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2話 フラグクラッシャー

「はあ……」

 放課後――窓際の席に腰掛けたフレリアがため息をこぼす。

 夕日に照らされた金色の髪が幻想的な雰囲気を醸し出し、物憂げな表情を浮かべる様はもし絵師がこの場にいたのなら土下座してでも書き写させてくれと懇願してもおかしくなかった。

 事実、入学してまだ一週間しか経っていないにも拘らず、フレリア=ローマフィールドの美しさは学年中に広まっており今も彼女を遠巻きに眺めている学生が何人もいた。

「全く、ユラスはいつまで待たせるのよ」

 フレリアはそうぼやきながらアルバーナの席を見る。同じクラスであるアルバーナは授業が終わると同時に姿を消すのが通例だったが今日だけは違った。

「しばらく待っていてくれ」

 まあ、アルバーナはそう一方的に伝えた後、フレリアが一言も言わ無いうちにまたいつものようにどこかへ姿を消していたのでフレリアにとってはいい迷惑だろうが。

「今日は南側にあるケーキ店に行くはずだったのに」

 実はフレリア、今日はクラスの女子と一緒に親睦を深める目的でお茶会に誘われていたのだが、それをキャンセルしてここにいる。

「ウフフフフフ……これで下らない催しだったらどうしてくれようかしら」

 約束を破ってしまったことによる自責の念とクラスの女子達による生暖かい眼を思い出したフレリアは黒い怨念を撒き散らし始める。

 彼女にアルバーナの誘いを断るという選択肢はなかったのだろうかと疑問に思うのだが、それを口にするのは野暮だろう。

 アルバーナとフレリアの関係は一言で述べると幼馴染であるが、世間一般の幼馴染かと聞かれれば詰ままってしまう。

 何故なら、アルバーナは老人とともに大陸中を旅する根無し草なのに対し、ローマフィールド家はサンシャイン国において多数の教師や学長を輩出している名家だからである。

 天と地ほども差のある境遇の二人に接点など無いに見えるがアルバーナの育て親の老人とフレリアの両親は相当懇意な仲であるらしく、アルバーナ達がサンシャイン国に戻った際にはローマフィールド家でお世話になっていた。

「なんでユラスはカナザール学園に入学したんだか」

 フレリアはアルバーナが同じ学園に入学すると知ったのは入学式当日。

 次席として万が一のために演壇の裾で待機していると、失踪したアルバーナを教師達が捜索していることを知ったからだった。

 自分が次席だと学園側から伝えられた際にフレリアは首席のアルバーナのことも聞いていたのだが、アルバーナもユラスも別段珍しい姓名ではないため同姓同名の別人だろうとしか考えていなかった。

 しかし首席でありながらボイコットをする偉業を成し遂げるなど出鱈目なスペックと破天荒な性格のアルバーナなどフレリアの脳内では一名しか該当しない。

 短い付き合いだがアルバーナの性格を熟知しているフレリアは彼のいそうな場所に向かった結果、久しぶりの対面を果たした。

「全く……ユラスは出会った時から一向に変わっていないわね」

 小さい頃から傍若無人な性格だったアルバーナに対してフレリアはまた、ため息を吐いた時に。

「ちょっと良いかな」

「うん?」

 いつの間にかフレリアに近寄ってきたアルバーナと同じ黒い色の髪を持つ男子が遠慮がちに話しかける。

 その百七十㎝ちかくある男子の第一印象は大国の貴公子である。しなやかな体つきと甘いマスクを連想させる整った顔立ちを持ち、碧い瞳から放たれる優しげな光が印象的だった。

