表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そして姫君は恋を知る  作者: 未華
間章~そしてその頃他の面々は~
45/180

その頃、騎士は……(2)


 イサークは肩を竦め、俺の視線を受け流す。


「アラン、どういうつもりで此処に連れてきたっ」

「言ったろ? お前は、姫さんと離れてパニックになって発作を起こした。あれを治められる相手は、俺は二人しか知らねーし。姫さんがいないとなれば、あともう一人だ」

「そういうことだ。もっとも、俺はリルディアーナのように浄化できるわけじゃない。ただ押さえ込むだけ。体への負荷はかなりのものだと思うがね」


 頭痛と吐き気。

 体中を占める倦怠感。

 それらは、無理に意識を引き戻された代償か……。


「なかなかしぶといものだね。君にかけられた呪いは」


 イサークの他人事のような言葉に、怒りは更に強くなる。


(その呪いをかけた張本人が言う台詞か!)


 かみ締めた奥歯がギリリと音を立てる。

 そんな俺の姿を、イサークは愉快そうにみている。

 そうだ。

 こいつはこういう男なのだ。

 人の絶望をみて優越感にひたる。

 腐りきった男。

 暗殺者たちの頂点に立ち、闇の世界ではその名を知らないものはいない。

 俺は姫様と出会うまでは、こいつに強い呪いをかけられ、殺人人形キラードールにされた。

 意識を支配され、それでもギリギリのところで自我は保たれる。

 死ぬことも許されない生き地獄。

 姫様に拾われ、騎士となった今でも、この男の呪いの効力は完全に消えない。

 忌まわしい呪縛。


「……」

「おや? もう行ってしまう? そんなに慌てて帰ることないだろう?」


 こんなところでこの男と一緒にいたら、気が狂ってしまう。

 俺は踵を返すと出口へと向かう。


「積もる話しもあるだろ。たとえば、リルディアーナのこととか」


 無視を決め込んでいた俺は、その言葉に動きを止める。


「アランが、リルディアーナをすごく欲しがっているのは気が付いているだろ?」

「げっ。ここで俺の名を出すんですか?」

「ふふ。俺もちょっと興味が出てきたんだ。俺の完璧な呪いをここまで浄化するなんてすごいじゃないか。彼女は、なかなかの逸材だよ。あぁ。そうだ。君がいなくなった穴埋めに……」

「貴様っ!!」


 頭に血が上り、沸き立つ怒りを抑えられない。

 イサークへと向かい、走りながら剣を引き抜きそれを振り上げる。


 ガッ!


 だが、剣はイサークに掠ることもなく空を切る。


「おしいね」


 優雅に剣の道筋を避けたイサークは、すでに俺の真後ろに立っていた。


「姫様には指一本触れさせないっ。もし近づけば、どんな手段を使っても貴様を殺す!」


 いや、刺し違えてでもここで殺すべきかもしれない。

 この男は、目を付ければ執拗に追い回す。

 まるで蛇のような男だ。


「それは困った。俺はあいつ・・・との誓約がある所為で、お前には手出しが出来ないというのに。俺は完全に不利だな」

「いや、それはそんな嬉しそうに言う台詞じゃないでしょうが。クラウスもおさの挑発に乗るなよ。姫さん探しに行くんだろ?」


 アランの目が”早く出ていけ”と促している。


「……」


 剣を鞘におさめ、怒りで震える体を抑える。

 冷静にならなければいけない。

 今のこの状態で戦えば、ただの無駄死にになるだけ。

 今優先すべきことは、姫様を見つけ出すこと。


「なんだ。少しは遊んでくれるかと思ったんだが。ま、いいか。……久しぶりの再会の記念にひとつ、いいことを教えてあげる。リルディアーナは無事だよ。しかもすでに、イセン国についている」

「……」

「信用出来ないって顔だね。でも俺は、無意味な嘘は付かないよ」


 やはりこいつの思考回路はおかしい。

 なぜそんな話を俺にするのか。

 いや、混乱させて楽しんでいるのか……。


「あと、あいつに会ったら言っといて。迂闊に、コレを使ったこと後悔するかもってね」


 自分の髪を結っている青い宝石のついた飾りゴムを持ち上げる。


「それは……」

「誓約だから、殺人人形キラードールには手を出さない。だけど、その代償は大きいかもしれない」


 暗に姫様の存在を匂わしている。

 それは、俺に対しての言葉でもある。


「俺が姫様を守る。あんたの好きにはさせない。絶対に」


 いつかは断ち切らなければならない相手だ。

 今はまだ無力だが、必ず息の根を止めてみせる。

 俺の手で必ず。


「ふぅん。それは楽しみだ」


 せせら笑うかのようなイサークの言葉。

 絡みつくようなその視線に吐き気がする。


「その体で砂漠を抜けるつもりか?」


 いつもより言葉少なげだったアランが躊躇いがちに言葉をかける。


「……」


 俺は何も答えずに部屋を出る。


 イサークのところにいた時、仕事のペアの相手は常にアランだった。

 友人だったとは言わない。

 だが唯一、親しい知り合いだった。

 だから、姫様の騎士になった後、いつもフラリと現れるアランを警戒しつつ、どこか受け入れていた。

 だが、次に会うときは敵同士になるだろう。

 そのことが少し寂しいと感じている自分が意外だった。


(姫様は悲しむだろうな)


 そんなことを思い首を振る。

 今はただ、一刻も早く姫様を見つけ出すのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