表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そして姫君は恋を知る  作者: 未華
間章~そしてその頃他の面々は~
44/180

その頃、騎士は……(1)

クラウス視点。

リルディアーナと離れ、たどり着いた場所は……。


 楽しそうな笑い声が聞こえる。


「姫……様?」


 瞼を開ければ、目の前には姫様の姿。

 かがみ込み頬杖をして、横たわった俺の顔を覗き込んでいる。


「クラウスってば、ずーっと寝ているんだもの」


 からかうように言いながらクスクスと笑う。


「そんなに寝ていましたか?」


 ここはどこだろう? 

 どうして、俺は寝ていたんだ?


 ぼんやりとした頭で考え、イセン国を目指し、途中で襲われたことを思い出していく。


「そうだ! 魔術で飛ばされたんじゃないですか!!」


 アランの馬鹿の魔術で空を駆け、途中で魔術師に攻撃され、別空間に飛ばされた。


「思い出した?」


 おかしくてしょうがないというように姫様はまたも笑う。


「よかった。目を覚ましたら姫様の姿がなくて、俺……」

「それで現実逃避で眠っちゃうってどうなの?」


 不満げに頬を膨らませて、あきれたように言われてしまった。


 そういえば、ひどく頭が重い。

 かなり長い時間眠っていたのかもしれない。


「も、申し訳ありません」

「悪いと思うなら、早く起きてよ」

「? いえ、もうちゃんと起きていますよ?」


 頭は重いが、意識はしっかり覚醒している。

 俺の言葉に姫様は、軽く息を吐き、笑みをかき消し俺を真っ直ぐに見る。


「ううん。クラウスはまだ眠ったままなんだよ」


 立ち上がり、俺から離れると、ひどく悲しそうな顔で目を閉じる。


「え?」


 サラサラと砂が流れる。

 それは姫様の体から崩れてきたもの。

 手から腕に腕から肩に、姫様の体はゆっくりと崩れ砂となり流れていく。


「姫様!」


 伸ばした手は空を切る。

 砂漠で襲われ飛ばされたあの時のように。


「やっと起きたかよ」


 重い頭に聞こえてきた、あきれを含んだ声。


「アラン?」


 ぼんやりとした視界に赤髪がかすめる。

 意識が混濁していて分からない。

 ここはどこで、なぜアランがいるのか?

 どうして俺はこんなところで寝ている?


「姫……様」


 無意識に呼んだその名で、いっきに意識が覚醒する。


「姫様はっ!?」

「魔術で飛ばされた時にはぐれた。で、お前は発作で倒れた。まったく、ここに運ぶのも骨が折れたぜ」


 その言葉に半身を起こしその空間を見渡す。

 周りを取り囲むのはひび割れた灰色の壁。

 粗末なベッドと机だけの部屋。

 一つしかない窓には布もかかっておらず、ただそこだけが切り取られたように青い空が見える。

 それは遠い昔に見たことがある光景。


「ふざけるな……此処は……」


 言いかけて、吐き気がこみ上げる。

 ズキズキと頭が痛み眩暈がひどい。

 体が不調だからという理由だけじゃない。

 この場所を、俺の体は全力で拒絶しているのだ。


「お目覚めか? 久しぶりだな。殺人人形キラードール


 身の毛がよだつとはこのことだ。

 その声に、体が知らず知らずのうちに震えだす。


「感動で声も出ない?」


 余裕を含んだその優しく柔らかい声は、真綿で首を絞められるかのように、俺の精神を追い詰める。


「……貴様は」


 イサーク・セサルはそこにいた。

 俺がこの世でもっとも厭い憎む相手。

 イサークと認識すると同時にベッドから降り……いや、正確には落ちたのだが、そのまま体を壁に伝わせ、イサークとの間合いを取り、剣を引き抜く。

 体に力は入らず、何度も膝を崩しながらも、やっと剣を構える。


「相変わらず、いい目をする子だ。手放したのがつくづく悔やまれる」


 喉を鳴らして、そんな戯言をほざいている。


「黙れ」


 こいつの声は不快な雑音にしかならない。


「落ち着け、クラウス。また発作が起きるだろ。お前がおかしなことになったら、姫さんが泣くぞ」

「そうだ! 姫様……」


 アランの言葉に、徐々に冷静さを取り戻す。


「へぇ? リルディアーナはうまく殺人人形キラードールを飼いならしているようだね」

「貴様が、姫様の名を口にするなっ」


 怒りが恐怖を勝る。

 震えはもう収まっている。

 大丈夫だ。

 俺はもう、こいつの”人形ドール”なんかじゃない。

 姫様の笑顔を、イザベラに始めて触れたときの温もりを思い出す。


 俺は数メートル先にいる、かつての主を真っ直ぐと見据えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