18話 フレリア覚醒
シリアスすぎたので柔軟剤としてコメディ成分を多少配合しました。
「……そうですか」
フレリアから大体の話を聞き終えたカナンはため息を漏らす。
「つまりユラスさんは私を疑っていると捉えてよろしいのですね?」
カナンが悲しそうな表情でフレリアの横にいるアルバーナに尋ねるのだが、彼は無表情で首を振りながら。
「先程言ったように決定的な証拠が出ていない以上、俺のカナンに対する態度が変わることはない。ただ、それではフレリアを始めとした部員が納得しないだろうから。今、ここでフレリアに納得できるような釈明を求める」
アルバーナの淡々とした物言いにカナンは微笑を取り戻し。
「では、私は答える必要などありませんね」
「ちょっ!」
カナンの物言いにフレリアが色めき立ったのでアルバーナは右手をフレリアの前に出す。
「訳を聞こうか?」
アルバーナの言葉にカナンは一つ頷く。
「ええ、だってユラスさんからの評価が変わらないのであれば、その他は些細なことですもの」
悠然と微笑みながらそう述べるカナンにフレリアは多少怖じ気づきながらも一歩前に出る。
「つまりカナンが黒幕だと認めたということで構わないのね?」
「……」
「カナンは私達から敵視されるわよ」
「……」
「ユラスと共にいる時間が減っても構わないのね?」
「それは困りますね」
「そっちなの!?」
フレリアの詰問に対して無言を貫いていたカナンだったが、アルバーナ関連の話を持ち出すと急に諦めた。
「私も理事長の孫ということで忙しい身なのでこれ以上ユラスさんと離れ離れになるのは避けたいです」
「避けると言ってもあんたはユラスに呪いを掛けたから問題ないじゃない」
「私も寮生活なので気軽にユラスさんを呼ぶわけにいかないのですよ」
「……ああ、そう」
カナンはサラッととんでもないことを口にしたのだが、フレリアはその言葉の裏にある意味を考えてはいけないと本能的に感じたのであえて突っ込まずにおいた。
「確認するわね」
フレリアはコホンと一つ咳払いしてこの弛緩した空気を取り戻す。
「カナン、あんたは黒幕じゃないのね」
「はい、私ではありません」
「その理由は?」
「ユラスさんの望むことではないからです」
「単にあんたがユラスを独占したいがゆえの行動じゃないのね?」
「もちろんです。ユラスさんは皆のものですから」
「……そう」
一応型通りの質問を投げかけるのだが、今のフレリアの心境はカナンが無実という方向に大きく傾いていた。
毒気を抜かれたというか、相手にするのが馬鹿らしくなったというか、本気で噛み付くフレリア自身が無性に恥ずかしくなってきたのである。
「疑ってごめんなさい、カナン」
だからフレリアは頭を下げて己の拙速を詫びる。
「カナンにそんな邪悪なことを考えて実行できるわけなんてないのよね」
「いえいえ、むしろ嬉しいぐらいです」
「どういうこと?」
てっきり「大丈夫ですよ」と返されると予想していたフレリアは顔を上げてカナンに尋ねると、彼女は悲しい顔をしながら。
「私の力が及ばず、ユラスさんを苦しめたことは事実なんですから」
そしてカナンは一筋の涙を垂らす。
「私も何とか決定を取り消そうとお爺様に直談判しました。そう、これから一ヵ月間毎日お爺様の肩を揉む条件を出してお爺様をけしかけたのですが、それでも無理でした」
「……」
フレリアは突っ込みたい衝動に襲われたが、渾身の力でそれを抑え込んだ。
「フレリア、納得したか」
ここまで沈黙を保っていたアルバーナはここでようやく口を開く。
「ええ、その通りよ」
「そうか、なら良かった」
アルバーナは踵を返して去ろうとするのだが、フレリアが慌てた様子で引きとめる。
「ねえ! ユラス!」
「何だ?」
アルバーナが足を止めて振り返ったのでフレリアは続けて。
「新歓……どうするの?」
もしカナンが黒幕ならばそれを指摘することによって解除を目論んでいたフレリアだが、実際はカナンもどうにもならないことだった。
「決まっているだろう。期間中は休部、各々楽しんでくれ」
カナンが関係していない以上、どう足掻こうともアルバーナが率いる部が日の目を見ることはない。
「誤解しておくようだが言っておく。手段と目的を間違えるな、俺は爺さんが残した教育論の正しさを証明したいのであり、新歓に出ることが目的じゃない。出れないことは痛いが、こうなった以上どうにもならないだろう」
だから気にするな。
アルバーナは二人にそう言い残して二人の目の前から立ち去っていった。
「……ふざけんじゃないわよ」
アルバーナが去った後の教室でフレリアは呟く。
「ユラスはもう終わったこととして捉えられているけど、私はこの身を焦がす感情を抑えることが出来ないのよ」
それは怒り。
直接話し合わず、意見すら聞いてもらえずにただ上から一方的に決め付ける態度が気に食わない。
おかげでフレリアはカナンを疑い、部内に亀裂を生んでしまうところだった。
「絶対に許さない」
情けなさや己の愚かさから来る恥も怒りのエネルギーへとフレリアは昇華する。
「カナン、やるわよ」
「何をですか?」
フレリアの鬼気迫る声音に多少表情を強張らせながらもカナンは問う。
「決まっているじゃない。私達をコケにした生徒会や教師陣に対して思い知らせてやるのよ」
そう言って犬歯をむき出しにして笑うフレリアの様子はまるで幽鬼だったとカナンは後に証言した。
次が一つの山場です。




