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そして姫君は恋を知る  作者: 未華
間章(2)~そしてイセン国を目指す者たち~
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騎士とメイドと王子様(3)


「くっ。卑怯者め!」


 人質を取られ、アルテュール殿下は動揺を示す。


「馬鹿が。盗賊が卑怯なのは当たり前……なっ!」


 一瞬の隙をつき、イザベラは身をかがめ背後に回り込み、太ももから素早く出した武器を、盗賊のこめかみに突き付ける。


「そんなハッタリに乗るかよっ。そんなおもちゃで何が出来るつーんだ?」


 自分に向けられているものが何か分からない盗賊は、小馬鹿にしたように言い放つ。

 イザベラが持っているのは小型の銃だ。

 まだあまり流通していない最新の武器。


「これはですね、引き金を引くと小さな弾が出るんですのよ?」


 パァンッ。


 優しくそう説明すると、銃を持つ角度を変えて引き金を弾く。


「ひっ」


 弾は盗賊の頬を掠めて、簡易テントに穴をあける。


「あ、ごめんなさい。私、扱いが下手ですのよ。次はうっかり頭を撃ち抜いてしまうかもしれませんわ」


 銃を構えたまま、可愛らしくニッコリと微笑む。

 銃口からは煙が細く上がっている。


「……恐ぇ」


 それを見ていたアルテュール殿下はボソリと呟く。


「あはは」


 イザベラを本気で怒らせると恐いのは本当で、俺は思わず乾いた笑いを浮かべる。


「ちきしょう! 引き揚げるぞっ」

「覚えてやがれっ」


 勝ち目がないと悟った盗賊たちは、一目散に逃げ出す。

 俺とアルテュール殿下に加え、イザベラの得体のしれない武器に度肝を抜かれたらしい。

 瞬く間にその場から消え失せた。


「ふふ。姫様付きのメイドを舐めないでいただきたいですわ」

「さすが、イザベラだ」

「何でメイドがそんな怪しい武器を持っているんだ?」


 度肝を抜かれたのは、アルテュール殿下もだったらしい。

 唖然とした顔で、イザベラの持つ銃を見ている。


「刃物よりずっと扱い易いんですのよ? 王家に仕えるものとして、これくらいの自己防衛技術当然ですわ」


 剣を向けられた時はヒヤリとしたが、普段の訓練がしっかりと生かされていて、鮮やかな身のこなしだった。

 だが、イザベラの体は微かに震えている。


「よくがんばった。初めての実戦にしては上出来だよ。ただ、次からは俺に守らせてくれると嬉しいんだけど」


 頭を優しく撫でてから髪に口づけを落とす。


「メイド心得、第六条。メイドは自分の身は自分で守ること。ですわ。クラウスは、自分のことだけ考えていればよろしいのですわ」


 俺の言葉にイザベラはツンッとそう言い返す。


「そうはいかない。俺はイザベラを守りたいんだ」

「そんな柔じゃなくてよ?」


 心外そうに頬を膨らませるその姿が可愛くて、再度頭を撫でくりまわす。


「貴様ら、絶対俺のこと忘れているだろ?」


 “このバカップルが”という視線を向けられ、イザベラは我に返り俺を押しのける。


「えっと、アルテュール殿下も御強いんですのね。体術の心得が御有りだなんて意外でしたわ」


 王族の嗜みとして、剣術はある程度習うが、確かに体術というのは珍しい。

 イザベラの言葉に、アルテュール殿下は暗い笑みを浮かべる。


「……こちらの方がいざという時に役立つんだ。相手はほぼ丸腰の時に来るのでな」

「えーと、それって……」


 その言葉で何となくピンッと来てしまった。


「アルテュール殿下もご苦労がおありですのね」


 同じく察したイザベラが、しみじみと言葉を紡ぐ。


 16歳にして、未だに女の子に間違えられるアルテュール殿下。

 しかもその顔だちは美しい。

 男性に恋慕されたことも多々あると風の噂で聞いたことがある。

 遊学中にも色々と御有りだったのだろう。


「あと五年……いや三年後を見てやがれ!」


 グッと拳に力を込め、アルテュール殿下は吠えるように言うと踵を返す。


「今度こそ、イセン国へ向かう。リディを救い出すのだ!」


 砂馬に颯爽とまたがり、アルテュール殿下は力強く言い放つ。


「しかし、姫様が本当にイセン国にいるのか……」


 そもそもいたとして、どうやって見つけ出すかが問題だ。

 イセン国の領土は広い。

 そのうえ、人の出入りもエルン国の何百倍とあるはずだ。


「不本意ではありますが、あの魔術師に姫様の居場所の地図も受け取っていますわ」

「本当なのか!?」


 イザベラが小さなメモに書き出された地図を差し出す。


「何かの罠だと思う?」

「分からない……」


 あの男の差し金ではないとは言い切れない。

 だが、俺の居場所をイザベラに伝えたのもアランだ。

 これが正しい情報なのか、かく乱するための偽の情報なのか、今の俺には分からない。


「手がかりがそれしかないのなら、行くしかないだろう。悩むだけ時間の無駄だ」


 アルテュール殿下の言葉が俺の迷いを断ち切る。


「危険があるかもしれませんよ? 本当によろしいのですか?」

「くどいな。危険などもとより承知だ。俺は自分の意志でここまできた。これから何が起ころうと、それはすべて俺自身が選んだこと。迷いはない」


 昔と変わらない。

 そう思っていたが、そうではなかったようだ。

 確固たる意志を秘めたその顔は、昔よりずっと大人びて見える。


「承知致しました」


 俺は敬意を持って礼を向ける。


「イザベラは……」

「聞いたら怒りますわよ? 姫様に会うまでは帰りませんわ」

「分かった。一緒に姫様を迎えに行こう」


 砂馬に跨り、イザベラを引き上げる。


(姫様、もうすぐ迎えに行きます)


 太陽を仰ぎ見て心の中で呟くと、同じ想いを秘めた二人とともに、イセン国へ向かい走り出した。


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