19話 仕返し 前編
ようやく風邪から復帰しました。
日にちが空いてしまって筆が走るかどうか不安ですが、とりあえずここまで完成しましたので挙げます。
「――もし、爺さんならどうするか」
定位置となりつつある時計台の屋上で胡坐をかいているアルバーナは口を右手で覆い、腕組みをしながらそう呟く。
アルバーナは基本考え事をする時は高い位置で決まった仕草をする。
このアルバーナ独特の癖は彼の育て親であるバン=ロックの影響である。
ロックも次の旅の行き先など重要な選択に迫られると幼いアルバーナを置き、最も高い場所で思考を纏めていた。
「新歓期間中、何もできないのは痛いよな」
皆の前では泰然自若としていたものの、内心はそう穏やかでない。
アルバーナとしてはこの新歓を生かして知名度を興味関心を集め、そしてロックの思想を広めようとしたのだが、その計画は最初の一歩で躓いてしまった。
「おそらく入学式代表のことを根に持っている可能性があるな」
学園の面目をつぶした新入生代表挨拶ボイコット。
あれで高等部担当の教師陣は現在進行形で肩身の狭い思いをしているとエイラから聞いている。
「しかし、あくまで伝聞推測。確証に至るまでには無い」
アルバーナは基本ロックと同じ様に証拠なしに決め付けることはしないので、これ以上何も出てこない以上、ここで思考を止めた。
「まあ、必ず新歓に出なければないことはないんだ。少し遠回りになるが今しばらく地道な活動を繰り返すか」
ここまで結論づけたアルバーナはごろんと体を横に倒して目前の建築物が眼に入るような体勢に移行する。
アルバーナの視線の先には高等部用の体育館。
シノミヤがデザインしたそれはかまぼこ状をしており、見た目はともかく耐久力はバースフィア大陸史の建築物と一線を画す水準だった。
新歓を仮病と偽ったアルバーナ以外の新入生はおそらくあそこで集合しているだろう。
そして大陸最高峰の学園の生徒が行っている活動について聞いているはずだ。
もしロックが生存していればその貴重な経験をする機会を手放したアルバーナをこっぴどく叱ることだろう。
「はあ、何というか俺も子供だよなあ」
もう少しこの感情の制御が上手くできていればアルバーナも体育館にいたのだが生憎と出来ず、下手すれば暴れてしまう可能性があったので辞退している。
「けど、爺さんも癇癪持ちだったから俺を責められるわけがな――」
「お休みの所失礼します」
アルバーナの眼にはつい先程まで青い空と辺り一面の景観だったはずなのだが、瞬きした次の瞬間には暗い場所に立っており、横にはカナンがいた。
「……カナン、俺が言ったことを覚えているか? 心臓に悪いから突然呼び出すなと」
「申し訳ありません。ユラスさんの少々驚かせたかったもので」
アルバーナがジト眼で問いかけるとカナンは可愛らしくテヘッと舌を出す。
お嬢様然としたカナンがそうした茶目っ気を出す様子に世の中の異性は腰ぬけになってしまいそうだが、残念ながらアルバーナは例外なので表情すら変えなかった。
「で、おそらく周りの状況からここはおそらく高等部の体育館で、俺達が立っている場所はステージの裾。そして壇上に立つ生徒会長のトラップクットが挨拶をするというところだろうな」
「その通りです」
アルバーナは旅をしてきたので状況把握能力は人一倍高い。
ものの数秒で自分が置かれた状況を理解した。
「……カナン、俺は今とてつもなく不吉な予想が頭に過ったのだが」
そして、反対側に翡翠とフレリアが他の面子に猿轡を噛まし、ヴィジーが爛々と眼を光らせて今か今かとウズウズしている様子からこれから何が起こるのかアルバーナは察知する。
「皆さん改めましてこんにちは」
トラップクットがピシッと背筋を伸ばし、よくとおる声であいさつを始める。
「さて、今日新入生の皆さんが集まって貰ったのは他でも何でもない。これから皆さんが三年間を過ごすために何の部活に入るのか。それを決めるために一つの手助けとなればいいのではという想いからこの新歓が行われます」
トラップクットはツラツラと原稿用紙も見ずに新入生の目を見て話す様子から、話す内容を頭の中に叩き込みそして場慣れしているのだろう。
「ふむ……さすが世界最高峰の学園だな」
アルバーナはそんなことを考えながらトラップクットの演説を聞いていると。
「皆さん、どの部活に入るのかは大きな選択です。これで高校三年間の明暗が分かれると言っても過言ではありません。なのでよく考えて自分に合った部を探す必要があり――」
「ちょっと待ったー!」
アルバーナがいる反対側の裾からそんな掛け声とともにヴィジーが割って入る。
「生徒会長! 尋ねたいことがあります」
突然の乱入者で皆が唖然としている中ヴィジーはノリノリでトラップクットに舌戦を申し込んだ。
後編もすぐに取り掛かります。
まあ、この流れは皆も予想していたりして(汗)




