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そして姫君は恋を知る  作者: 未華
決意編~そして姫君はメイドになる~
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姫君、メイド見習いになる(2)


 案内された部屋に入ると、そこにはカイルとエルンストさん。

 そしてユーゴさんがいた。


「失礼します」


 何となく気恥ずかしさを感じつつ、部屋の中へと入る。


「……」

「……」

「……」


 視線が痛いわ。

 しかも無言ていうのがまた困る。

 チラリとカイルをみると、バッチリと目が合ってしまった。


「えっと……」


 何と言っていいか分からず、とりあえず笑ってみたけど、あからさまに視線を逸らされてしまった。

 まるで見てはいけないものを見てしまった。

 と言うようなそんな反応。


(そんなに変なわけ!?)


 何だか軽くショックを受ける。

 隣にいたエルンストさんはエルンストさんで、食べかけのお茶菓子を落したまま、私を凝視しているし……。

 ものすごく居たたまれない気分になってしまった。

 そんな二人とは対照的に、ユーゴさんは特に驚く様子もなく涼しい顔。


「どうやら、サイズはピッタリのようですね」


 落ち着いた声でそう感想を述べる。


「これはユーゴさんが?」

「えぇ。そうです」


 すんなりと肯定の言葉。


「ユーゴ……。これはどういう冗談だ? お前にこういう趣味があるとは知らなかった」

「冗談にしては強烈過ぎます。可愛らしいですが、なぜメイド……」


 二人に奇異な眼差しを向けられ、居たたまれない私は、助けを求めユーゴさんを見る。


「とりあえず、お座りください」


 促され、私は手近にあった椅子へと腰掛ける。


(視線が痛い。すごく痛いんだけど!)


 見られているとよく分かるヒシヒシと感じる強い視線。

 小さい頃から金の髪色の所為で、こういう好奇な視線には慣れてはいるんだけれど。

 やっぱり落ち着かない気持ちになる。


「着るものを用意いただいたのは嬉しいんですが、なぜこの服なのでしょう? 理由、お聞かせいただけますか?」


 カイルとエルンストさんの視線をヒシヒシと感じながら、ユーゴさんへと問いかける。


「その前に、自己紹介がまだでしたね。私はユーゴ・アリオストと申します。この屋敷全般を取り仕切る、執事をしております。以後お見知りおきを」


 軽く目礼をするユーゴさん。

 ビシリと背筋を伸ばしその場に立っている姿は、威風堂々としていて、燕尾服を着ていなければ執事とは分からない。

 執事……といよりは高貴な貴族みたいだ。


「こちらこそ。私はリルディです。訳あってこの国へ来たばかりで……」

「存じ上げております。クラウス殿からお聞きしておりましたので」


 いきなり出てきたクラウスの名に驚き、私は目を瞬かせる。


「お前、リルディのことを知っているのか?」


 それはカイルにも思いがけなかったことらしい。


「いえ。私が知っているのは、クラウス・バーナーという者です。近々知人の少女と共に、イセン国に来ると聞いておりました」

「そのクラウス殿とは、どういった知り合いなのでありますか?」

「彼は南の小国の騎士。私とはとある方を介して知り合いました。イセン国には、他に知り合いもいないとのことで、私を頼ったのでしょう」


 クラウスが”騎士”であることを知っているということは、この人は本当にクラウスの知り合いみたいだ。

 確かに、その土地に住む人物とコンタクトを取っておくことはよくあることだ。

 時々夜に、クラウスが文をつけているのをみたけれど、それはユーゴさんに宛てたものだったんだ。


「それで、なぜリルディがそいつの連れだと?」

「聞いていた特長に酷似していましたので。もしやと思い、彼の名を出してみたのですが、まさか本当にそうだとは驚きました」


 ほんの少し肩を竦ませてみせるユーゴさん。


「話は繋がりましたが……。それでなぜメイド服を?」

「クラウス殿に、その知人の少女の仕事先を探してほしいと頼まれていたのです。この屋敷はちょうど人手不足でしたので、どうせ面倒をみるのならついでに、ココでメイドをしてもらおうかと思いまして。仕事も見つかり一石二鳥でしょう?」

「えぇ!? な、ちょっと待ってください!」


 どうしてそんな話になっちゃっているの!?

 私は、結婚相手のイセン王に会いに来たはずなのに。

 それがどうして、職探しにすり替わっちゃっているの?


「どうかされましたか? メイドでは不服でしたか?」

「そ、そうではなくて……」


 確かに、“国王に会う為に”なんて、クラウスが説明出来なかったのはわかる。

 きっと、適当な理由をでっち上げて、それが“知人の少女の職探し”ということなのだろうけど。

 いきなりメイドだなんて……。


「まさか、タダで此処においてもらうつもりではないですよね? 世の中、そんなに甘いものじゃないんですよ?」


 絶対零度のユーゴさんの冷たい視線に、私はその場で固まるのだった。


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