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12話 道は造るもの

「全員揃ったことだし来週の新歓に向けて何をするのか会議を開くぞ」

 フレリアとシノミヤが正気に戻ったことを確認したアルバーナは切り出す。

「まあ、やることはポスターを作って公表もしくは爺さんの理念を公演するだけだから大体は――」

「ちょっと待ちたまえ!」

 アルバーナの語りの途中でヴィジーが待ったを入れる。

「ユラス君。その前にもっと大事なことがあるんだ!」

「ほう? 何かな?」

 突然話を遮られたにもかかわらず嫌悪の表情を一瞬足りとも浮かべないアルバーナはさすがというべきか。

「それは自己紹介だ! ボク達はこれから深い仲になるのだから、まずはお互いのことを知ろうではないか!」

「……それは先程やっただろう」

 ヴィジーが勢いよく口火を切ったので、どんな話をしてくれるのか興味津々の様子だったアルバーナは思わずがくりと肩を落とす。

「名前とクラス、そして一言の挨拶したから、詳しいことは部活が終わってからだ」

「いいや! それだけでは足りないのだよユラス君!」

 アルバーナの言葉を首を振りながら否定するヴィジー。その芝居がかった言動は見事だといえる。

「……じゃあ、何をするつもりだ?」

 アルバーナはこれ以上ヴィジーに言っても無駄だと悟ったのか呆れ口調でそう尋ねる。

「ここにいる全員は俺が誘ったので皆はここで何をするのかすら明確に定まっていないぞ」

「ユラス君は何故数ある学園生からボク達を選んだのか! そして、皆は何故ユラス君の誘いに乗ったのか聞きたいではないか!」

「ふむ……」

 ヴィジーの質問に顎に手をやるアルバーナ。

「そういえば言ってなかったな?」

 アルバーナがそう疑問を呈するとフレリアが手を挙げて。

「私の場合はいきなり誘われたからね」

 その言葉の後にシノミヤがおずおずと。

「フレリアさんが心配だったから」

 次にカナンが微笑みながら。

「部を作るから協力してほしいと頼まれました」

 メイプルは唇をキュッと結んで。

「『俺が憎いなら部員となれ。そうすればいつでも論戦してやろう』と、傲慢に宣言されました」

 エイラがクスクス笑いながら。

「職員室に突然訪れて『部の顧問になってほしい』とお願いされたんですよね」

 翡翠は瞑目しながら。

「『異文化交流ということでここは一つ』と懇願なされた」

 そして最後にヴィジーが。

「とりあえず面白そうだったから参加したんだ」

 それらの各々の入った理由を吟味したシノミヤは一言。

「……全員ユラスが誘ったから入ったんだね」

「確かに」

 この教育研究部の理念に共鳴したからでなく、単に誘われたから入ったという事実に対してアルバーナは反省するそぶりすら見せないのはさすがというべきか。

「キッカケはひょんなことで良いんだ。とりあえず触れてみて合わなければ辞めても良い。そしてお前達を選んだ理由の一つは勘だな」

 アルバーナは続ける。

「数ある学生の中からお前たちを選んだのはパッと見て何かを感じたからな。だからそれで誘う人間をある程度絞り込んでおいた」

「勘って……どうしてそんな不確実なものを信用するかしら」

 フレリアが呆れるように呟いたのだが、意外にもカナンがそれに抗議の声を上げる。

「フレリアさん、勘は大事ですよ。クルセルス家は代々生涯で一度しか使えない魔法を掛ける相手を勘で決めてきました」

「あんたの家はおかしいのよ!」

 カナンの静かな物言いに髪を逆立てて抗議するフレリア。

 確かに自分はおろか相手の人生すら左右してしまう魔法を勘で掛けるかどうかを決めるのは危険極まりないが、それでも一族が上流階級にいるところを見ると少なくともクルセルス家にとっては正しい戦略だったのだろう……まあ、掛けられた方は堪ったものでないが。

 物事が正しいのか正しくないかを判断するには現実で生き残っているかどうかが重要である。

「そして人物に目星を付けた後、彼らの役割がどんなものであるのか見当をつける」

 もし目に留まった学生をこの部に招き入れたら、彼らは何をしてくれそうなのか考え、アルバーナの目的に合いそうな個性を持った者を絞り込む。

「それってかなり危険じゃないですか? 今回は全員ユラスのもくろみ通りに揃ったから良いものを、もし全然集まらなかったら最悪企画倒れになっていましたよ」

 メイプルの意見にアルバーナが答えようとしたが、彼はメイプルにだけは特段厳しいので事態をややこしくさせまいとエイラが代わりに答える。

「例え不確定であろうとも大きな目標を描いておくことは必要よ。気を付けなければいけないことはその目標に至るまでの方法に固執してしまって、目的と手段が入れ替わってしまわないこと」

