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そして姫君は恋を知る  作者: 未華
狂気と愛情編~そして姫君は想いの名を知る~
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月夜に舞い降りるは暗殺者

カイル視点。

招かざる客が訪れる。

 中庭でぼんやりと独り月を見上げる。

 ランス大陸には太陽がないと聞いたことがある。

 それなのに、トリア大陸には月が出ている。

 月の女神はなぜ、トリア大陸にも月を残したのだろう?

 二度と立ちいらないそこに、自分の痕跡を忍ばせたのは、感傷なのか執着なのか。


「いっそ二度と会えない場所に行くのなら、あきらめがつくのか」


 エルンがもたらした、リルディの迎えが来るとの情報。

 もうすぐリルディは此処を離れる。

 いつか来る終わりがもうすぐ来るだけのこと。


(覚悟はしていたはずだ)


 それなのに行き場のない混とんとした想いが、俺の心を蝕んでいる。

 諦めることには慣れているはずだった。

 それなのに……。


「王様がこんなところで一人とは意外」

「誰だ!?」


 唐突に聞こえて来た聞き慣れぬ声に、俺はその場から跳ね起きる。

 自然と腰に下げた剣へと手が伸びる。


「いえいえ。名乗る程の者じゃありません」


 二度目の緊張感をかいたその声で、相手が真上にいることを把握する。

 月夜に浮かぶのは、不可思議な色合いの髪に瞳の男。

 どこか楽しそうな表情が緊迫感を欠く。

 だが、その様子にますます危機感が募る。


「魔術師か」


 問いに、肯定するように男はニヤリと笑う。

 前の暗殺者侵入以来、ユーゴが徹底的に警備の強化を行ったはずだ。

 屋敷のこんな奥までやってくるのは、容易いことではない。

 しかも、この男は俺を“王”と呼んだ。

 俺の素生を知っている魔術師。

 いい客であるはずがない。


「何用だ?」

「ふーん。全然動揺しないのな。つまんねー」

「答えろ」

「せっかちだな。そんなに死に急ぎたいわけ?」


 パチンッ。


 男は手を空に向け指を鳴らす。

 それと同時にその場は、広いだけの真っ白な何もない空間に代わる。


「貴様、何をしたっ」

「外部と遮断して視覚を惑わせているだけ。ただ、外部から干渉出来ないし、別空間に移動したみたいなもんだな」


 つまりは異空間に閉じ込められたということか。

 助けが来ることは期待できそうにない。

 だが、俺にとっては都合がいい。

 外部からの干渉がないのなら、俺も魔術を使えるということだ。


「それで、貴様は俺を殺しに来たわけか?」

「ご名答。話が早くて助かる。でもさ、それだけじゃないんだなっと」


 ヒュインッ。


 唐突に投げつけられたのは、魔術で作り出された光りの弾。


「チッ」


 素早く剣を鞘から引き抜き、軽く魔術を練り込み光の弾を切りつける。


 シュッ。


「いい動きじゃん。でもそれダミーだから」

「!?」


 気がついた時には、後ろに移動した男が第二波を放っていた。


「くっ」


 よけきることが出来ず、肩に強い衝撃が走る。

 痛みに目眩を覚えながら、弾き飛ばされそうになる体を押しとどめるが、バランスを崩しそのまま仰向けに倒れ込む。

 そんな俺を、男は冷たい目で見下げる。


「あんたの所為で、姫さんに格好の悪いとこみせちまったんだよな」

「!!」


 そう言いながら、負傷した肩を容赦なく踏みつける。

 激痛で悲鳴すら出てこない。


「挙句、あんたがお持ち帰りするとか意味が分かんねーし。横取りは、アンの時だけで勘弁してほしーんだけどよ」


 男は強く肩を踏みにじりながら、まるで意味の分からなことを口走っている。


「くっ。調子に……乗るなっ!」


 バアァンッ!!


 もう片方の手に作り出した魔術を投げつけるが、男は寸でのところで避ける。


「っぶねぇ。そうだった。王様も魔術使えるんだったけな」


 横に飛びのいた男は、わざとらしく額の汗を拭うフリをするとニヤリと笑う。


「貴様、名を名乗れ」

「アラン・フェルミ。ここではそう名乗っている」

「まさか……」


 “アラン”という名に聞き覚えがある。


「でたらめを言うな。貴様が“アラン・フェルミ”であるはずがない」


 そうだ。

 アラン・フェルミは今、リルディを迎えにこちらに向かっている男の名だ。

 それに、あの男は確か赤髪だったはず。

 今目の前にいる男とはまったく違う色。


「こっちにもさ、色々事情があるわけ。ま、今から死ぬあんたに説明する気はサラサラねーけどな」


 シュルシュルッ!!


「なっ」


 突然に現れた光る蔦が、俺の腕に脚に胴にそして喉に巻き付く。


「あんときの借りを返すつもりだったけど興ざめ。あんた弱すぎ。飽きたから、もう死んでもらう。早く姫さんにも会いたいし」

「!?」


 巻き付く蔦が容赦なく俺の喉を強く締め付けた。


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