ラブ・トライアングル(1)
リルディアーナ視点。
訪れたその人物の目的とは?
「はぁ~……」
「リルディ、元気ない? 大丈夫?」
「へ? あ、うん。元気だよ! うん。全然元気」
知らないうちにため息が出ていた私を見つめて、心配そうなラウラに、慌ててニッコリ笑ってみせる。
少しだけ笑みはひきつっていたかもだけど……。
(カイル、どうしたんだろう?)
ここ最近ずっとカイルに会っていない。
レイと出会ったあの日、遅れて書庫に行ったけれどカイルの姿はなくて、その次の日もその次の日にも来なかった。
急に現れなくなったカイルのことが気がかりで、ため息ばかりが出てしまう。
「リルディ!!」
「へ? あれ、ネリー?」
「はい! これ」
いきなりやって来たネリーは、ティーセットが乗ったトレーを私の前に持ってくる。
何だか、ちょっと不機嫌そうにも見える。
「えーと? これって……」
「見ての通りのものよ。お客様にお出しして。あなたご指名なのよ」
「私を指名?」
「そっ。客室に案内したら、あなたにお茶を持ってこさせろって言われたの。ここは場末の飲み屋じゃないのよっ。メイド指名なんて聞いたことないわ」
不満げに口を尖らせている。
「ともかくお茶を出してくればいいのよね?」
「そうだけど。なんかいやーな感じがする。チャラチャラした感じの軟派っぽい男だし、変なことされそうになったら逃げるのよ!」
「う、うん。分かったわ」
真剣な顔で肩を掴むネリーの言葉に大きく頷いた。
(チャラチャラした軟派っぽい男ってもしかして……)
何となくその相手が誰なのか分かった気がする。
………………
お客様がいるという部屋に入ると、予想通りの人物がそこにいた。
「こんにちは。リルディ」
目の前には人懐っこい笑みを浮かべているレイがいる。
「やっぱりレイだったのね」
「やっぱり? 僕が来ることを心待ちにしていてくれたのかな? それなら嬉しけれど」
「うん。また会えて嬉しいわ」
実は“チャラチャラした”というネリーの言葉で、レイが思い浮かんだのだけれど、さすがにそんなことは言えなくて、あやふやに笑って誤魔化す。
と、ふと部屋の隅から微かな溜息が聞こえてくる。
「やれやれ。メイドとの火遊びのために私は酷使されたわけか」
いきなり聞こえて来た声に驚いて振り返ると、いつの間にかそこにはもう一人背の高い男の人が立っていた。
サラサラの綺麗な長い黒髪。
華奢だけど引き締まった体躯。
レイ同様、北の国風な服装をしている。
ただレイのように華美なものではなくて、白を基調とした服装には、それほどの装飾もない。
腰に帯びている大きな剣がひと際目を引く。
スタスタと私の横を通り抜け、レイの座る客椅子の隣で足を止め、一歩下がり控えるように立つ。
(この部屋にいたことに全然気がつかなかった)
けっして存在感が薄いわけでもないのに、この人がいたことにまったく気がつかなかった。
あまりにも唐突な出現に面喰ってしまう。
「人聞きが悪い。遊びじゃない。僕は本気だよ」
「なお悪い」
機嫌良く答えるレイに、男の人は低く呟き眉をひそめ、私へと視線を向ける。
口を真一文字に引き結び、どこか不機嫌そうな表情をしている。
「あの?」
「あぁ。こいつは僕の供でテオって言うんだ。ほら? この間、突然いなくなった連れがコイツだ」
「いなくなったのは、お前の方だろう。方向音痴のくせに好き勝手に行動するからそうなる。少しは自覚し……」
「テオ? 君の主は誰?」
唐突にレイがピシャリと言葉を吐く。
「……」
「誰?」
憮然とした面持ちのテオさんと笑顔のレイ。
「……お前だ」
少しの沈黙ののち、憮然とした表情でテオさんは答える。
「誰のおかげで、君はここに居られるんだ?」
「……レイのおかげだ」
「そうだよね? 君は僕の下僕だ」
「あぁ」
何だか今サラっと恐い言葉を聞いた気がする。
傍で聞いているこっちが、何だか居たたまれない気持ちになってくる。
そんなハラハラした私の気持ちを余所に、レイは更に言葉を紡ぐ。
「僕から目を離すテオが悪い。違う?」
「悪かった」
「ふふ。分かればいいんだ」
爽やか……とも形容できる笑顔でレイはそう言い放つ。
(な、何だかまったく納得できない理由だったけど……)
あまりのやり取りに、私は口も挟めずにただ二人を見ていた。