発動する想い(2)
「お前ら俺のこと忘れてるだろ? わざとか? ぜってーわざとだよな」
聞こえてきた恨みがましい声に、私とカイルは顔を見合わせる。
「あ……」
「……」
そうしてから、今の状態がどれほど恥ずかしものなのか思い出し、慌ててカイルから離れる。
さっきまで必死すぎて何も考えていなかったんだもの。
「アラン違うの。今のはその……」
アランに歩みよろうとした私を、カイルが再度引き寄せ自分の背にかばう。
「カイル?」
その顔を覗き込むと、警戒心をあらわにした瞳で、強く射抜くようにアランを見ている。
アランがカイルにしたこと考えれば、当たり前の反応かもしれない。
その場にひどく緊迫した空気が流れる。
「そんなに睨むなよ。今日は何もしない」
「どういうことだ?」
「また暴走されても困るんでな。出直してくるわ」
「出直すってどういうこと? どこに行くの?」
「決まってんだろ。俺の居場所にだよ」
黙っていられず飛び出した私に、アランはどこか自嘲気味に言葉を放つ。
「それってどこ? それにどうして、クラウスは一緒じゃないの?」
「あぁ。あいつのこと忘れてたわ。心配しなくても、もうすぐココに来ると思うぜ?」
「クラウスも無事なのね?」
「あぁ。悪運だけは強い男だからな。大丈夫だろ」
「よかった」
「……」
「?」
安堵の息を吐いた時、カイルの視線に気が付く。
なぜかすごく憮然としたような表情をしている。
不思議に思って見返すと、すぐに視線をそらされてしまった。
「じゃあ、そういうことだからまたな。姫さん」
「待って!」
アランはカイルにひどいことをしたと思う。
たぶん、“暗殺者”というのも本当だろう。
それでも、アランは私のよく知っているアランだった。
カイルを助ける手助けをしてくれた。
私にとっては兄のような友人。
そしてなにより、アランがいなくなれば、クラウスが悲しむはずだ。
「……長……イサーク・セサルは姫さんをご所望だ。大切なら、せいぜい掻っ攫われないように守るんだな。次に会うときは、俺も全力でいかせてもらう」
その目は私ではなくカイルに向けられている。
鋼色の瞳が鋭く冷たく光り、アランには似つかわしい、酷薄な笑みが口元に浮かんでいる。
「貴様らなどに、リルディも俺の命はやらぬ」
カイルの答えに満足したようにニヤリと笑い、アランは背を向ける。
「アラン!」
パアァン!!
アランが作り出した空間が、まばゆい光とともに砕け散る。
「あ……」
次に目を開けた時、そこはいつもの庭園だった。
暗闇に月の光だけが降り注ぐ静寂の場。
そこには、もうすでにアランの姿は消えていた。
まるで、初めからいなかったように。