月夜の告白(2)
「ぎゃあっ。出た!」
ネリーの悲鳴交じりの声が聞こえてくる。
どうやら、今の言葉はネリーに向けられたものだったらしい。
けれど、数歩進めば、私たちの存在にも気付く。
そんな距離にいるのだ。
カイルを見ると、“声を出すな”と目配せされ私は大きく頷く。
「毎回失礼な。こんなところで何をしているのですか?」
「つ、月が綺麗だな~って思って、ちょっと散歩していただけです」
「はぁ。メイド風情がフラフラしていい場所ではありません。早く部屋に戻りなさい」
「って! そっちはダメ!!」
「はっ?」
「いえ。えーと……ユーゴ様。お酒付き合ってくれません?」
「なぜ私が……」
「一人はわびしいじゃないですか! ユーゴ様お酒好きですよね。ここで会ったのも何かの縁。今日だけ。本当に今日だけお願いします! 今後二度と絶対つき合わなくていいですから、今だけつき合ってください!!」
必死なネリーの声が響く。
(ネリー、あんなにユーゴさんが苦手なのに……)
いつも姿を見かけると一目散に逃げ出すのに、私たちが見つからないようにと、必死になってくれている。
そのことに、何だかものすごく感動してしまった。
「……いいでしょう。今回は見逃してあげましょう」
「へ?」
「そこまで言うのならつき合うと言ったのです。覚悟してください」
「うっ。いえ、一杯だけでいいんですけど~」
「私を飲みに誘って、一杯で済むわけないでしょう」
「とことん付き合ってもらいます」
「って! 立場逆転しているし。明日も仕事なんですけど」
「奇遇ですね。私もです」
涙声のネリーと、淡々としたユーゴさんの声が徐々に遠ざかって行く。
どうやら、何とかバレずにすんだらしい。
「今度こそ行ったようだな」
私から身を離しカイルは息を吐き出す。
「あ、ありがとう。おかげでこの姿を見られずにすんだわ」
「いや。それより、お前は一体何者なんだ? あの男は、お前を“姫”と呼んでいたな」
カイルの問いにギクリとし恐る恐る見上げると、心の奥底を見透かそうとするかのような夜闇色の瞳とかち合う。
もう誤魔化しきれない。
ううん。そもそも、本当のことを話すためにカイルに会いに来たんだから。
「リルディアーナ・エルン。それが私の本当の名前」
唐突な告白に、カイルは面食らったように目を見開き、考え深げに口を開く。
「リルディアーナ……エルン? 南の小国に、確かそんな名の国があるはずだが……」
「うん。南にあるエルン国っていうのが私の国。私の父の名は、フレデリク・エルン。エルン国の王。そして私はその国の第一王女」
「リルディが王女?」
「黙っていてごめんなさい」
私の言葉に、数拍の間を開けて息を吐き出し、背を預けていた柱にもたれたまま座り込む。
「大丈夫!? どこか痛むの?」
そういえば、アランにかなり痛めつけられていたみたいだった。
もしかしたらひどい怪我をしているのかもれない。
「少し気が抜けただけだ。それより、何が何だか分からぬ。一から説明しろ」
そう言い放ち、自分の隣に座るように促す。
「えっと。いいの? 黙っていたこと、許してくれるの?」
「いいから洗いざらい話せ。お前はまったく次から次へと、驚かせてくれる」
どうやら怒ってはいないみたいだ。
そのことにとりあえず安堵する。
「あのね、実は……」
月が静かに見守るその場所で、私は少しずつ話していく。
※補足※ この世界では飲酒は12歳くらいから可という設定です。