不器用な想い(3)
「それは、お前が悪い!」
エルンストは、俺の話を聞き終え開口一番言い放つ。
「ありえないだろ!? 夜の廊下で婦女子を壁際に追い詰めて襲おうとするなんてっ」
昨夜の出来事を説明したのだが、どこをどう変換したのか、微妙に話を脚色している。
「襲おうとしたわけじゃない。勝手に話を作るな」
「だが、お前のしたことは、そう解釈されてもおかしくないことだろ?」
「……」
言われるまでもなく、確かにその通りだとは思う。
夜に廊下で待ち伏せ、相手を拘束して、泣く寸前までそれを解かずにいた。
しかも一瞬とはいえ、不埒な考えが脳裏をよぎったことも確かだ。
戸惑い怯え、泣き出しそうなリルディの顔を思い出し、激しい後悔の念が押し寄せる。
「まぁ、お前も相当落ち込んでいるみたいだけどな」
「別に俺は……」
落ち込んでいる。
どん底まで落ち込んではいる。
だが、それを悟られるのが嫌で、曖昧に言葉を転がす。
「リルディの名前を聞いた時のお前、ありえないくらい分かりやすかったぞ?」
クックッと笑うその顔は、昔の気安い時のものだ。
テオがいなくなり、自分の目標を見失い、周りのすべてが疎ましく苛立っていた時。
かなり邪険に扱っていたというのに、エルンストはまったくめげなかった。
そして俺が王位を継いだあとは、自らの功績でのし上がり、王直属となる第一隊の隊長として、目の前に現れたのだ。
今、俺の過去も現在も知り尽くしているのは、こいつだけなのかもしれない。
「で? こんなところに引きこもっている場合か?」
その言葉とともに、エルンストの瞳が真剣身を帯びている。
「……」
エルンストの言わんとすることは分かっている。
だが……。
『触らないで!』
『全然関係ない』
リルディの言葉を思い出し、息を吐き出す。
「オレはリルディのことが好きだ」
真っ直ぐに俺を見ながら、淀みない声でエルンストは唐突に言葉を放つ。
「!」
息をのむ俺を見て、エルンストは苦笑する。
「お前は不器用すぎる。自分の気持ちは、きっちり言葉にしないと伝わらないものだ。悪いと思っているのなら、真剣に謝って来い。彼女を慰めてあげたいが、きっとそれはオレの役目じゃない」
俺に向けた目が「分かっているのだろう?」と、問いかけている。
「もっとも、誰かさんが役目を放棄するのなら、オレが勝手に出張るがな」
いいように言いくるめられたようで癪に障る。
こいつの口車に乗るなど馬鹿げている。
「……リルディは今どこに?」
だが、リルディに手を出されるのはもっと腹が立つ。
エルンストに……というよりも、不甲斐ない自分自身にだ。
「仕事中だが、午後に一度休憩が入ると聞いたので、その時には此処に来るように話してある」
「なっ」
さすがに絶句する。
やられた。
こいつは、最初からそういうつもりだったのだ。
「やはり貴様は態度がでかすぎる。誰が誰に敬意を払っているというのだ」
此処は俺のプライベートルームだ。
そこに勝手に来るよう言うなど、とても敬う相手への態度ではない。
「人聞きが悪い。兄貴分として、ひと肌脱いでやったんだろうが」
憮然とする俺に向かって、エルンストは抜け抜けとそんなことを言い放った。