11話 全員集合
ようやく全員を登場させることが出来ました。
「ようやく全員が揃ったな」
ある日、アルバーナがそんな感慨深い呟きを洩らす。
「本当にね、どうやらどこかの鬼族は最後に来たけど」
アルバーナから見て左前にいるフレリアが右前に座っている翡翠に向かって言い放つ。
席決めの際、当然の如く翡翠がアルバーナの右を選んだのでそれに対抗するかの様にフレリアが左を死守した。ちなみに翡翠の席場所には元々カナンがいたのだが、彼女は快く譲っている。
「どんなに足掻いても結果は変わりませんから」
と、席を譲る際カナンは意味深な言葉を残していた。
「やれやれ、やる気のない人間は困るわね」
意外だろうがフレリアはアルバーナが部活を立ち上げてから唯一皆勤しているのである。
「ふむ、ここしか居場所のない大陸人より拙者は忙しいのだ」
「……何ですって?」
サラリと返した翡翠の挑発に目をむくフレリア。
「ああ、済まぬ。居場所がないのではなくて友人が近くにいないのであったな」
実はフレリア。
その人間離れした美貌は異性から受けが良いものの同性からは嫌われており、それでも近寄ってくる同性のほとんどがローマフィールド家の家柄に遠慮している者という悲劇である。
「まあ、食べるために働くというどこかの大食い鬼族よりましよね」
「……ほう」
大人が食べる十人前でようやく一人前という膨大な量を食べる鬼族。
翡翠は奨学金の他に仕送りを貰っているが、それだけで食費をとうてい賄いきれるわけがなく、鬼族の怪力を生かして生活費を稼いでいた。
まあ、翡翠も鬼族とはいえ女である。
バクバク食べる大食らいと思われたくないのだろう。
「「うふふふふふ……」」
フレリアも翡翠も笑顔なのだが、こめかみに血管を浮きだたせている様子から誰が見ても爆発数秒前だである。
「フ、フレリアさん、落ち着いてよ」
ちゃっかりとフレリアの横の席を確保したシノミヤがフレリアを宥めようとするが、残念ながらほとんど効果が無いようである。
「はあ~……」
このままだとまたもや部室がめちゃくちゃになってしまいそうなので、アルバーナは両手を振り上げ、勢いよくフレリアと翡翠の上に落とした。
「つ~」
「う……」
全く予期していなかったのか、頑丈である翡翠さえもフレリアと頭を押さえて呻く。
女性の頭を殴る行為などアルバーナもしたくないのだが、この二人はその性格上口で言っても分からないと知っていたので、このような実力行使となったわけだ。
まあ、それでも今のアルバーナの行為は褒められるものではない。
ゆえに。
「ユラス! 女性の頭を殴るなんて酷いじゃないですか!」
案の定翡翠の隣のメイプルが立ち上がって抗議する。
「暴力でなくて言葉で二人を説得するべきです!」
確かにメイプルの言う通りなのだが、あの場では双方共に意見に耳を貸すだろうか。
ゆえにアルバーナは淡々と口を開いて意見を述べる。
「じゃあ聞くがメイプル、どうしてお前は二人のいがみ合いを黙って見ていた? 俺が制裁を下すまで声を上げる時間は十分あったように思えるが」
「た、たまたま間に合わなかっただけです!」
実際は怯えていたのでメイプルは声を上げるどころではなかったのだが。
「ああ、そうなのか。つまり間に合わなかったメイプルは間に合った俺を責めるのだな」
アルバーナの言葉にメイプルはどう答えて良いのか分からずに口を噤む。
そしてそんなメイプルに一言。
「しかし、言っていることは正しい。良かったなメイプル、お前は立派な評論家になれるぞ」
「うわーん!」
アルバーナの容赦無い言葉にメイプルは隣のエイラに泣きついた。
「おお、よしよし」
突然のメイプルに抱き付かれたエイラは一瞬目を見開くも、すぐに平静を取り戻してメイプルの背中を撫でる。
「大丈夫よ、メイプルちゃんは正しい行動をしたわ。ただ、少しタイミングが悪かっただけよ」
「……本当?」
「うん、本当」
教師ゆえなのかそれとも天性ゆえなのか。
