姫君、最悪の出会いを果たす(1)
リルディアーナ視点。
最悪な出会い。
その出会いがすべてを変える。
翌朝。
快晴の中、空を飛ぶ。
「クラウス、うまく飛べるようになったのね」
隣りを飛ぶクラウスは、まだ危なげではあるが、何とか様になる飛び姿をしている。
「はい! 俺、猛特訓しましたから。アランの奴は途中で逃亡したので、後半はイメージトレーニングでしたけど」
「あれだけ付き合ってやったんだ。ありがたく思え。いくら俺だって、魔術連発は疲れるつーの」
睨むクラウスを気にも留めず、アランはあくびを噛み殺している。
「二人ともありがとう。おかげで、イセン国に早く着けそうだわ」
「あはは。本当に予定外に順調ですね。……どこかの誰かのおかげで……な」
「クラウス。殺気だった目が怖えー……!」
いつも通り、二人の言い合いが始まりかけたその時、アランの顔色が変わる。
眉間にきつくシワを寄せ、はるか遠くに目を向ける。
緊迫した感じがピリピリと伝わってくる。
「どうした、アラン?」
同じく異変に気づいたクラウスが、不審そうにアランの目の先を追いかける。
「何もないみたいだけど……」
アランは視線を前に向けたまま、手だけで私の言葉を制す。
「まじぃ。防御すっけど、衝撃来るからな」
「え? どういう……きゃあっ」
意味が分からず問いかけようとした時、いきなり目の前で光が弾け振動で体が揺れる。
「何が起きたの?」
目の前で起こった出来事を理解する間もなく、光の球が次々と飛んできて目の前で弾けていく。
「姫様!」
クラウスは私を引き寄せると、そのまま抱き上げ光の玉から背を向ける。
軽い衝撃が、クラウスを通じて私にも伝わってくる。
「クラウス!?」
私たちに当たる前に、光の玉は何かに弾かれ消えていく。
けれど、あんなものをまともに受けたら、どうなってしまうか。
そう考えると血の気が引く。
「大丈夫。アランが魔術で防いでいます。ですが、万が一ということがあります。動かないで下さい」
落ち着いたクラウスの声に安堵する。
それにしても、あれほど空の上を苦手にしていたクラウスが、器用にも私を抱き上げ、衝撃に耐えてうまくバランスをとっている。
いざという時、クラウスは本当に頼もしい。
「俺を見くびんじゃねーぞ。こんなん、痛くもかゆくもねぇっつーの!」
クラウスの背中越しで姿は見えないが、アランのいつもの軽口が聞こえてくる。
「これって一体どういうことなの!?」
「攻撃されている。それしか分かんねーよ。魔術師同士が鉢合わせなんて、そうそうある話じゃねーのに。意味分かんねー!」
私の問いに、忌々しげにアランが声を荒げる。
「アラン! お前、何か恨みを買っているんじゃないのか!?」
「恨みなら山と買ってけど、こんな力の強い魔術師には覚えがねーよ」
二人の会話の合間にも衝撃は伝わってくる。
攻撃はまだ続いているらしい。
「なんとしても耐えぬけよ。死んでも姫様はお守りしろ!」
「だからやってんだろ! 気が散る。黙れ」
イライラとしたアランの声。
切羽詰って余裕がない。
こんなアランを見るのは始めてだ。