運命の出会い?(1)
リルディアーナ視点。
新たな出会いは突然で……。
「リルディ? 空になにかある?」
「あ、ううん。ただ、今日もいい天気だと思って」
空高くある太陽を見上げ、固まりかけている体をほぐすため思い切り伸びをする。
「うん。洗濯物がよく乾くから嬉しい」
外でラウラと二人洗濯物を取り込みながら、麗らかな日差しに目を細める。
この頃は、やっとメイドの仕事にもユーゴさんの教育的指導にも慣れて来た。
『氷の君の嫌味……もとい指導に付いてきたリルディは、なかなか見込みがあるわよ』
最近、ネリーにそんなことをしみじみと言われてしまった。
(付いてきたっていうか、半分意地でしがみ付いているって感じよね)
ユーゴさんの態度は相変わらずで、まだまだ認められるのには、時間がかかりそうだ。
最初は何か言われる度にヘコンでいたけれど、最近は闘志が漲るというか、むしろやる気が出てくる。
それに落ち込んでいる場合じゃないくらいに、毎日忙しいのだ。
「リルディ? 時間大丈夫?」
「あ! そっか。もうそろそろ行かなきゃかも……きゃっ」
ラウラの言葉に気を取られた瞬間、唐突に強い風が吹き抜けて、取り込もうとしていた最後のシーツが空高く舞い上がる。
「大変! 私、探してくるねっ」
「じゃあ、ラウラも一緒に……」
「ううん。大丈夫。ラウラは終わった分をお願い。すぐ戻るから!」
走りながらラウラにそう言い残して、私は急いで飛んで行ったシーツの捜索へと向かうのだった。
………………
飛ばされたシーツは、すぐに見つけることが出来た。
ただし問題は……。
「うわぁ。あんなに高いところに」
シーツは大きな木の上にひっかかっていた。
それは見上げるほど、上にありとてもじゃないけれど、手を伸ばして届く高さじゃない。
(時間もないし、仕方がないわ)
暫くの思案ののち、私は強硬手段に出ることを決意する。
辺りを見回し、誰もいないことを確認すると、スカートの裾を持ち上げ、動きやすいように縛りあげる。
「木のぼりなんて久しぶりだわ」
誰に言うでもなく呟く。
自慢じゃないが、木のぼりは得意なのだ。
今だって、その腕は衰えていない自信がある。
「よいっしょ!」
幹に足をひっかけて、慎重に上へ上へと昇って行く。
あっという間に、シーツが届く距離まで登りきった。
「ふふん♪ ざっとこんなものよ」
軽やかにシーツを取り上げ、上からの景色を楽しむ。
連なる工場の煙突からは盛大な煙が見える。
小さな建物が連なる場所は多分、住宅街なのだろう。
そして、それらを一段高い場所から見下ろすような大きなお城。
「あそこがイセン国城……」
ここから近いのか遠いのかよく分からない。
あそこに、イセン国王……私の結婚相手がいる。
その人に会うためにここまで来たはずだ。
クラウスたちが見つかったら、会いにいかなければいけない。
けれどそれはカイルたちとの別れにも繋がる。
クラウスやアランに早く会いたいという気持ちと、ここから離れたくないという気持ちが交差する。
私は、ここの人たちが好きだ。
この場所がカイルが……。
カイルのことを想い、苦しくなる胸を抑える。
「好き? あれ? 私は……」
自分の考えに動揺する。
カイルを好きだというこの気持ちは、今までのどんな”好き”より異なるような気がして戸惑う。
「あ!」
ぼんやりしていた私の手から、強い風にあおられシーツがまたも空に舞い上がる。
「だめ!」
咄嗟に手を伸ばし、シーツを掴み取る……が、バランスを崩して私は登る何倍もの速さで、地上へと落下していく。
「お、落ちるーーーーーーー!!」
このパターン前にもあったわ。
そう。カイルに落とされたあの時と同じ言葉を叫んでいる。
なんてことを、走馬灯のように思い返す。
(あぁ。今度こそダメだわ)
あの時より高さはないけれど、足の一つも折るかもしれない。
そう覚悟をしたのだけれど……。
「痛……くない?」
木の枝や葉にひっかかって多少の痛みはあるけれど、落ちた時の衝撃はさほどない。
シーツがすっぽりと私にかかっていて、どういう状況かよく分からないけど、ことのほか地面が柔らかい……というか、何だか感触が地面ぽくない。
「驚いた」
声がする。
知らない人の声が下から……下!?
私は慌ててかぶさっていたシーツを取る。
「!?」
男の人が私の真下にいる。
つまり、私がその人を下敷きにしているのだ。
まるで私が押し倒したかのような格好。
パニックになりながら、急いで体を離し立ち上がりかける。
「きゃっ」
と、あまりにも急いでいた所為で、足がもつれてバランスが崩れる。
「おっと!」
倒れかけた私を、体半身起こした男の人が器用にも抱きとめる。
おかげで、私の顔は地面ではなくて、男の人の胸に激突する形になった。
痛さは半減だけど、恥ずかしさは倍増だ。
「大丈夫?」
「は、はい。ありがとう……」
あまりの恥ずかしさに声を上ずらせながら、恐る恐る胸に埋めていた顔を上げた。