17話 フレリアの気づき
頭痛い
肩痛い
熱が下がらない
誰か助けて
「……ユラス殿、それは一体どのような答えでござろうか?」
フレリア、メイプル共に混乱していたので三人の中で比較的冷静な翡翠が尋ねてきたのでアルバーナは一つ頷きもう一度繰り返す。
「言った通りだ、俺がカナンに嘘をメイプルに吹き込めと命令した」
「いや……意味が分からないのだが」
アルバーナの答えに翡翠は複雑な顔を作ってそう述べる。
「何故ユラス殿がわざわざそのような所業をするのか拙者には非常に理解に苦し――」
「アハハハハハ!」
翡翠のたどたどしい言葉をフレリアが哄笑する。
「ほ、本当にユラスは期待を裏切らないわね」
上を向き、手で額を押さえながら笑うフレリアはその美貌も相まって死天使の様に映る。
「あの、フレリアさん? どうしましたか」
フレリアの奇行におずおずと尋ねるメイプル。
心なしか翡翠もフレリアから距離を取っているように見えた。
そんな腫れ物に触るかの様な態度を取られたにもかかわらずフレリアは全く気にせず手を振りながら。
「いえ、何でもないわよメイプル。ただ、気付いただけ」
クツクツクツとフレリアは喉を鳴らして笑う。
「いやあ、私も騙された騙された。普段から物腰柔らかで清いカナンだけど、あのクルセルス家の跡取りなのよ、清純一辺倒でやっていけるわけがないじゃない」
「……」
饒舌な語りでフレリアは意見を述べるをアルバーナは沈黙で答えた。
「……拙者には今一つついていけぬが」
メイプルも翡翠と同じなのだろう。
翡翠の呟きにメイプルはコクコクと相槌を打った。
「理事長を祖父に持つカナンでさえも決定に対し、覆すどころか何一つ妥協できなかった時点で不審に気付くべきだった」
フレリアは謳い始める。
「今回の黒幕はカナンよ。彼女が裏から手を回して新歓を参加させなくしたの」
「どういうことですか?」
メイプルの質問にフレリアは含み笑いをしながら。
「カナンはね、見た目は清純そうに見えるけど中はそうでもなく、欲しいもののためなら手段を選ばない性質なのよ」
中等部からカナンを知っているフレリアには分かる。
フレリアの知る限りカナンは狙ったものは全て手に入れてきた。
例えば運動会の優勝トロフィーが欲しいと願えば、他のクラスの有力選手達が辞退したり、何故かカナンのクラスが有利なポジションを取っていた。
「それでは何のためにこのような真似ごとを?」
翡翠の質問に対してフレリアは笑いながら。
「決まっているわ。この状況を作り出し、先程の『あんたはメイプルのために大人しく従った』をユラスに問わせるためよ」
フレリアは続ける。
「皆が準備していたのをこのタイミングでご破算にすればカナンの思惑通りに事が進むでしょうね」
その言葉に翡翠が異を唱える。
「しかし、今回はメイプル殿が突撃したからであろう。もし、しなければどうするべきだったのでござろうか」
「その時は不審に思われない程度でメイプルを唆すでしょうね。まあ、チャンスはこれ一度っきりじゃないから、また次の機会を狙うわ」
「……」
「話を戻すわ。先程の質問にユラスが頷ない選択肢など無いわ、ユラスの性格だと絶対にその選択を取らないわね」
「まあ、拙者の知っているユラス殿なら人の好意を無碍にするような輩でござらん」
「ここからが本番。問いに対して頷くと、ユラスはカナンに大きな弱みを握られる羽目になるのよ」
「なるほどな、真実ならともかく嘘ならば拙者達のユラス殿に対する評価は地に落ちるであろうな」
「そういうこと。つまりユラスは絶対に頷いてはいけない。しかし、頷かないのはユラスの矜持に反してしまう。結局はカナンの一人勝ちよね」
話の論点を整理すると、今回の騒動は全てカナンが仕込んだものであり、その目的はアルバーナを独占するためらしい。
「そう考えると納得がいくでござるな」
「……許せません」
翡翠も同意を示し、メイプルは瞳に怒りを宿している。
そしてそんな二人を確認したフレリアはフフンと胸を張ろうとするが。
「フレリア……戯言は終わりか?」
アルバーナの鋭い視線に身を竦ませるフレリア。
「頭の良い人間の欠点だ。回るからこそ荒唐無稽な話に筋を通し、賢いからこそ辿り着いた答えを疑わない。さて、フレリア。先程の話を裏づける証拠はあるのか?」
「そ、それは中等部の時の逸話だったり、名家で生き残っていたりと……」
「全て状況証拠だろ? フレリアは単なる推測で物事を決めつけるのか?」
「……」
アルバーナの言葉にフレリアは完全に沈黙してしまう。
「確かにカナンがフレリアの言う通りに黒幕かもしれない。だが、それを決定付ける確たる証拠が出ない限り疑うのはよせ」
その言葉と共にアルバーナは出口へと歩き出す。
「フレリア、付いてこい。カナンの元へ向かうぞ」
その言葉に弾かれる様にフレリアは慌ててアルバーナの後を追った。
しばらく不定期更新になる可能性が出てきました。




