴を延々と聞き続けたのだから堪ったものではないと思うのだが。

「今回のケーキ代が40シルバーちょい……ケーキ代も魔法も少し手加減してほしかったよ」

 アルバーナ本人は少しずれた点について文句を言っていた。

 ……アルバーナよ、そこは論点で無いだろう。


 と、ここでギシリと二段ベッドが揺れる音が部屋中に響いたことからシノミヤがベッドに入ったことをアルバーナは悟る。

「ありがとうな、今日は」

 アルバーナは今日隣のクラスを半壊させた際に庇ってくれたことについて礼を述べる。

「おかげでフレリアの停学を避けられた。彼女がそんなことになれば俺は申し訳ないからな」

 どうやらアルバーナは自分のことよりもフレリアが停学を避けられたことにホッとしているようだ。

「……その言い方だとユラス自身は停学になっても構わないという風に聞こえるよ」

 案の定シノミヤがアルバーナにそう突っ込むのだがユラスは「その通りだ」と簡潔に答える。

「俺が停学になったところで寝る時間が増えたと喜ぶが、フレリアはそういかないだろう。停学になってしまったことを不名誉と捉えて最悪学校を辞めかねない」

「よく見てるんだね、フレリアさんのことを」

「ああ」

 シノミヤの呟きに対してアルバーナは一言で答えた。

「しかし、予想外だったよ」

「ん? 何がだ?」

「いやあ、まさか僕の他にフレリアさんのことをよく知っている人がいるなんて」

 シノミヤは続ける。

「僕がフレリアさんと出会ったのは中等部で生徒会繋がりだったんだ」

 シノミヤの言葉によるとフレリアは一年の頃から上級生に一目置かれ、陰に陽にその力を発揮させていたという。

「フレリアさんって美貌だけじゃなく、魔法や全体を俯瞰する眼も論理的思考能力も兼ね備えていたから、まさに天才の一言でしか表わせないよ」

 フレリアが副会長でシノミヤが会長だったが、シノミヤ自身はお飾りでしかなかったと自嘲する。

「けどね、そんな彼女にも弱点があるんだ」

 どうして能力的にも人気度でも劣るシノミヤが会長になったのか。

 それは彼女は精神的に強いどころか打たれ弱く、誹謗中傷や予想外の出来事に対しては対応できないので、矢面に立つ会長職を任せることは出来ないことをシノミヤだけが知っていた。

「そう、これは先輩方も知らない僕一人だけが知っている秘密だったんだ」

「まあ、フレリアは弱い所など人に見せない性質だから余程注意して見ないと普通気付かないよな」

 アルバーナの呟きにシノミヤは賛同する。

「僕がフレリアさんを弱いと知ったのは生徒会総選挙前だった」

 あの当時、シノミヤも含めて生徒会役員全員がフレリアが生徒会長になるのだと信じて疑わなかったらしい。

 しかし、シノミヤが生徒会室に忘れ物をしたので取りに戻ると、フレリアが部屋にいてそこで泣いていたという。

「僕はあの時気付いたよ。フレリアさんは決して強い存在じゃないということを」

 シノミヤは部屋に入らず引き返し、そして翌日役員の前で自分が生徒会長になると宣言した。

「ちなみにユラスはいつフレリアさんが弱いと気付いたのかな?」

 シノミヤの問いかけにアルバーナは少し考えた後にこう言い放つ。

「出会った瞬間から」

 この予想外の答えにシノミヤは硬直する。

「俺は爺さんと共に色々な国を回ってきたんだ。多様な価値観に出会い、多くの者と出会ってきた」

 アルバーナが旅した国は人間だけじゃない。時にはエルフやドワーフなど異種族が治める国も入っている。

 裕福な国だけでなく、貧困に苦しむ国や戦争状態の国に住む者と接したアルバーナにはフレリアが無理をしていることなど一発で分かったらしい。

「……君はずるいんだね」

 ポツリとシノミヤは漏らす。

「突然現れて首席を浚い、挙句の果てには好きな人も奪っていく」

 本当にずるい

 闇に満たされた空間にシノミヤの呟きが溶けて消えていった。

「……カルロスはフレリアのことが好きなのか?」

「…………うん」

「なら、告白すればいいではないか」

 アルバーナがそう聞くとシノミヤは乾いた笑いを洩らす。

「アハハ……そうしたいけど、今日のあれを見た後だとそんな勇気は湧いてこないよ」

 シノミヤが差すのはアルバーナと接している際のフレリアの様子。

 万事澄ました顔で完璧にこなすフレリアが、アルバーナだけに対しては感情を爆発させ、普段の彼女らしからぬ行動を取っている。

「あんなフレリアさんを初めて見た」

 シノミヤは続ける。

「僕と接するフレリアさんはその他大勢の他人と同じ対応。そんな事実に今更ながら気付くなんてね……本当に僕は自惚れ屋さんだなあ」

 シノミヤの呟きに潤みが混じり始めたのを確認したアルバーナは起き上がる。

「少しトイレに行ってくる。おそらく三十分ぐらい掛かるな」

 さすがのアルバーナもこの時ばかりは空気を読んだようだ。

 そう言い残して部屋から出ていった。

「う……あああああああああああああああああああああ!!!!」

 アルバーナが出て行ってから五分後、その部屋から慟哭が鳴り響いたという。

 なお、余談だがこの時少なくともフレリアはシノミヤに対して好意を抱いており、告白すれば彼女はそれを受け入れていたことを追記しておく。

『教育国家サンシャイン』を執筆しているとアルバーナが登場しないifストーリーを書きたくなるんですよね。

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