エイラの慰めによってメイプルは見る見る落ち着いていった。
「さて、本題に入ろうか」
アルバーナは何事もなかったかのように議題を進行させようとする姿は褒められるべきか非難されるべきか議論が分かれるところである。
「ねえ、ユラス。一つ席が余っているのだけど」
痛む頭を撫でながらフレリアは手を上げる。
確かにカナンの前にある席には誰もいないように見えた。
「ああ、そういえば彼女は来ているぞ」
アルバーナはフレリアの疑問に一つ頷いて答える。
「彼女は凄い悪戯好きでな。こうやって姿を隠して人を困らせるのが大好きなんだ」
「それは困った性格よね」
フレリアが渋面を作る。
「一体誰なのかしら、早く会ってみ――」
と、フレリアが言葉を続けようとした途端。
「巨乳キターーっ!」
「わきゃーー!!」
フレリアの後ろからそんな奇怪な叫び声が響き、フレリアが驚いて立ち上がる。
「いいよなー。羨ましいよなー、この胸」
パニックとなったフレリアの後ろからそんなボーイッシュな声音が響いてくる。
「キャー! キャー!!」
フレリアの胸を良く見ると不自然にグネグネと動いている。
あの声も合わせると誰かが姿を消してフレリアの胸を揉んでいることが予想できた。
「う……あ……」
ちなみに隣のシノミヤは事態についていけないのか、それとも揺れる胸に心を奪われているのか硬直している。
「馬鹿なことは止めろ、ヴィジー」
なのでいつの間にかアルバーナはフレリアの後ろへ立ち、彼女にへばりついているであろう人物を引き剥がした。
「あらら、もう終わり?」
捕まってしまい観念したのか混乱の原因となったヴィジーが舌を出す。
赤い髪を短く切り揃え、中性的な顔立ちをしているのはヴィジー=カナクニック。百六十cmと平均的な身長で、体の発育もそれなりに成長している。
「ん~、ボクとしてはもう少し楽しみたかったんだけどなー」
首筋をアルバーナに掴まれながらも全く反省していない。
その全く悪びれない態度に加え、ハキハキとした明るい口調で話すので大多数の人は毒気が抜かれてしまうのだが。
「あ~ん~た~は~」
フレリアは少数派であり、瞳に怒りを宿らせていた。
「最後に残したい言葉はないかしら?」
フレリアの方はすでにスタンバイを済ませているようだ。両手に炎を召喚して最後通牒とばかりにヴィジーへ突き付ける。
するとヴィジーは両手を結んだり開いたりを繰り返して。
「ん~、そうだなー……今の感触だと九十ぐらいあるから、もう少しでユラスの好みに届きそうだな」
なんてのたまうものだから。
「んなあっ!?」
フレリアは一瞬で赤面し、集中力が途切れて魔法が消えた。
「……お前が俺の性癖を知るはずがないだろうが」
突然名指しされたアルバーナはそう呆れながら呟くとヴィジーは両手を合わせて。
「ごめんごめん。だってあのままだとボク、焼き殺されそうだったからね」
確かにあの状態のフレリアなら間違って一線を越えても仕方なかっただろう。
そういう意味で考えるとヴィジーのあの発言はファインプレーだったと言えた。
「まあ、良い」
フレリアは別世界へトリップし、シノミヤは鼻血を出して悶絶している中では進めることも出来まい。
そう判断したアルバーナはヴィジーを解放して席に着くよう指示した。
「もし、ユラス殿」
席に着いたアルバーナに対して翡翠がそっと囁く。
いつになく深刻な様子の翡翠にアルバーナも身を乗り出して聞く態勢に入るが。
「もしかしてユラス殿も胸が大きい方が良いのか?」
「……」
さすがのアルバーナも翡翠のその問いかけには呆れてしまったようだった。
アルバーナとしては無視したかったのだが、いつの間にか全員が己に注目している。
なのでアルバーナはこの場を収めるために一言。
「黒い猫であれ白い猫であれ鼠を捕る猫は良い猫だ」
と、よく分からない煙に巻く回答を残した。
ここまでで約35,000字。
後、1, 2話で起承転結の転に入りたいです。




