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そして姫君は恋を知る  作者: 未華
メイドの日々編~そして想いは日々積み重なる~
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紅い目の少女

リルディアーナ視点。

紅い目のその少女は……。


「はいはーい。ここが、リルディの部屋ね。じゃ、また明日!」


 色々なことがありすぎて、疲労困憊の私をネリーは部屋へと連れてきてくれた。


「ネリー、ありがとう」

「この借りはきっちりツケにしておくからね」


 軽くウィンクして、そんなことを言って去って行った。


(ここが私の部屋かぁ)


 一人残された私は、早速赤茶けた年季の入った扉を開く。


「失礼します」


 思わずそう呟いて部屋の中に入る。

 こじんまりとした部屋には、壁にベットが一つあり、小さな棚がそこにピッタリとついている。

 部屋の真ん中に大きな布がかかり仕切られていて、どうやら奥にも少しスペースがあるみたいだ。

 扉を閉めると、不意に仕切り布が開け放たれ、意外な人物が現れる。


「あなたは……」


 そこにいたのは、あどけない少女。

 見た目は12、3歳くらいだろうか。

 こぼれ落ちそうなほど大きな瞳の色は赤。

 まるで夕日をその目に嵌めこんだような色だ。

 流れる髪はウエーブがかっていて、絹糸のように細く触ったら解けてしまいそうだ。

 そしてなにより目を引くのは、頭の上にある二つの長い黒い耳。

 真ん中からペッタリと折れ曲がってはいるけれど、時折微かに動いている。

 それがただの付け耳などではなくて、彼女の一部なのだということが分かる。


「リルディ。お帰り」


 長い耳の少女が、壮絶に可愛い笑顔で私の名を口にした。


「あ、うん。ただいま」


 流れ的につい、私もつられて笑顔で答える。

 私の返事に、長い耳を微かに動かしながら、もう一度笑顔を向ける。


(か、可愛い……)


 何だかギュっと抱きしめて、頭を撫でくりまわしたい衝撃にかられてしまう。


「リルディ?」


 手を伸ばしたい葛藤と戦っている私を、少女は可愛らしく小首をかしげて不思議そうに見ている。


「あれ?」


 私、この子の声を聞いたことがある気がする。

 しかもつい最近。

 そう、この声の感じは……。


「も、もしかして、ラウラ?」

「うん」


 当たり前みたいに即答されてしまった。


「え? えぇ!? ラウラって耳長族だったの!!」


 耳長族……獣人と呼ばれる種族の一つで、頭の上に長い耳があり、赤い瞳が特徴だ。

 ただし、種族間の繋がりが強くて、人里には寄り付かず、森の奥深くで生活しているという。

 しかも圧倒的に少数民族のため、その姿を見ることが出来るのは稀だ。

 私だって物語で読んだことがあるだけで、こうして実際に会うのは初めてだ。


「うん。そうだよ」


 ラウラはコックリと頷く。


「びっくりした。昼間会った時とは、全然違う雰囲気なんだもん」


 グルグルメガネで赤い瞳は見えないし、大きなキャップで長い耳は隠れていて、まさかこんなに可愛らしい姿だなんて、想像もしていなかったのだ。


「ラウラの容姿はとても目立つ。だから、人が大勢いるところでは、目の色と耳を隠しているの」


 何だか、悪いことを見つかった子供のようにシュンとして答える。


「そうだったんだ。でも、こんなに可愛らしいのに隠してしまうなんて勿体ないわね」


 思わずホゥッとため息が漏れてしまう。

 愛くるしいその容姿は、見ているだけでも和んでしまう、不思議な魅力がある。


「か、可愛いなんてそんなことはない!」


 長い耳がピンッと立って、力強く全力否定されてしまった。

 どうやら謙遜ではなくて、本気でそう思い込んでいるらしい。


「そんなことないのに……」


 未練がましく呟いた私の言葉に、ラウラは瞳を潤ませて大きく首を振る。


「うーん。ところで、どうしてラウラがこの部屋に?」


 今にも泣き出しそうなラウラの姿に、私は慌てて違う話題を持ちかける。


「あの、あの、ここはラウラの部屋でもある。だから、リルディは今日からラウラと一緒の部屋なの」


 真剣な面持ちで私をジッとみている。


「本当に? よかったぁ」


 私は安堵の吐息を漏らす。

 夜は苦手だ。

 一人で暗闇と静寂の中にいると、どうしても心細くなってしまうのだ。


「ラウラと一緒で嫌じゃないの?」


 大きな赤い瞳を更に大きくして、ラウラは驚いたように私を見ている。

 そのリアクションに、今度は私が首を傾げてしまう。


「嫌なわけないじゃない。すごく嬉しいよ。ラウラが一緒なら寂しくないもの」

「……」


 妙な沈黙が流れる。

 はっ。嬉しい理由が“寂しくない”なんて子供みたいって思われたかも。


「その、一人でも平気だけど、二人なら楽しいかなって」


 黙り込んでしまったラウラを見て、つい言い訳がましいことを付け足してしまった。


「……ラウラも、リルディと一緒嬉しい。」


 俯いてほんの少し目を閉じてから、顔を上げたラウラは、砂糖菓子のように甘い微笑みを私へと向けてくれたのだった。


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