「あら、カルロスじゃない」

 フレリアは目の前の男子に向かってにこやかな表情で笑いかけると。

「うん、フレリアさん。久しぶり」

 カルロスと呼ばれた男子は対応するかのように手を振った。

「相変わらずすごい人気ね。今朝もカルロスに告白したいと息巻いていた女子がこのクラスにいたわよ」

「お爺様の威光によってだよ。多分お爺様の後ろ盾がなければただのボンボンだ」

「謙遜もそこまで行くと嫌味ね」

 シノミヤは勉強や魔法、スポーツどれをとっても秀逸であり、今回のカナザール学園入試においてはアルバーナ、フレリアに継ぐ三番目の好成績を叩き出していた。

「まあ、僕やお爺様の話は置いておいて……フレリアさん、僕と一緒に生徒会に入らない?」

「生徒会?」

「うん、生徒会」

 フレリアの聞き返しに一つ頷いたシノミヤは話し始める。

「先ほど生徒会に誘われたんだけど、その時に生徒会長が気になる人がいるのだったら連れてきてもいいぞと言われたんだ。だからフレリアさんを誘いに来たのだけど」

「どうして私が?」

「フレリアさんとは長い付き合いだったからねカナザール学園中等部の時も生徒会役員同士頑張っていたし」

 カナザール学園はエスカレーター式の学校なので高等部の三分の二が内部進学者、そして残る三分の一が狭い門を潜り抜けて入学する外部者である。

 ……この一点だけ見ても如何にアルバーナが非常識な存在なのか分かるものだろう。

「ね、フレリアさん。僕と一緒に生徒会に入ってこの高等部を良くしていこう」

 情熱の裏に微かな恋心を混ぜながらシノミヤはフレリアにそう詰め寄ると、フレリアも悪い気はしないのか視線を左右に揺らせて考える。

「ふうん、面白そうね」

 フレリアがそう漏らすとシノミヤは嬉しそうな表情を作った。

 それを見たフレリアは頷きながら。

「ええ、私はカルロスとともに生徒会へ――」

 参加する。と、いうことが出来なかった。

 何故なら――

「やあやあ、待たせてごめんなフレリア」

 場の空気を全く読まずにそんなことを言いながらアルバーナが飄々と登場したからだった。

「およ? これは邪魔したかな。じゃあ俺達は隣の教室で待っているから睦みあいが終わったら来てくれ」

「睦みあいって何よ! 睦みあいって!?」

 言うだけ言ってその場を去っていこうとするアルバーナに向かってフレリアが顔を真っ赤にさせながら怒鳴る。

「ん~、何って見たとおりじゃん。幼馴染のフレリアと同じ寮部屋のシノミヤが見つめあいながら微笑みあっている光景をそれ以外の何で表すのかな?」

 腕を組んで首を傾げながらそう尋ねてくるアルバーナに対してフレリアは魔法をぶつけたくなったが、アルバーナが先ほど口走った聞き逃せない単語を思い出す。

「あんた! さっきカルロスと同じ寮生って言っていたわよね! それって本当なの!?」

「うん、俺が二段ベッドの上でカルロスが下」

 間違いであってほしいと願いながらそう尋ねるもアルバーナはたった一言でそれを粉砕する。

「何なのよ……一体何の偶然なのよこれは」

 フレリアはそう呻きながら額を抑えるのだが、隣のシノミヤはもっと悲惨なことになっていた。

「フレリア……幼馴染……僕以外の……」

 光が消えた虚ろな瞳で魂が抜けたように譫言をシノミヤは繰り返す。

 どうやら二人とも、アルバーナと接点があったことを今知ったようだ。

「まあ、とにかく。逢引が終わったら早く来いよ。俺達は待っているから」

 アルバーナは再度同じセリフを繰り返す。

「さて、行こうか皆」

 アルバーナと共についていくのは五人の女子。

 しかも全員フレリアと負けず劣らずの美少女達だ。

「ユラス! あんたの後ろの生徒は誰なのよ!」

 美少女達を見咎めたフレリアは復活してそう金切り声を出すと、

「ん? ああ、彼女達は俺自ら選んで口説き回ったんだ。で、今日はそのお披露目をしようかなと思ってな」

 どうやらアルバーナはこの一週間同学年の美少女達に対してナンパを繰り返していたらしい。

「何なのよ、次から次にと……悪い夢なら早く醒めて頂戴」

 その事実にフレリアは怒りを通り越して呆れてしまって体中の力が抜ける。

「急げよ~、でないとこっちは待ちくたびれてしまうから」

 その言葉を残してアルバーナは去っていく。

「「……」」

 一分、二分と呆気に取られて両者とも話さない中、最も早くに口を開いたのはフレリアだった。

「こめん、カルロス。生徒会の件だけど考え直すわ」

 瞳に決意の光を宿したフレリアはそう述べる。

「あいつを放っておくと必ず大変な被害を学園に及ぼすから、私はユラスの隣で監視役を務めるわね」

 その言葉と同時に去ったアルバーナを追って駆け出すフレリア。

「……」

 そして後に残されたのは恋人に振られた男子の如く悲哀に満ちたシノミヤだけだった。


 今後、フレリアはアルバーナの学園伝説を語るにおいて必要不可欠な存在となっていく事実を現時点では誰も知らない。

 歴史にifはない。

 しかし、もしフレリアがシノミヤと共に生徒会に入っていたならばアルバーナの学園伝説は無かったものだろうと十分考えられることが出来た。

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