 ある目的を達成させるための方法は一つだけではない。

 例えばAという場所に行くために馬車、船、徒歩という三つの選択肢があり、その中では船が最も効率が良い手段だとする。

 しかし、天候の模様で海が荒れ、出航できない時に無理して船に乗る必要はない。多少時間や労力もかかるが、馬車や徒歩で行ったほうが結果的に船よりも早く着くことが多々ある。

「もし全員が揃わなかったら……その時は今いる人材でできる方法を模索するだけだ」

「なるほどです」

 アルバーナの言葉にメイプルは納得するかのように深く頷いた。

「まあ、そして俺はお前達を誘ったわけだが。すでにしてもらうことは決まっている」

 アルバーナはそう言ってホワイトボードの前に立つ。

「新歓は大きく分けて二つ。一つは体育館での発表や教室を借りてでの討論などパフォーマンス。そしてもう一つはその際に配る勧誘用チラシの作製」

 アルバーナはホワイトボードの真ん中に縦線を引いて。

「パフォーマンス部門は俺やヴィジー、翡翠が良いだろう。俺はこの通り話すのが得意だし、ヴィジーもアジテーションの才能がある。翡翠も珍しい風貌をしている鬼族出身だから人目を惹きやすいからな」

 右半分にそのような大まかな図を描いた後、続いて左半分へと移動する。

「経験豊富なエイラ先生が纏め役でフレリアとカナンとカルロスはその豊富な知識を生かしてチラシの中身を決めてほしい。ああ、それとメイプルは雑用な。両部門を行き来して必要なものがあれば用意する係」

「私だけ扱いが酷くないですか!?」

 メイプルが声を上げて非難するも。

「じゃあ聞くがメイプルは何ができる? 俺やヴィジーのように人を呼び寄せることができるか? それともフレリアやカナンのように深い教養をもっているのか?」

 アルバーナの畳み掛けるような弾劾にメイプルは詰まってしまう。

「け……けど私の役割は」

「役割以前にメイプルはまだ未熟だ。まだ何もできないから俺や彼女達の動きを見て学習しろ」

「うわーん!!」

 健気にも言い返そうとしたが、アルバーナから事実を指摘されてまたメイプルはエイラの胸に飛び込む。

「……羨ましいな」

 そんなことを思わず漏らしたヴィジーにフレリアは風の塊を投げつけて黙らせた。

 ここまでアルバーナが言うとカナンが手を挙げて。

「勧誘の際のターゲットは誰でしょう。知識のない大多数か、それとも学者志望の少数派かで中身が大きく変わるのですが」

 その意見にアルバーナは頷きながら。

「今回は大勢の人に知ってもらう必要があるから大多数向けで良いな」

「そうなるとユラスさんの志を理解しない軽いノリで入ってくる者が多くなってしまう可能性があるのですが」

「ふむ、どういうことかな?」

「つまりユラスさんが懇切丁寧に教えても意味がなくなるであろうことを危惧しています」

 その場の雰囲気で入ってきた者はちょっとしたこですぐに離れていってしまう。

 ましてやアルバーナの唱える説は異端なので遠からず上から目を付けられ、圧力をかけられて保身のため離散していってしまう可能性をカナンは憂慮していた。

「まあ、それは仕方ないだろうな」

 アルバーナは続ける。

「どこの世界にもそのような輩はいるものだ。しかし、努力や苦労を無駄にしたくないからと言って理解を示す少数で囲み、閉じた世界で満足してしまうのは最も忌避すべきことだ」

 適切な環境で育てた方が苦労も時間もずっと少なくて済むが、それは誰にでも出来る。

 ゆえにアルバーナはあえて誰もやらないであろう道を進むと宣言していた。

「道は、方法はなぞるものじゃない、造るものなんだ」

「……さすがです。ユラスさんを選んだ私の眼に狂いはありませんでした」

 アルバーナの迷いなき言葉にカナンは感激したように深く頭を垂れた。

皆が何故ユラスの誘いに乗ったかは次話で描写します。

まあ、内容が無いようなのでユラスがいない方が皆が喋り易いかと思われますので、男性陣抜きです。


うーん……最近メイプル苛めに快感を覚えてきているなあ。

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